INPS Japan/ IPS UN Bureau Report核実験禁止へのとりくみ:カザフスタンが「アトムE」を開始(カイラト・アブドラフマノフ国連大使)

核実験禁止へのとりくみ:カザフスタンが「アトムE」を開始(カイラト・アブドラフマノフ国連大使)

【国連IPS=カイラト・アブドラフマノフ】

致命的な兵器の禁止を訴えた1946年の国連総会決議があったにも関わらず、カザフスタンが独立した年の1991年8月29日に当時世界第2位の規模であったセミパラチンスク核実験場を閉鎖するまで、核兵器の保有は科学の発展あるいは軍事力の象徴であり続けた。

この決断と、当時世界第4位であった(110基を超える弾道ミサイルと1200発の核弾頭からなる)核戦力の放棄は、カザフスタンがこの強力な核兵器実験と核兵器は必要ないと考えていることを世界に示した前例のない行為であった。セミパラチンスク実験場の閉鎖は、ネバダ(米国)、ノバヤゼムリャ(ロシア)、ロプノール(中国)、ムルロア(フランス領ポリネシア)など、他の実験場の閉鎖につながっていった。

‘RDS-37’ on 22 November 1955 – the Soviet Union’s first thermonuclear test/ CTBTO

全世界で2000回行われた核実験の4分の1にあたる600回以上の核爆発が、40年間にわたってセミパラチンスク実験場で行われた。実験場の面積は1万8000平方キロであり、その影響は30万平方キロ、150万人以上に及んだ。

実は、ソ連時代のカザフスタンは11の軍部隊で構成される一つの巨大な多角形を成していた。核実験場以外にも、航空、宇宙、ミサイル防衛、警戒システムがあり、高出力レーザー兵器の実験場もあった。私はその中に、アラル海にあった恐るべき生物・細菌兵器の実験場(かつてのルネサンス島にあるバルカン実験場)も指摘しておきたい。

これまでの取り組みを考えれば、我が国には、「核兵器ゼロへの道」に関する普遍的で即時の措置を求める十分な権利があるといえるだろう。ここで引用した恐るべきデータ、そして1996年の国際司法裁判所の勧告的意見をみれば、国際社会は、核実験と核兵器の究極的かつ不可逆の禁止に向けてもっと大胆に踏み出すようになるはずだ。

カザフスタンのヌルスルタン・ナザルバエフ大統領は、世界の指導者に核実験の永久廃止と核兵器の完全廃絶を求める「ATOM」(廃止する=Abolish、実験=Test、私たちの使命=Our Mission)と呼ばれる国際的なオンラインキャンペーン・プロジェクトを開始した。現在このキャンペーンを国際社会にアピールするため、「ATOM」プロジェクトの名誉大使で核実験の被害者であるカリプベク・クユコフ氏がカザフスタンからここニューヨークにやってきて、自身の経験を伝えている。

Kazakh President Nursultan Nazarbayev addressing the UN General Assembly in September 2015 | Credit: Gov of Kazakhstan
Address by His Excellency Nursultan Kazakh President Nursultan Nazarbayev addressing the UN General Assembly in September 2015 | Credit: Gov of Kazakhstan

カザフスタンが世界最大のウラン生産者・供給国であるにも関わらず、強固な意思を持って堅持してきたこうした立場は、兵器よりも「調和と協力」こそが、世界の平和と安全にとって、「より有効な武器」となり得るということの証左といえよう。

軍縮に対して批判的な人々は、「核兵器の発明をなかったことにすることはできず、核という魔神はもう壺から飛び出てしまった」と主張する。しかし、カザフスタンなどいくつかの国々が、怪物的な魔神を壺の中に戻すことは私たちの能力の範囲内でできることだと証明してきた。

カザフスタンは包括的核実験禁止条約(CTBT)に署名した最初の国のひとつである。同条約を重視する我が国は、CTBT第14条に関する国際会議を9月29日に日本と共同主催して、条約の早期発効に向けて努力する所存だ。

今年は、国連創設から70年でもあり、新たな変化を生み出すポスト2015年開発アジェンダの開始の年にもあたる。私たちは、核軍縮の結果として生み出されるであろう莫大な資源を、切迫した人類のニーズを満たし、平和で安全な世界を達成するために投資する政治的意思を持たねばならない。

ICAN
ICAN

今日、核不拡散条約(NPT)の2015年運用検討会議が期待された成果を生み出せなかったことを考えると、軍縮に関する機構を前進させる新たな推進力が必要となっている。オスロ、ナヤリット、ウィーンで開催された3回の「核兵器の人道的影響に関する国際会議」(非人道性会議)、各国別、二国間、複数の国による集合的な多くの取組みとともに、市民社会によるダイナミックな取り組みを歓迎する。

