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|中央アジア|イスラムを通じた近代化

【ワシントンIPS=ジョン・フェファー】

中央アジアの中心にあるフェルガナ盆地は、不安定性、武力紛争、イスラム原理主義でよく知られている。この人口の密集した山岳地域で国境を接している3共和国ウズベキスタン、タジキスタン、キルギスは、ソ連解体後、近代国家構築に苦心してきた。それはまさに激動のプロセスである。 

タジキスタンでは1990年代、政治勢力間の紛争から内戦が勃発。キルギスでは2005年の「チューリップ革命」で独裁的指導者が失脚。2005年後半には、ウズベキスタンのアンディジャン市で反政府暴動が発生、政府は数百人を殺害してデモを制圧した。その一方で、3国政府はいずれも、ヒズブ・タフリール(解放党)やウズベキスタン・イスラム運動などのイスラム原理主義過激派に対し行動を起こしてきた。最近では、ウズベキスタンのコカンドにおいて新たなグループ「ブラック・ターバン」の組織化が報道されている。

 しかしこうしたフェルガナ盆地のイスラム原理主義に傾倒した暴力的なイメージは不正確だと、ジョン・ホプキンス大学中央アジア・コーカサス研究所所長のS・フレデリック・スター氏は言う。 

「未解決問題山積の地域と見なし、破局が近いように言う傾向がある。それは事実とは異なる」と、スター氏は3月初旬ワシントンにおいて笹川平和財団との共催で開いたフェルガナ盆地に関するセミナーで述べた。「地域は一触即発の状態にはない。3区域いずれにおいても紛争は起きている。1991年以前の紛争は民族紛争の傾向にあった。しかし驚くべきことに、国境に変化はない。独立がもたらしたあらゆる混乱においても、民族間の衝突は比較的限られたものにとどまっている」

3つの要素が緩和効果を発揮していると、スター氏は次のように論じている。「移民労働者が安全弁となっている。土壌は肥沃で、灌漑が十分であれば、農地として最適だ。ものを買うお金がないとしても、人民は食べるに困らない。そして人々はお互いを良く知っている。何百、何千前年も共に暮らしてきたのだから」 

タジキスタン有数の学者であるPulat Shozimov氏も同様に、新たな観点で地域をとらえる。Shozimov氏は、中央アジア・コーカサス研究所の支援の下3カ国から24人の学者の協力を得て8つの異なる社会経済問題について論文を作成する新たな学際研究プロジェクトをまとめる編集者3人のうちの1人である。Shozimov氏は、この研究プロジェクトについて「フェルアナ盆地の新たな可能性を発見するため重要な問題や課題について自由に議論する場としてモデルとなるもの」と述べている。 

研究プロジェクトは「この極めて重要な地域に関してこの半世紀に実施された中であらゆる分野にわたるもっとも包括的な研究となるだろう」とスター氏も言う。「3カ国3人の編集者が成し遂げたことは、地域全域に及ぶ真の協力を生み出すための建設的な環境づくりである」 

 フェルアナ盆地はイスラム教徒が圧倒的に多く、大半がスンニ派である。ソ連崩壊後、地域の共通の要素として挙げられるのは、宗教的な関心が急速に高まっていることである。 

ジョージ・メイソン大学の政治学教授Eric McGlintchey氏も、「明らかにイスラム教の復興が見られる。金曜日の祈祷に行く人の数や人々の服装を見るだけでそれは明らかだ。50年以上実践が禁じられていた宗教上の教えを今は公然と守ることができるようになった。好奇心が起きるのも当然だ」と言う。 

外部のアナリストの中には、フェルアナ盆地における宗教的急進主義の脅威に注目する者もいる。しかしMcGlintchey氏は、イスラム過激派はそれほど受入れられていないと考える。「ヒズブ・タフリールはキルギスではかなり公然と活動しているが、しかしウズベキスタンではそうでもない。彼らは文献や論点は知っているが、しかしイスラム教やそれより広範なことについて少しでも問いつめると、『ウンマ』(イスラム共同体)に関する物事はすぐにも崩れてくる。大半の人は、自らの信仰をヒズブ・タフリールで無駄にする気はない。彼らの地位は誇張されている」と報告している。 

重要ながらもあまり分析されていない点として、イスラム教と経済の近代化の関係性がある。Pulat Shozimov氏によれば、タジキスタン・イスラム復興党(IPRT)が新興中流階級への働きかけを強めている。Shozimov氏は、「現時点で彼らに明確な経済プログラムはないが、しかし独自の経済ネットワークを構築しようとしている」と述べ、IPRTは、イスラム教の価値観と民主的な機構そして世界に連結した近代的な経済との融合を図ろうと、その手本としてトルコの与党に関心を向けていると指摘する。 

McGlintchey氏も同じ意見だ。「トルコを民主的な方向に動かすのにイスラム教政党が政権を握ることが必要だった。タジキスタンでも同様の原動力を見ることができよう」と述べている。 

ウズベキスタンについても、McGlintchey氏は同じ原動力を指摘する。「イスラムの社会資本と経済成長を結びつける好循環が見られる」とし、次のように主張する。「アンディジャンでは、信頼しあい、お互いに誠実だと認めあうビジネスマンが力を合わせている。腐敗が横行し、資金を無理矢理引き出し、信頼を寄せ難い国家当局とは対照的である。こうしたビジネスマンらはグループ内に資本をプールし、さまざまなビジネスを育ててきた。これらの有能なイスラム教徒ビジネスマンを見て、その成功を目の当りにしている人々は『彼らの工場で働きたい、宗教について学びたい』と話すようになっている」 

このように、フェルアナ盆地は、イスラム過激派の拠点とも言われ、散発的に暴力が発生して不安定な地域というイメージの脱却を図っている。イスラム教近代化の新たな経済的・政治的モデルとともに、新たな協力のイニシアティブも生まれている。3国のいささか冷ややかな公的関係がこうした新しいダイナミクスの推進に役立つことはほとんどないだろうが、しかしそれでも下からのチャレンジを受けている。 

スター氏は「3国間には明白な緊張があるものの、3国の国民はお互いを知り尽くしているし、何世紀もの間親密に交流してきた。緊張関係にあっても、彼らは、現実の関係をどのように維持するかは十分承知している」と指摘する。(原文へ) 

翻訳=IPS Japan 浅霧勝浩 

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