【国連IPS=タリフ・ディーン】
東京に本部を置く「子どものための宗教者ネットワーク」(GNRC)の精神的指導者宮本けいし師によれば、世界22億人の子供の多くは、極貧、無関心、搾取の中で喘いでいるという。
宮本師は、IPSのタリフ・ディーン国連総局長に対し、「グローバル繁栄の時代そして科学/技術革新の中で、これは非人道的で受け入れ難いことである」と語った。
2000年5月にGNRCを立ち上げた「ありがとう基金」の代表を務める宮本師は、「(しかし)同時に、この数十年で大きな進歩があったことも認識すべきだ」と語った。
東京を拠とする同基金は、2002年の国連子供特別総会においてスピーチする栄誉を与えられた唯一の宗教非政府組織(NGO)である。
宮本師は、「以前のジェネレーションと比べれば、死亡する子供は減少し、学校へ通う子供は増加。男女差も軽減され、両親達は想像もできなかったコンピューター・アクセスやゲームといった多くの近代的娯楽設備を楽しんでいる」と指摘する。
インタビューの概要は次の通り。
IPS:世界の子供達は、貧困、戦争、性的虐待、労働搾取、HIV/AIDSの犠牲となっており、状況は依然悪化しています。これについてどうお考えですか。また、世界的に子供の犠牲が増えている原因は何でしょうか。
宮本けいし師(KM):世界の子供が置かれている状況は様々です。大きな格差があります。悪化の主原因は、ユニセフ(国連児童基金)その他の機関が言う、「はびこる貧困/不平等」、「HIV/AIDSの蔓延」、「戦争/紛争」の3つです。これらは特にアフリカ、アジアに広がっています。
セックス観光、インターネット・ポルノ、経済移民の搾取といったグローバリゼーションの悪い面が問題の複合をもたらしています。
物質の剥奪と子供の搾取の裏には、より深い原因があることを付け加えなければなりません。それは、近代社会におけるモラルと精神的価値の崩壊に関係しており、それが暴力や虐待、差別、子供の権利の蹂躙をもたらしているのです。
GNRCは、素晴らしい伝統や世界のあらゆる宗教の教えを基に、人間社会の尊い義務として子供の幸福の確保を優先する社会を築こうとしています。
IPS:国連、その付属機関、国際人道組織は、子供の犠牲の軽減に大きな貢献をしていると思いますか。そうだとすればどの様に、またそうでないとすれば、何故かをお聞かせ下さい。
KM:国連システムおよび国際人道機関は、世界の子供の状況改善に大きな貢献をしていることを忘れてはなりません。世界で最も広く批准されている人権協定である国連子供権利条約は、全加盟国及び子供権利活動家の行動の指針となる基準を設定しました。
国連が制定したミレニアム開発目標(MDGs)は、子供の幸福を優先課題としました。国連機関は、基準や目標の設定の他に、これら目標の達成のため加盟国に具体的支援を行っています。例えば、世界保健機構(WHO)およびユニセフは、毎年500万人が犠牲になっている天然痘の撲滅のため世界的対策を主導しました。今日では、数百万の子供達が犠牲となっていたもう一つの恐ろしい病気ポリオも地上から姿を消そうとしています。
ユネスコは子供の初等教育向上に貢献しています。国際労働機関(ILO)は、最悪の子供労働の禁止に役立っています。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、数百万の子供難民の保護に当たっています。赤十字、セーブ・ザ・チルドレン、オックスファム、CARE、ワールド・ヴィジョンといった多くの人道組織は、天然災害、人為危機の際の子供の保護に活躍しています。
彼らの熱意、支援が無ければ、政府の努力だけでは今日の様な進歩はあり得なかった、またあり得ないだろうと思います。
しかし、実際の子供のニーズとなると、国連機関、人道組織、NGOの努力は不十分と言わざるを得ません。従って、子供の人間としての可能性を花開かせることができる世界を創出するため、世界の宗教が手を携えてグローバルなキャンペーンを行う必要があるのです。
地球上の人々の大半は宗教を持っており、彼らの宗教的伝統およびコミュニティーは、子供の問題の解決に専念することが可能な広大な精神的、物質的リソースを有しているのです。
IPS : 教育、道徳、宗教は子供のリハビリにどの様な役割を果たすのでしょうか。世界の主要宗教は十分な働きを行っていますか。異宗教間の対話は役に立ちますか。
KM:教育は、人間の行動変化の鍵であり、特に子供に多様性の尊重、相互理解、寛容、非暴力、紛争の平和解決を教え込むのに役立ちます。道徳教育の主目的は、若いジェネレーションの心と精神にこの様な価値を植え付けることです。宗教は、このような価値を教え込むのに大変重要な役割を果たすことができます。何故なら、世界の主要宗教はすべて平和、思いやり、正義、連帯、慈悲を強調しているのですから。
残念ながら、人類の歴史を見ると多くの狂信者が、憎悪やその価値体系を広め、暴力の扇動/容認、有害な慣習の高級化を図るために宗教や迷信を唱えてきました。
異宗教間の対話は、世界の多くの信仰、伝統、価値体系の豊かさ、多様性のより良い理解、受け入れの鍵です。これらすべてを、子供および人類全体の幸福の促進のために活用することが可能です。
GNRCは、世界の宗教が分かち合う若い世代の保護/育成という目標を、“多様性の中の結束”の基本として、異宗教間対話の中心テーマに据えるべきであると考えています。
IPS:GNRCは5月に広島でフォーラムを主催する予定ですね。この国際会議の主要テーマは何ですか、そしてどの様な成果を期待していますか。
KM:GNRCは4年に1度、世界中の主要宗教界および伝統的な精神団体の代表を集めグローバル・フォーラムを開催しています。2008年5月24-26日の第3回広島フォーラムは、世界一流の専門家が集い次のテーマで講演します。
1)子供に対する暴力を終わらせるための道徳的課題:道徳教育の促進、宗教/精神界コミュニティーの動員、平和と非暴力の文化建設を目的とする意思決定者/市民社会の参加
2)子供の貧困を終わらせるための道徳的課題:道徳教育の促進、貧困解決のための宗教的教えと過去の遺産、子供優先の人間開発アジェンダ
3)環境保護のための道徳的課題:地球保護のための子供活動、環境保護を目的にした信仰コミュニティーの結束
広島フォーラムのハイライトは、今私が説明しました世界的な道徳教育の開始で、仮に「共に生きることを学ぶ:道徳教育のための異文化および異宗教プログラム」と題されましたマニュアルの中に詳しく記載されています。
道徳教育プログラムは、子供達および青少年にしっかりした道徳感を身につけさせるため新たな異宗教学習過程を導入します。それは、若者に他の文化/宗教に属する人々に対するより良い理解と尊重を学ばせ、グローバル・コミュニティー/非暴力的行動を身につけさせ、子供達を社会変化の主体として育成するものです。
更に、GNRCの6つの世界―地域ネットワークのコア・メンバー100人余が、フォーラムにおいて実績発表を行うと共に、GNRCの今後4年間の地域、国家、現地プログラムの計画を作成します。同フォーラムにおいて、子供の権利確立を目指す実行動へ向け宗教/精神指導者が新たなコミットメントを打ち出すものと期待しています。
我々はまた、同フォーラムがユニセフ、ユネスコを始めとする国連機関とGNRCの協力強化、また地球平和への希望と子供達のより良い未来を建設するための共通の価値観を広めるために役立つと信じています。
翻訳=IPS Japan浅霧勝浩