【バンコクIPS=マルワーン・マカン・マルカール】
今週、貧困問題に苦しむカンボジアへの支援について話し合うために、世界の支援団体の代表たちがカンボジアに集うことになっているが、彼らが売春問題を取り上げるかどうかは分からない。
だが、支援団体から派遣されたこうした役人が、もし居心地のいい高級ホテルから足を伸ばしてプノンペンの性産業を視察に出かければ、女性問題に取り組む機関があからさまな貧困の指標と考える数字を目にすることになる。
カンボジアの首都プノンペンで女性の権利拡大のための活動を行っているNGO、Womyn’s Agenda for ChangeのコーディネータであるR.バルベロ氏は、「800リエル(23円)というわずかな金額で売春する女性もいる」とし、「売春婦が増えてますます値段が下がっている」という。
1990年代後半にはプノンペンの売春婦は客に2ドル求めていた、とバルベロ氏は電話でのインタビューの中で明らかにし、「競争が増えて、売春婦たちがなりふりかまわず稼ごうとしていることを心配している」と語った。
貧困との戦いを伝える別の話題もある。カンボジアの成功物語として取り上げられる女性、つまり縫製工場に勤める女性の生活の質を調べる調査が増えているが、外見の華やかさと実際の窮乏との差が大きいことを明らかにしている。
カンボジアの主要な食料品の価格が跳ね上がっていて、魚の値段は昨年18%上がり、米は5%上がった。そのため、縫製工場の女性も食事の栄養価を落とさざるを得なくなった。ある女性労働者たちが調査員に打ち明けた話では、1日おきに食べていた魚を2週間おきに食べるようになったという。
「こうした女性は粗末な米とスープだけの食事という選択肢しかない」と、以前プノンペンの縫製工場で働いていたChrek SopheaはIPSの取材に応じて語り、「田舎から出てきている女性は、ふるさとの家族に送金する前に家賃も支払わなければならず、さらに大変だ」といった。
カンボジアの保健省が行った調査によると、主要な食料品の値段が上がる前の2004年でも、90%の縫製工場の女性労働者が検査の結果貧血だった。
しかしながら世界銀行は縫製工場の女性を別の観点から見ている。この部門は25万人の女性労働者を雇用し、国の輸出の80%を稼いでおり、世銀の最近の報告書は、縫製工場が1330万人のカンボジアの人々を貧困から救ってきたと賞賛している。
国際労働機関(ILO)によるとカンボジアの被服産業の輸出額は1995年の2600万ドルから2004年には19億ドルへと大きく成長している。
工場労働者の平均最低賃金は月45ドルで、残業をすれば月50ドルから60ドルに増えるので、その結果労働時間が1日12時間ということもある。
世界銀行が2月半ばに発表した「カンボジアの貧困の評価」と題する報告が、カンボジアの貧困の解消に貢献しているとするもうひとつの産業は観光である。北西部のシエムレアプ州近くのアンコール寺院のすばらしい遺跡には、特にたくさんの観光客がおしかけている。
この2つの部門のおかげで、カンボジアの貧困層は10年で47%から35%へと減少したと世銀の役人は達成を称える。この世銀にとっての朗報は、カンボジアの貧困ラインを1日1,826リエル(50円)に世銀が定めて算出したものである。
カンボジアの貧困に関する報告書の共著者であるティム・コンウェイ氏はIPSの取材に対して「状況は改善している。被服産業はこの部門の成長から恩恵を受けている人々を相対的に示しており、月に45ドルという数字は満足できるものであり、カンボジアでは十分な額だ」と語った。
「過去10年に貧困が減少したとする調査結果に大いに自信を持っている」とコンウェイ氏は付け加えた。報告書の中では、ラジオやテレビを持ち、電気を利用できるようになったカンボジア人の数が増えたことも言及されている。
世銀によると「地方で減少した」貧困は、地方の家の屋根に使用される材料の変化に見られる。草ぶきが74%から29%に減り、代わって鉄かアルミ製の屋根が6%から31%に増えた。
コンウェイ氏によると、この世銀の報告書は3月2~3日に年次諮問委員会がカンボジア支援について話し合う際に、状況を説明する資料として利用される。この諮問委員会には国際通貨基金(IMF)も含まれ、カンボジアへの援助の流れにとってきわめて重要な存在である。国際支援は過去10年間、カンボジアの国家予算の半分近くに寄与している。
一方世銀の最新の貧困削減の成果報告を、長期にわたったカンボジアの内紛を終結させた1991年の和平協定後に国際的な開発組織がカンボジアに課した経済計画を正当化しようとするにすぎないと批判するものもいる。
「世銀が貧困ラインとして利用している数字は、どれだけ現実からかけ離れているかを示している」とバンコクに本部を置くシンクタンクFocus on the Global Southの調査員であるS.グッタル氏はIPSの取材に応じて語り、「小椀1杯の麺でさえ800リエル(20セント、23円)する」と指摘した。
「カンボジア社会は自ら再建できないでいる。カンボジアは部外者によって考え出された特定の経済的、社会的、政治的モデルを受け容れざるを得なかった。支援国と世銀は自分たちの紛争後の再建モデルによって作り出された現実を正確に見つめる必要がある」とグッタル氏はいう。(原文へ)
翻訳=IPS Japan