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|カナダ|先住民族にとって暗い、初代首相の遺産

【トロントINPS=ポール・ワインバーグ】

カナダの保守政権が先住民族との関係において直面している難題の多くが、カナダ建国の父とされるジョン・A・マクドナルド卿・初代首相の生誕200周年(1月11日)に予定されているイベントにおいて前面に出てくることになるかもしれない。

無党派・非営利の「生誕200周年記念委員会」(カナダ政府が100万ドル、民間ドナーから30万ドルの寄付によって成り立っている)が組織するイベントでは、教養のある政治家で演説の名手、ユーモアの提供者であり、ばらばらだった英領北米植民地を1867年に北米大陸を跨る「カナダ連邦自治領」へと最終的に作り上げた政治家としてのマクドナルド卿の足跡に重点が置かれることになっている。

cropped image of John A. Macdonald, Prime Minister of Canada, ca. 1875 by George Lancefield
cropped image of John A. Macdonald, Prime Minister of Canada, ca. 1875 by George Lancefield

同記念委員会のアーサー・ミルンズ広報官は、「マクドナルド卿が下した判断や個人の人格(例えば、彼はよくアルコール依存症の人物として語られ、冗談の種にもなっている)について「取繕う」つもりはありません。」と指摘したうえで、「自国の歴史に疎いとされるカナダ国民が、建国の父について語り合う契機にしたいと考えています。」と語った。

またミルンズ広報官は、「いくつかの点で、私たちはマクドナルド卿が先住民族を対象に行った政策の後遺症と未だに取り組んでいる」ことを認めた。

しかしミルンズ氏は、スティーブン・ハーパー政権がマクドナルド卿生誕200周年に際して打ち出そうとしている、同氏に関する政府解釈についてはコメントを避けた。

今日、カナダ西部のファースト・ネーションズ(カナダの先住民族のうち、イヌイットもしくはメティ以外の民族)の部族の一部が、オイルサンドエネルギー計画とパイプラインの建設に反対している。ハーパー政権が、英国王(ジョージ3世)名で出された「1763年宣言」に始まる条約の下で憲法上必要とされている先住民族との協議と和解の手続きを怠ったのが原因だった。

またハーパー政権は、マクドナルド卿が(先住民の「野蛮さ」を矯正するためとして)キリスト教会が運営する寄宿学校を設置した1876年から、それが公式に閉鎖された1996年までの間に、強制的に通わされた約10万人の先住民族の子どもが蒙った身体的・性的暴力の確実な事例に関する完全な文書を、裁判所が主導する調査委員会に提供することを拒否している。

歴史家のジェイムズ・ダシューク氏は、今日のカナダにおいて先住民の人びとが直面している諸問題(貧困、高い肥満率、乏しい栄養、短い平均余命、守られない条約、とりわけカナダ北西部に関する1876年の諸条約)は、マクドナルド政権にまでさかのぼることができると主張している。1867年から1891年の期間の大部分、マクドナルド卿が首相(第1代及び第3代)と先住民問題相(Minister of Indian Affairs)を兼任していた。

ダシューク氏は、新しい学術書『平原を浄化する―疾病、飢餓政策と先住民人口の喪失』の著者である。同書は、1600年代のヨーロッパ人との最初の接触に始まって、一部の先住民部族の絶滅につながった、カナダ北西部における天然痘、インフルエンザ、結核などの感染症の拡大について記述している。

Pupils at en:Carlisle Indian Industrial School, en:Pennsylvania (c. 1900). Source: Frontier Forts/ Public Domain
Pupils at en:Carlisle Indian Industrial School, en:Pennsylvania (c. 1900). Source: Frontier Forts/ Public Domain

