【ベルリン/東京IDN=ラメシュ・ジャウラ】
核軍縮支持者で著名な仏教哲学者が、「誰もが尊厳をもって安心して生きられる持続可能な地球社会を築く」ための4つの重要なイニシアチブを提言した。イニシアチブは以下の主要項目(①核兵器禁止条約に対する支持構築、②多国間の核軍縮交渉、③気候変動と防災、④戦争や自然災害などによって日常を奪われた子どもたちの教育)を網羅している。
これらのイニシアチブは、創価学会インタナショナル(SGI)の池田大作会長による2020年平和提言に詳述されている。「人類共生の時代へ 建設の鼓動」と題する今年の平和提言は、池田会長が1983年に平和提言の発表を始めてから38回目にあたるもので、原文の日本語版は、創価学会の創立90周年とSGI発足45周年を記念して1月26日に発表された。
池田会長は広島と長崎への原爆投下から75年にあたる2020年に核兵器禁止条約を発効させることを強く訴えている。「これにより、2020年を人類が核時代と決別する出発年としていきたい。」と池田会長は述べている。
核兵器禁止条約は、2017年7月の採択以来、これまで80カ国が署名し、35カ国が批准を終えている。条約発効に必要な50カ国の批准を実現するには、あと15カ国がこれまでより早いペースで署名と批准を行わなければならない。
池田会長は、条約の発効を受けて、ヒバクシャや市民社会が参加する「核なき世界を選択する民衆フォーラム」を広島か長崎で開催するよう提案している。
池田会長は、フォーラムで協議する主要テーマは「生命に対する権利」とし、国際人権法の観点から核兵器の非人道性を浮き彫りにする議論を深めていってはどうか、と述べている。そして、このフォーラムを、「核兵器の禁止によって築きたい世界の姿について、互いの思いを分かち合う場」にしていくことを提案している。
核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)の国際運営団体の1つであるノルウェー・ピープルズエイドの昨年の報告書によると、核兵器禁止条約を支持する国々は135カ国にのぼっている。さらに、核保有国や核依存国の自治体の間でも、条約への支持を表明する動きが広がっている。
多国間交渉
池田会長が具体的な提案を行っている2つ目の項目は、核軍縮を本格的に進めるための方策についてである。池田会長はとりわけ、4月27日から5月22日にかけてニューヨークの国連本部で行われる核不拡散条約(NPT)再検討会議で、2つの合意を最終文書に盛り込むことを呼びかけている。
その一つ目は、「多国間の核軍縮交渉の開始」に関する合意で、2つ目は、「AI(人工知能)等の新技術と核兵器の問題を巡る協議」に関する合意である。
池田会長は、米ロ間の新戦略兵器削減条約(新START)の延長を確保したうえで、多国間の軍縮交渉の道を開くことが肝要と考えている。
新STARTは2021年2月に期限を迎えるが、現在協議は難航している。もし中距離核戦力(INF)全廃条約に続いて新STARTの枠組みまで失われることになれば、およそ半世紀ぶりに両国が核戦力の運用において相互の制約を一切受けない状態が生じることになる。「この空白状態によって、核軍拡競争が再燃する恐れがあります。」と池田会長は警告している。
さらに、この空白状態は、今後小型の核弾頭や超音速兵器の開発が加速することで、局地的な攻撃において核兵器を使用することの検討が現実味を帯びかねない。ゆえに、新SATRTの5年延長を確保することがまずもって必要となる。
池田会長はこうした考えを念頭に、NPT再検討会議での議論を通じて、核兵器の近代化に対するモラトリアム(自発的停止)の流れを生み出すよう提案している。「各加盟国は、次回の2025年の再検討会議までに、多国間核軍縮交渉を開始するとの合意を図るべきではないでしょうか。」と池田会長は述べ、以下の試案を提示している。
「新STARTの5年延長を土台にしたうえで、米国、ロシア、英国、フランス、中国の5カ国による新たな核軍縮条約作りを目指し、まずは核軍縮の検証体制に関する対話に着手する。」
そして、これまで米国とロシアが実際に行ってきた検証での経験や、核兵器国と非核兵器国25カ国が参加して5年前から継続的に行われてきた「核軍縮検証のための国際パートナーシップ(IPMDV)」での議論も踏まえながら、国連常任理事国5カ国(英国、フランス、中国を含む)が核軍縮を実施するための課題について議論を進めていく、というものである。
「こうした対話を通じて得られた信頼醸成を追い風にして、核兵器の削減数についての交渉を本格的に開始することが望ましいのではないかと思います。」
多国間の核軍縮の機運を高めるために、池田会長は、冷戦終結の道を開く後押しとなった「共通の安全保障」の精神を顧みるよう提案している。
「共通の安全保障」は、核抑止が失敗した場合に引き起こされる大量破壊に対する反応として、欧州の政治指導者らの考え方や政策から生まれたもので、東欧諸国との和解政策を推進した西ドイツのヴィリー・ブラント首相と彼の政策が例として挙げられる。
1985年の歴史的な米ソ首脳会談では、ミハイル・ゴルバチョフ書記長とロナルド・レーガン大統領は、「核戦争に勝者はなく、また、核戦争は決して戦われてはならない。」という点で意見の一致を見た。
2018年5月にアントニオ・グテーレス国連事務総長が発表した軍縮アジェンダは、「人類を救うための軍縮」を呼びかけている。作成に携わった国連の中満泉軍縮担当上級代表は、その発表翌日に行ったスピーチで、軍縮と安全保障との関係について、以下のように述べている。
