SDGsGoal12(作る責任 使う責任)|気候変動|ブータン王国、カーボンニュートラルを誓う

|気候変動|ブータン王国、カーボンニュートラルを誓う

【ティンプーIDN=ネドゥップ・ツェリン】

気候変動の悪影響に取組むために策定されたブータン王国の国家適応行動計画(NAPA)によると、南アジアの内陸国である同国は気候変動に対して大変影響を受けやすい状況にある。

脆弱な生態系を持つブータンでは、北部山脈地帯の氷河湖決壊洪水(氷河湖が何らかの原因で決壊して、大量の湖水が下流へ流れる現象:IPSJ)が常に存在する脅威である。NAPAによると、同国に存在する2674の氷河湖のうち、24が潜在的に危険な状態にある。

この数十年における気温上昇によりブータンの氷河は後退を続けており、その後退速度は年間30~60センチに及んでいる。そしてその中には既に氷河上の湖沼(Supraglacial Lakes)や地圧の限界点に亀裂を形成しているものもある。

 
世界銀行が新たに発表した報告書によると、ブータンの冬季平均気温は2050年までに1.5度~4度上昇するとみられている。「開発と気候変動に関する共通の見解」と題した同報告書は、コペンハーゲンで開催された国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の第15回締約国会議. (COP15)において発表された。

人口691,141のブータンは、山岳地域特有の脆弱な生態系のほか、自給自足農業と乾燥地作物栽培への依存、世界でも高い人口増加率(2.5~3%)、モンスーン雨への依存(年間降雨量の7割がモンスーン期のもの)、水力発電による電力輸出など、様々な自然条件の制約を受けている。

気候変動の影響は、ブータンに於いては、農作物の収穫の落ち込み、水不足、地下水の枯渇、森林面積の減少、生物多様性の危機、そして氷河湖決壊洪水の危機という形で顕在化してきている。

気象当局によるとブータンの平均気温は過去5年間で2度上昇しており、その結果、降雨をもたらすモンスーン到来の時期が遅れ、米の生産は深刻な被害を被った。

ダショー・ナド・リンチェン環境庁副長官は、ブータンの氷河は既に溶け出していると述べたうえで、「ブータンは、迅速かつ更に踏み込んだ温室効果ガスの削減に努力するとともに、途上国各国が気候変動の悪影響に対処できるよう、キャパシティ・ビルディング、技術移転、財政支援の面で、先進諸国に対して支援を強化するよう求めている。」と語った。
 
 実際のところ、ブータン政府代表はコペンハーゲンのCOP15において自国の気候変動対策プロジェクトを紹介している。そしてジグミ・Y・ティンレイ首相は帰国後、ブータンはは今後将来に亘って二酸化炭素排出量を同国の吸収量以下に止める(カーボンポジティブ)ことを公約した歴史的な気候宣言(Climate Declaration)に署名した。

気候宣言は、ブータン政府が同国の豊かな生態系保護に取り組んでいくことを公約するとともに、その見返りに気候変動が及ぼす悪影響を軽減、適応していくための支援を国際社会に対して求めたものである。

同宣言には「我が国は多くの社会経済開発上のニーズと優先事項を抱えた小さな山国の発展途上国であるが、生命が存続していける安全な地球を守っていくことほど必要かつ大切なことはないと感じている。」と記されている。

「従って、我々は排出する以上の二酸化炭素を吸収し温室効果ガス(GHG)の純吸収国としての地位を維持していくことを公約する。」

「私達は、我が国の吸収能力を超えた温室効果ガスを排出しないことを公約します。私達はそうすることで、国際社会に対して、世界の二酸化炭素の吸収タンクとしての役割を果たしていきます。ブータンはこの努力に対する見返りとして国際社会の支援を求めます。」と、冬季議会閉会後の12月11日、宣言に署名したティンレイ首相は語った。

「なぜなら、人口増加、農業増産、都市化、産業化といった課題に対処しながら今日の生態系バランスを維持していくには、相応の環境保全対策費が必要となるからです。」

またティンレイ首相は、ブータン政府とメディアは、同国が危機的な状況に直面している現実を国際社会に知らしめる責任があると語った。

「気候変動がもたらす影響はブータンの存立を脅かす実に深刻なものなのです。ジグミ・シンゲ・ワンチュク第4代国王も即位当初からこの脅威にどのように対処していくか常に頭を悩ませてきました。このような背景から、同国王は、世界で環境保全という概念が一般化するはるか以前から、環境保護論者として問題に対処するようになったのです。」

他の国々が持続可能な開発について議論している一方で、ブータンはジグミ・シンゲ・ワンチュク国王の指導の下、従来の国民総生産の概念に代わる国民総幸福量(GNH)という開発哲学を採用しました。そして自然環境保護は、GNH哲学を構成する4代支柱の1つを構成しているのです。(他の3つは、持続可能で公平な社会経済開発、有形、無形文化財の保護、良い統治:IPSJ)

農業大臣リョンポ・ペマ・ジャムツォ博士は、「気候宣言は、ブータン政府が環境にやさしい政策を施行するために経済的な代償を支払ってきた背景の中でなされたものです。そのような環境保全政策には、少数・高付加価値の観光開発、木材の輸出禁止、天然資源に対する高価格設定、そして、農民にとっては収入減になる化学肥料の使用抑制政策等があります。つまり、ブータンの豊かな生態系は偶然の産物ではなく、健全な環境政策の成果なのです。」と語った。

ジャムツォ農業大臣によると、ブータンの年間二酸化炭素吸収能力約630万トンに対して、二酸化炭素の総排出量は約150万トンである。従ってブータンのカーボンバランスはプラス470万トン(さらに470万トンの二酸化炭素を吸収できる)となる。

「ブータンは主に先進国からの財政・技術支援を求めているのです。もし私達がブータンにおける森林保有率60%を維持していこうとするならば、それなりの費用がかかります。そこで私達は、諸外国、とりわけ富裕国が(環境保護政策の代償としてブータンが被った)経済機会の損失分をどのように補填できるか見極めなければならないのです。」とジャムツォ農業大臣は語った。

同大臣は、必要な資金の用途について、グリーン・テクノロジーへの転換、有機農業の普及、水力発電技術開発、土地劣化の防止と土壌改良の推進を挙げた。

ブータンにとって今日の健全な生態系を維持していくことは困難な課題である。森林及び水管理のほか、ブータンにとって最も困難な課題の一つは、国内の産業開発を管理し、いかに新たな収入や雇用機会を国民に提供していくかということである。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

*ネドゥップ・ツェリン氏は、ブータン王国国家環境委員会に12年以上に亘り勤務。同国の非政府組織Bhutan Innovative Communityの創立者の一人である。 

*カーボンニュートラル:何かを生産したり、一連の人為的活動を行った際に、排出される二酸化炭素と吸収される二酸化炭素が同じ量である、という概念。排出される二酸化炭素が吸収される二酸化炭素を上回る場合はカーボンネガティブ、排出される二酸化炭素が吸収される二酸化炭素を下回る場合は欧米においてはカーボンポジティブという。

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