「マクドナルド首相が先住民族に対して行った『飢餓政策』に注目すべきとしたダシューク氏の呼びかけは、従来政治的にタブーとされてきた領域に踏み込んだものです。」と匿名を希望したダシューク氏の別の同僚が指摘した。カナダ政府は1876年の諸条約により、先住民に対して飢饉の際には食料供給を保証するとしていたにもかかわらず、マクドナルド首相は、レジャイナから西部平原との境界に接するアルバータに到る地域で、(先住民が衣食住の柱としていたバッファローの消滅に伴い)困窮し栄養不良に苦しむ先住民に対して配給をあえて差し止める決定を下した。これは、先住民らを伝統的な土地から特定の保留地へと追い出し、そのあとに白人による植民と、国土を横断するカナダ太平洋鉄道の建設に道筋をつけることが目的だった。

「マクドナルド卿が国を建設したことは否定しえませんが、彼のようなやり方で国を作ったことの付随的被害は、カナダの先住民族との関係における遺産だと言えるのです。」とダシューク氏は語った。

ダシューク氏は、カナダの歴史のあまり知られていない側面を調べるという困難な取り組みを行わず、「理論」と「脱構築」にばかり注目している「自己言及的」な自らの歴史学界のあり方についても、容赦ない批判を浴びせている。

「私たちはカナダ国民として、国家が私たちに代わって何をしたのかということに関するこの種の議論を行ってきていません。カナダ国民は自らの歴史について、とりわけ歴史の醜悪な部分について知らないのです。」と、レジャイナ大学准教授のダシューク氏は語った。

マクドナルド卿は、首相として多くの任務を背負っていたにも関わらず、なぜ先住民族問題にもわざわざ取り組んだのだろうか。当時彼が直面していた問題はとりわけ、カナダ太平洋鉄道敷設に関する収賄疑惑や、英語圏でプロテスタント系のオンタリオと仏語圏でカトリック系のケベックに分断されていながら、依然として大英帝国との関連を持っていたこの新しい国を統合しつづけるという課題であった。

さらに彼の軍隊は、メティ(様々な先住民族とヨーロッパ人の混血)が、政府が土地提供の約束を順守しなかったとして北西部で起こした2回の蜂起(レッドリヴァーの反乱、ノースウェストの反乱)を鎮圧した。この問題は、マニトバ州のメティ側の主張の一部を認め当時の政府側の問題点を指摘した2013年のカナダ最高裁判決のテーマである。

 Métis and First Nations prisoners following the North-West Rebellion, August, 1885. / Public Domain
Métis and First Nations prisoners following the North-West Rebellion, August, 1885. / Public Domain

レジャイナにあるファースト・ネーションズ大学の歴史家で、サスカチュワン州の「マスコウペタン・ソールトゥー・ファースト・ネーションズ」のメンバーでもあるブレア・ストーンチャイルド氏は、「伝統的な先住民の文化を、寄宿学校を通じて消去していったマクドナルド卿の政策は、『文化的大虐殺(Cultural Genocide)』に等しいものでした。」と指摘したうえで、「しかし、(先住民とはじめとする有色人種に対する)白色人種の優越という社会ダーウィニズム的な発想が広く共有されていた19世紀のカナダあるいは世界という文脈から、マクドナルド卿だけを取り出して(現在の価値観を適用して)考えることは適切ではありません。」と語った。

またストーンチャイルド氏は、「明らかに、(マクドナルド卿は)カナダの創始者であり、物事に熱心に取り組む献身的な人物でした。これらは彼の優れた点でした。しかし、彼もまた時代の申し子であり、先住民のことを白人と平等あるいは先進的な存在だとはみなしていませんでした。それどころか、基本的に同化が必要な劣った存在だと捉えていたのです。」と指摘したうえで、「カナダ大平原における先住民人口の縮小(1880年代にはわずか2万人になっていた)は、弱い民族は消える運命にあるという当時の人種主義的な理論に合致しているようにも見えます。」と語った。

ライアソン大学教授で歴史家のパトリス・ドゥティル氏は、現在新作の著書のためにマクドナルド卿に関する学術論文を集めている。ドゥティル氏は、「カナダの初代首相に関して『明瞭な結論』を導くことには気が進みません。」と語った。

