【ワシントンDC・IDN=アーネスト・コレア】
バラク・オバマ大統領が招集した「核安全保障サミット」には47ヶ国の代表が集まった。そのうち30ヶ国以上は元首による参加である。彼らは、「ならず者」からの核攻撃―「非国家」主体による場合もあれば、ルールを守らない国家主体によるものもある―に対して世界を安全に保つための道筋に関して、小さくはあるが重要な合意に到達した。
ジャヤンタ・ダナパラ氏は「47ヶ国が核物質と核技術の保全に関する合意に至ったことは、とりわけ、核兵器の拡散と非国家主体による核兵器の取得という危険性をなくす点で、歓迎すべきことだ。」と語った。ダナパラ氏は、1995年の核不拡散条約(NPT)運用検討・延長会議の議長であり、1998年から2003年にかけては国連事務次長(軍縮担当)を務めた。現在は、「科学と世界の諸問題に関するパグウォッシュ会議」の議長であり、米国平和研究所ジェニングス・ランドルフ上級客員研究員でもある。
ダナパラ氏は「これに関する規範は、核物質と核施設の物理的防護に関する条約とその改正によってすでに確立されている。核テロの問題についても、国連安保理決議1540と、核テロ防止国際条約がすでに存在する。」と付け加えた。また、「残念なことに、核安全保障サミットに参加した47ヶ国がすべてこれら2つの条約に署名・批准しているわけではない。本当の問題は、悪人が持っているのでも善人が持っているのでもない核兵器にあるのだということを銘記しておかねばならない」と指摘した。
本当の問題は核兵器がいまだに存在し続けていることにあるというダナパラ氏の指摘は、オバマ大統領の見方とも合致する。オバマ大統領は、2009年4月のプラハ演説で、「核兵器のない世界の平和と安全を目指す」ことを明らかにした。
盗難・紛失あるいは使用されるリスクから核物質の安全を確保することは、平和を目指す人々が希求する核兵器なき世界の追求のあくまで一環に過ぎない。
義務
米国は「ならず者」からのテロ攻撃の対象になりうると考えられている。なぜなら、アルカイダは、核物質の取得が主要目的であるとみずから明確にしているからだ。
その他の国々もこうした攻撃に対しては脆弱である。たとえば、ムンバイでテロ攻撃を仕掛けた者たちが「スーツケース核爆弾」をもし使っていたら、被害がどれ程のものだったかを想像してみればよい。
高濃縮ウランやプルトニウムが紛失・盗難されたケースはこれまで18件以上ある。2000トン以上のプルトニウムと高濃縮ウランが数ヶ国に貯蔵されているが、中には盗難に対する備えを持たない国もある。
こうした目の覚めるような事実を前に、核安全保障サミットの参加者たちは、「核テロは国際社会の安全にとって最も重大な脅威のひとつであり、核保全の措置を強化することは、犯罪者又はその他の権限のない者による核物質の取得を防止する上で最も効果的な手段である。」という見方で一致した。したがって、核安全保障サミットの目標は、核装置製造に利用しうる物質が最大限防護されるような管理体制の構築に向けて動き出すことにあった。
オバマ大統領はサミット終了に際して記者会見でこう述べた。「私は今朝、『今日という日は、核物質をテロリストの手に渡らないようにするために、各国が個別あるいは集団で、核物質の保全強化に向けた公約と明確な措置をとる機会となるだろう。』と述べました。」「今晩、我々はその機会を確かに手にしたこと、そして、個別国家として、国際社会として、(本日の会議において)我々が取ってきた措置によって、米国民はより安全になり、世界はより安心感を得るであろうことをご報告します。」
サミット・コミュニケの公式サマリーはその要点を以下のようにまとめている。
・すべての脆弱な核物質の管理を4年以内に徹底する必要性を認識する。
・核物質の保全と計量を改善する各国別の努力がなされるべきこと、プルトニウムと高濃縮ウランに関する規則が強化されるべきことを提案する。
・高濃縮ウランと分離プルトニウムには特別な予防措置が必要。高濃縮ウランの使用の最小化を奨励する。
・核保全と核テロに関する主要な国際条約の普遍的加入を推進する。
・「核テロリズムに対抗するためのグローバル・イニシアティブ」のようなメカニズムが、法執行機関、原子力産業界、技術者間のキャパシティビルディングに貢献していることを認識する。
・国際原子力機関(IAEA)が、核保全に関するガイドラインを策定し、その実施に関する助言を加盟国に対して行えるような資源を獲得するために行動する。
・二国間あるいは多国間での安全保障支援を、それが最善の結果をもたらす場合において実施する。
・原子力産業が核保全に関する経験を共有することを求め、同時に、保全措置によって各国が原子力の平和利用の利益を享受することが妨げられないようにする。
サミットは、このコミュニケに加え、作業計画と、それへの参照ガイドを策定した。
イニシアチブ
またサミットでは、参加政府がこれまで既に行ってきた、あるいはこれから行う予定の試みについて発表する機会もあった。例えば:
ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相と米国のヒラリー・クリントン国務長官は、両国が保有している兵器級プルトニウム34トンを原子炉で燃やすことによって処理する2000年の合意を更新した。加えて、ロシアのメドベージェフ大統領は、プルトニウム生産炉を閉鎖する計画を再確認した。
ウクライナは、高濃縮ウランの備蓄90kg分を放棄し、研究炉で使用するウランを高濃縮から低濃縮に切り替えると発表した。2012年を目標達成の年とする。
カナダは、大量の使用済み高濃縮ウラン燃料を医療用アイソトープ生産炉から米国に返却すると発表した。「大量破壊兵器及び関連物質の拡散に対するG8グローバル・パートナーシップ」を拡大延長したものである。また、メキシコとベトナムから高濃縮ウランを除去する資金援助、世界核安全研究所による交流ワークショップのオタワでの主催、ロシアとの新たな二国間安全協力に1億ドルを供与といった策も発表した。
インドは、グローバル原子力パートナーシップセンターを設立し、核安全に必要な知識を生産・普及させていくとの方針を披露した。
チリ、カザフスタン、ベトナムは、民生施設で利用された高濃縮ウランを処理する合意を結んだ。
これらは、あくまで代表的なものに過ぎない。総じて言えば、個別国家による特定の試みは、核保全に向けた動きが実際に始まっていることを示している。
非拘束
サミットの主要成果は単に拘束力のないコミュニケであり、起草の苦労をそれほど要しないものにすぎないという批判が間違いなく出てくるであろう。
また、その核濃縮計画が今日の核を巡る国際不安の最大の源だとみなされているイランに対していかなる行動をとるべきかについて、サミットでは合意もなければ議論もなされていないという不満が既に出てきている。
たとえばイスラエルが保有しているような秘密の核備蓄については議題に上らなかったし、オバマ大統領は実際、その問題が記者会見で出されたときも回答を避けた、ということもできる。
サミットの参加国は米国が選び、普遍的な参加ではなかったという事実も、サミットの成果を損なうものだとの見方も出てくるだろう。
支持
これらは重要な問題であり、これからも問題にされ続けるであろう。しかし、拘束力のないコミュニケしか出されなかったことは、決定的な欠陥ではない。なぜなら、「拘束力ある」合意ですら、しばしば破られることがあるからだ。さらに、30ヶ国以上の元首が署名したコミュニケが簡単に無視されるとも思えない。
世論のもう片方側をみれば、核安全保障サミットの成果を評価する声もある。たとえば、核問題の専門家であり、長年にわたって核軍縮に向けて努力してきたサム・ナン元米上院議員は「我々はいま、分裂ではなく協力に向かって近づきつつある。」と語った。
英国のデイビッド・ミリバンド外相は、「サミットは核問題に関する『冷笑主義の文化』を破壊することに成功した。」と語った。
軍備管理協会のダリル・キンボール事務局長と同協会の核不拡散専門家ピーター・クレイル氏は、「サミットでは、核テロのリスクは各国で共有されており、単に米国にとってだけの脅威ではないということを指摘することができた。」と述べた。2人は、「米国議会が、世界中で核安全を高め違法な核密輸を取り締まる事業を支援する」よう求めた。
課題
オバマ大統領にとっては、核安全保障サミットは2009年4月のプラハ演説で打ち出した完全なる核軍縮という目標につながる、もうひとつの一里塚となるものだ。オバマ大統領は、日本に訪問した際、「核兵器なき世界に向けた共同声明」という形でこの目標を再確認している。
「プラハの春」に対する当初の熱狂から1年が過ぎ、米国政府はその精神をさらに涵養しようとしている。米国は、核兵器への依存を低減するとした「核態勢見直し」(NPR)を発表し、他方で、核不拡散条約(NPT)を強化しようとしている。ロシアとは戦略兵器削減条約(START)の後継条約を結んで、両国の戦略兵器の数を削減することに合意した。そして、今回の核安全保障サミットである。この次は、2010年5月のNPT運用検討会議だ。
次回の核安全保障サミットは2年後に韓国で開かれることになる。2009年から10年にかけての約束と希望が、すべての当事者によってどれだけ実現されるか、2012年に向けてどれだけの実行がなされるかによって、世界が(核保全を含めた)核軍縮に向けての準備ができているのか、それとも今日の大いなる希望と構想が明日の大きな失望に変わるのかが、測られることになろう。
翻訳=IPS Japan浅霧勝浩
This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service(IPS) and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.