「軍縮は、国際平和と安全保障の原動力であり、国家の安全保障を確保するための有用な手段である。…軍縮はユートピア的な理想ではなく、紛争を予防し、いついかなる時、場所であれ、紛争が起こった際に、その影響を緩和するための具体的な追求である。」
池田会長はまた、「こうした互いが勝者となるウィンウィンの関係を基盤として、今こそ、NPT第6条が求める核軍縮の誠実な履行を力強く推進していくべきです。」と述べている。
NPT第6条は各締約国に対して「核軍備競争の早期の停止及び核軍備の縮小に関する効果的な措置につき、並びに厳重かつ効果的な国際管理の下における全面的かつ完全な軍備縮小に関する条約について、誠実に交渉を行うこと」を義務付けている。
池田会長は2020年NPT再検討会議で、核関連システムに対するサイバー攻撃や、核兵器の運用におけるAI導入の危険性に関する合意を目指すよう求めている。同会議が「これらの危険性に対する共通の認識を深め、禁止のルール作りのための協議を開始することが望ましい。」と池田会長は述べている。
そのような禁止のルール作りの必要性は、「サイバー攻撃は…核兵器の指揮統制だけでなく、早期警戒、通信、運搬など多岐にわたるシステムに危険が及ぶ恐れがある。最悪の場合、核兵器の発射や爆発を引き起こす事態を招きかねない。」という事実によって明確に示されている。
気候変動と防災
気候変動は、「人類の命運を握る根本課題」である、と池田会長は述べている。気候変動の影響は、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の取組みを土台から崩しかねないものとなっている。「青年たちの現実変革への思いが、不屈の楽観主義と相まった時の可能性は計り知れないものがあると思えてなりません。」
池田会長は、この観点から、2030年に向けてユース気候サミットを毎年開催するよう提案するとともに、気候変動の問題に関わる意思決定への青年の参画を主流化させるための安保理決議を採択するよう呼びかけている。
「気候変動を巡って取り組みが迫られているのは、温室効果ガスの削減だけではありません。異常気象になる被害の拡大を防止するための対応が待ったなしとなっています。先月(2019年12月)マドリードで行われた気候変動枠組条約の第25回締約国会合(COP25)でも、この2つの課題を中心に討議が進められました。」と池田会長は述べている。
池田会長は気候変動と防災に関するテーマに特に焦点を当てた国連の会合を日本で行うことを提唱している。世界の人口の4割は海岸線から100キロ以内に住んでおり、その地域では気候変動の影響によるリスクが高まっている。日本でも人口の多くが沿岸地域で暮らしている。
これを踏まえて、池田会長は「中国や韓国をはじめ、アジアの沿岸地域の自治体と、気候変動と防災という共通課題を巡って互いの経験から学び、災害リスクを軽減するための相乗効果をアジア全体で生み出していくべき」と、考えている。
2020年は、北京行動綱領が採択されて25周年にあたる。第4回世界女性会議で発表された同行動綱領は、ジェンダー平等の指針を明確に打ち出している。そこにはこう記されている。
「女性の地位向上及び女性と男性の平等の達成は、人権の問題であり、社会正義のための条件であって、女性の問題として切り離して見るべきではない。それは、持続可能で公正な、開発された社会を築くための唯一の道である。」
このジェンダー平等の精神は、防災においても欠かせない。災害にしても、気候変動に伴う異常気象にしても、インフラ整備などのハード面での防災だけでは、レジリエンスの強化を図ることはできない。そこで池田会長は、「ジェンダー平等はもとより、日常生活の中で置き去りにされがちであった人々の存在を、地域社会におけるレジリエンスの同心円の中核に据えていく。」ことが強く求められると述べている。
危機に直面した子どもたちの教育
最後に池田会長が第4の提案として述べているのが、紛争や自然災害などの影響で教育機会を失った子どもたちへの支援強化である。「次代を担う子供たちの人権と未来を守ることが、持続可能なグローバル社会を作るうえで要石となると考えています。」と池田会長は述べている。
子どもの権利条約は今年9月に発効30周年を迎える。今や国連の加盟国数よりも多い196カ国・地域が参加するこの条約は、世界で最も普遍的な人権条約となっている。
子どもの権利条約は、全ての子どもに教育を受ける権利を保障する加盟国政府の義務を明記しており、条約の発効時には約20%に及んでいた、小学校に通う機会を得られていない子どもの割合は、2019年には10%以下にまで減少した。しかしその前進の一方で、紛争や災害の影響を受けた国で暮らす子供たちの多くが深刻な状況に直面している。
国連児童基金(ユニセフ)は子どもたちにとって、学校の存在は、日常を取り戻すための大切な空間であると強調している。学校で友達と一緒の時間を過ごすことは、紛争や災害で受けた心の傷を癒すための手助けにもなっている。
こうした問題を踏まえて、2016年の世界人道サミットで設立を見たのが、ECW(教育を後回しにできない)基金である。池田会長は、ユニセフが主導するECW基金の資金基盤の強化を図るよう呼び掛けている。
SGIは192カ国と地域で、平和、文化、教育を推進しているコミュニティーを基盤とした仏教徒のネットワークである。1983年から毎年、池田会長は、SGI創立記念日にあたる1月26日に、世界の諸問題に対する仏教徒としての視点や解決策を提供する平和提言を発表している。(原文へ)
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