ドゥティル氏の説明によれば、マクドナルド卿は、政府が市民のための政策をほとんど実施せず、一方で政治家が道路や運河、鉄道、港湾などの建設に力の大半を傾けていた19世紀の野蛮な「レッセフェール(自由放任主義)」の時代を駆け抜けた人物であるという。

「労働者は悲惨な条件で働き、女性は殴られ、孤児は搾取され、先住民族は飢餓に追い込まれ、労働者は死ぬまで働かされ、カトリック教徒はしばしば貶され、ユダヤ教徒は非難された。それが当時の『カナダ』という国の現実でした。」とドゥティル氏は語った。

一方でドゥティル氏は、「カナダ政府の先住民族に対する扱いについて問題があったことは否めません。しかしカナダ政府は、米国と同様に領土を北米大陸の西方に拡大していきましたが、戦争を通じて先住民を「殲滅(せんめつ)」しようとした米国政府ほどの極端な政策(エイブラハム・リンカーン大統領が推進したミネソタ州のスー族皆殺し政策等)はとりませんでした。」と指摘した。

This painting shows "Manifest Destiny" (the belief that the United States should expand from the Atlantic to the Pacific Ocean). This popular scene of people moving west captured the view of Americans at the time. Called "Spirit of the Frontier" and widely distributed as an engraving portrayed settlers moving west, guided and protected by Columbia (who represents America and is dressed in a Roman toga to represent classical republicanism) and aided by technology (railways, telegraph), driving Native Americans and bison into obscurity. The technology shown in the picture is used to represent the outburst of innovation and invention of modern technology. It is also important to note that Columbia is bringing the "light" as witnessed on the eastern side of the paintings she travels towards the "darkened" west./ Public Domain
This painting shows “Manifest Destiny” (the belief that the United States should expand from the Atlantic to the Pacific Ocean)./ Public Domain

さらに、カルガリー大学名誉教授で先住民族の歴史が専門のドナルド・スミス氏は、「マクドナルド卿についていかなる結論を下す前に、彼が行った対先住民政策の全容を解明する歴史家によるさらなる研究が必要です。」と語った。

例えばマクドナルド卿は、カナダ東部において資産を保有する先住民の成人男子に対して、条約上の地位を失わせることなく連邦選挙への参政権を与えることに賛成していたという。

「このトピックは極めて難しいものです。なぜなら、(1867年前後の)カナダ西部だけではなく、中部および東部におけるマクドナルド卿の対先住民政策の検討が必要とされるからです。現在の価値基準ではなく、マクドナルド卿が生きた時代の基準で判断すれば、彼は複雑だが比較的寛容な人物として浮かび上がってくるのです。」

ところで、カナダにおける先住民の人びと、あるいは保留地に居住しているいわゆる「条約認定インディアン」は、1960年まで参政権を持った完全なカナダ市民とはならなかった。

ジェイムズ・ダシューク氏は、「マクドナルド卿生誕200周年や、カナダの米英戦争(1812年)や第一次世界大戦(1914年~18年)への関与についての来たる記念日に際して、ハーパー政権が『好戦愛国的』で『自民族中心的』な解釈をいかにして押し出そうとしているのか、ということがおそらく問題になるでしょう。」と指摘した。

ハーパー首相自身は、1月11日のマクドナルド卿の199回目の誕生日に際して、彼の功績を公式ウェブサイトに挙げている。「カナダ太平洋鉄道の完成、北西騎馬警察の創設(のちに王立カナダ騎馬警察)、(メティによる)ノースウェストの反乱の鎮圧」がその内容で、その背景にあったカナダ先住民やメティの悲劇的な裏の歴史については言及していない。

民族の語りを研究しているクィーンズ大学の歴史家ブライアン・オズボーン氏は、現首相はカナダの創始者に「保守的な」顔を与えようとしている、と見ている。「ハーパー首相は、ジョンAマクドナルド卿に関して党派的な政治的見方をとっています。なぜなら、マクドナルド卿は(ハーバー現首相と同じ)保守党の党首でもあったからです。」とオズボーン氏は語った。

翻訳=INPS Japan

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