こうした活動は、核兵器なき世界に向けて連帯するための警告となる。従って私たちは、オーストリアが提案しカザフスタンも今年7月10日に賛同した「人道の誓約」が推進力を得ていることを歓迎する。同様に、「核兵器なき世界の達成に関する普遍的宣言」を採択するよう国際社会に呼びかけている我が国の大統領の取組みが、10月に開催される国連総会第一委員会で支持されることを求めている。私たちは、この文書が、大きな議論の基礎をなすとか、国連の軍縮機構を縛りつけるものだとか考えているわけではない。その価値は、核軍縮達成の手段について依然として意見の一致がないにも関わらず、核兵器なき世界という基本的目標については完全に一致しているという事実にあるのだ。

カザフスタンが関与したことで東側と西側の協力が成功した事例を他にいくつか示しておきたい。

1.カザフスタンは核戦力を放棄して「国際社会の注目を大いに浴びた」が、核弾頭とミサイルを撤去・処分し、元実験場のインフラを破壊・無効化するのを可能にしたのは、ロシア連邦と米国との協力があったためであった。

2.カザフスタンは、中央アジア地域の他の国々とともに、2006年にセミパラチンスクで中央アジア非核地帯条約に署名し、早くも2009年には発効させた。2014年5月、核五大国(P5)は、条約参加国に対する消極的安全保証に関する議定書に署名し、うち4か国は既に批准も済ませている。

今年、中央アジア諸国は、地域における核保安を強化する行動計画を採択した。現在私たちは、核物質の違法取引を防止し、核テロと闘う地域的な手段を検討中だ。

3.2014年、かつてのセミパラチンスク核実験場内にあった「マシフ・デゲレン」(「プルトニウムの山」として知られる)の地下通路に残されていた数百キログラムに及ぶ核物質を安全に確保し保全するための取り組みを進めた。この措置によって、核物質の漏出と不適切な使用が防がれるであろう。カザフスタン、ロシア、米国による継続的かつ永続的な三国間協力が2012年にソウルで3か国の大統領によって発表された。これは、信頼と相互理解の精神だけが世界の安全を確実にするのだということを明確に示した事例である。現在カザフスタンは、2016年にワシントンDCで開催される予定の第4回核セキュリティサミットの準備を進めており、11月2日から4日にはアルマトイで事務方の準備会合を主催する。

4.もう一つの重要な成功は、カザフスタン政府と国際原子力機関(IAEA)との間で、国際低濃縮ウラン(LEU)バンクを2017年にカザフスタン北東部で設立する協定に8月27日に署名がなされたことだ。この取り組みは、核不拡散体制を強化し、国際的な法的枠組みに存在する隙間を埋めるうえでカザフスタンがなしている具体的な貢献の一例だ。LEUバンクは、核エネルギーの平和的利用のために、加盟国に安定して核燃料を供給することを狙ったものだ。東側と西側、とりわけカザフスタンと、P5、さらには、欧州連合、ノルウェー、クウェート、アラブ首長国連邦をプロジェクトの主要なドナーとして、LEUバンクの実現に導いた。

5.協力の最も新しい事例は、カザフスタンにあるバイコヌール宇宙基地に関するものだ。ここは、国際宇宙ステーションに飛行船を打ち上げる地球上で唯一の場所になっている。9月2日、飛行船「ソユーズ」が、カザフスタンやロシア、デンマークからの新しい乗組員を乗せて、発射された。デンマークからの乗組員は、欧州宇宙機関から送り込まれている。この事例もまた、未来に向けた希望をもって協力するよう、私たちを勇気づけるものだ。

ハーグで開かれた核保安サミットで「一般的かつ完全な核軍縮」こそが核保安を唯一もたらすものだと世界に訴えたナザルバエフ大統領の言葉を引用しておきたいと思う。大統領は、「『国際の平和』の名を借りた軍事的解決ではなく、政治的解決をもたらすという、自国民及び国際社会に対する私たちの責任に応えなければならない。」と述べた。従って、核実験禁止、核兵器禁止への推進力を生み出し、私たちの共通の人間性を忘れないようにそうした平和的な解決策を見つけ実行していくことは、私たち皆にとっての集合的な責任であり、約束なのだ。(原文へ

※カイラト・アブドラフマノフは、カザフスタン共和国の国連大使。

翻訳=IPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service(IPS) and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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