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|カンヌ映画祭|華々しさの陰で語られる人権問題

【カンヌIPS=A・D・マッケンジー】

ここではオープニング作品の「グレース・オブ・モナコ―公妃の切り札」のことはいったん忘れた方がいい。今年の(第67回)カンヌ映画祭で最も注目された作品のいくつかは、人権や報道の自由について取り扱ったものだった。しかもこれらの作品は、監督たちが作品に込めた想いを視聴者に伝えたい一心で、資金・検閲・インフラ面での様々な困難を乗り越えて制作・出品に漕ぎつけたものである。

この恐怖政治が吹き荒れたなかで、2人の子どもを抱えた若いカップルが、正式に結婚していなかったことが宗教上の「罪」になると咎められ、石打ちの刑に処された。「この事件が映画制作の動機となりました」と振り返るシサコ監督は、映画の導入部分で「この処刑は言語に絶する犯罪行為に他なりません。それにも関わらず、メディアは概ねこうした犯罪行為に対して無関心を装ってきました。」と述べている。

またシサコ監督は、「イスラム過激派がインターネットに投稿した処刑の様子を撮影した映像クリップは、本当に恐ろしいものでした。女性は最初の投石で即死でしたが、男性の方は暫く苦痛に満ちた悲鳴を上げていました。」「(映画で再現している)このシーンは目を覆いたくなるようなものであることは良く分かっています。また、こうしたショッキングな内容で映画を宣伝する意図は全くありません。しかし事実を知らないふりはできないのです。私は、両親の死は愛し合っていたことが原因だと知らされる子供をこれ以上増やさないよう願いつつ、真実を証言する義務があると思ったのです。」と付け加えた。

映画「ティンブクトゥ」では、抑圧と人権侵害を非難する手法として空想的な技法が用いられているほか、登場人物の人間性を強調するために、暴政に対して尊厳を持って対峙する女性たちの姿が描かれている。今回のカンヌ映画祭(5月14日~25日)ではこうした特徴が、この作品に対する多くの観客の支持へとつながったようだ。

各種賞の発表は5月24日に行われることになっているが、この真実の物語を、勇気をもって伝えたシサコ監督の努力が報われることを願っている人々は決して少なくない。

映画「イーレン(邦題『ひかり』)」で、1987年のカンヌ映画祭で審査員賞に輝いたマリの監督スレイマン・シセ氏は、こうした映画を制作する際の資金集めと海外に配給する困難について語っている。アフリカでは映画が芸術あるいは産業としてとらえられておらず、映画制作を支援しようとの政治的意思がなかなか出てこないのだという。

カンヌ映画祭には1700以上の作品が提出されるが、正式セレクションに選ばれる作品はメッセージ性の有無にかかわりなく、ほんの一部に過ぎない。

そうした中で人権問題、とりわけ報道の自由を取り上げた別の作品として、非コンペティション・スペシャルスクリーニング部門で上映された「風刺漫画家たち―民主主義の前線に立つ兵士」(監督:ステファニー・バロアット)がある。これは、チュニジアやコートジボワール、ブルキナファソ、フランス、イスラエル、ベネズエラ、シリアなどの国々で、リスクを覚悟で不正や偽善にユーモアで立ち向かっている12人の風刺漫画家に焦点をあてたドキュメンタリー映画である。

この作品には、例えば、シリアのバシャール・アサド政権を批判する風刺漫画を度々発表したことから、2011年に政府当局に拉致監禁され、拷問を受けたシリア人漫画家のアリ・フェルザット氏が登場する。

フェルザット氏は軍当局によって(二度と風刺画が描けないよう)利き腕の左手を折られたが、コフィ・アナン元国連事務総長とフランスの有名風刺漫画家プラントゥ氏が共同で立ち上げた「平和のための風刺漫画」が国際的な救出キャンペーンを展開した結果、何とかシリアから救出され、左手も手術で救われた。

このドキュメンタリー作品の制作に協力した「平和のための風刺漫画」には、世界40か国から100人以上の宗教的背景が様々な風刺漫画家が参加しており、対話を表現の自由、そして漫画家のジャーナリストとしての活動を促進する活動を展開している。バロアット監督はインタビューの中で、「この作品を制作するにあたって『平和のための風刺漫画』の活動から大いに刺激を受けました。プロデューサーのラデュ・ミヘイレアニュ氏は、この団体の人権活動と寛容を訴えるプラントゥ氏の運動を長年称賛してきたのです。」と語った。

バロアット氏はこれまでのドキュメンタリー映画作品の腕を買われてこの作品の監督に起用された。「私もプラントゥ氏や『平和のための風刺漫画』の活動を知り、深い感銘を受けました。」とバロアット氏は語った。

バロアット監督は、作品に登場する実在の12人の風刺漫画家のキャラクターについて「世界各地の悲喜劇を巧みに記録する愛すべき変わり者たち」と表現している。またこの映画作品では、風刺漫画家を「笑顔と鉛筆を唯一の武器に、民主主義を守るために己の命を危険に晒す人々。」と紹介している。

「この作品にはシリアスなメッセージとともに素晴らしいユーモアがちりばめられています。またこれは、観客の社会的な背景に関わりなく、寛容と人権擁護のために闘うことの大切さを思い起こさせてくれる作品となっていると思いますので、是非多くの人に観てもらいたいです。」とバロアット監督は語った。

皮肉なことに「風刺漫画家たち」の公開時に合わせて出版される予定だった関連本が、収録された作品の一つがカソリック教会を侮辱したものだとして、フランスの出版社によって差し止められるハプニングがあった。この事態は、フランスの他の出版社「Actes Sud」が助け舟に入る形で改めて5月28日に出版されることとなった。

今回のカンヌ映画祭でその他に包括的な視野から人間主義のテーマを扱った作品としては、コンペティション部門に出品されているヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督(トルコ)の「冬の眠り」がある。この3時間16分に及ぶ長編作品は、一見歴然とした貧富の格差を背景に織りなされる様々な人間関係と、人生における宗教の役割に焦点をあてている。

モーリタニアのアブデラマン・シサコ監督の作品「ティンブクトゥ」(マリにある古都の名称:IPSJ)は、最高賞「パルムドール賞」を狙うコンペティション部門18作品の中にノミネートされている。これは2012年にマリ北部が反政府イスラム過激派に占拠され、女性に厳格な服装規定が強制され、サッカーも音楽も喫煙も禁止された宗教的不寛容の下で生きる村人たちの姿とその中で起こった悲劇を描いている。

これは、トルコ中央アナトリアの壮大な自然を舞台に、そこに住む裕福な主人公と貧しい村人達のユーモアに満ちた興味深いやり取りが観客を魅了する作品に仕上がっている。そしてこの作品を観終わった時には、誰もが世の中をよくしたり、他人の権利を保護したり、或いは自身の罪を贖うには、はたして個人として何ができるだろうかという様々な思いを巡らせることだろう。

ここカンヌでは、「グレース・オブ・モナコ」(モナコ王妃故グレース・ケリーの秘話を誤った解釈で描いた作品)にはブーイングが飛んだが、「冬の眠り」はスタディング・オベーションをもって迎えられた。(そして、「冬の眠り」は、24日の授賞式で、コンペティション部門の最高賞「パルムドール」賞を受賞した:IPSJ)(原文へ

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