SDGsGoal13(気候変動に具体的な対策を)中国、キリバス、フィジー、そしてバヌアレブ島の村で: 気候変動の多重層的な影響の教科書的事例

中国、キリバス、フィジー、そしてバヌアレブ島の村で: 気候変動の多重層的な影響の教科書的事例

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=パウロ・バレイナコロドワ】

2021年2月末、太平洋島嶼国キリバスの政府は、14年にフィジー共和国のバヌアレブ島ナトバツ(Natovatu)に購入した土地を、中国と共同で開発する計画を発表した。中華人民共和国が太平洋島嶼国における影響力拡大の動きを強めていることから、この発表は国際社会に若干の懸念をもって迎えられた。太平洋地域で激化している戦略地政学的パワー競争に関連付けて解釈されたのである。(原文へ 

それが妥当な懸念であることは間違いないが、この計画発表は、気候変動の多重層的な影響の教科書的事例ともなり得るものである。それは、世界の政治・戦略的課題、地域と国家の問題、植民地時代の遺産を、太平洋の島にあるナビアビア村の村人たちの日常生活や彼らの懸念、現地レベルの紛争と結び付ける。端的に言えば、われわれは、この数百万ドル規模の開発によって深刻化すると思われる、複雑で込み入った極めて“厄介な問題”に取り組もうとしているのである。

2014年、キリバス政府は、フィジー共和国で2番目に大きい島であるバヌアレブ島に約5,500エーカーの土地を購入した。当時のキリバス大統領アノテ・トンは、気候変動の最初の被害者である太平洋の諸国民の英雄として国際的に有名になった。キリバスは低地の島々からなる環礁国で、気候変動に起因する海面上昇によって深刻な影響を受けている。遠くない将来、これらの島々が居住不可能になる、あるいは水没さえしかねないという現実の危機がある。そのため、アノテ・トンは「尊厳ある移住」、つまり手遅れになる前に国民の移住を準備することを提唱した。キリバス政府が土地を購入したのは、そのような背景があってのことだった。

当初はその土地に「イ・キリバス」(キリバス人)を再定住させるという案が話し合われたが、その後、海面上昇により大打撃を受けたキリバスの食料安全保障を支えるために、まずは食料生産に活用すべきだと思われるようになった。移住は、後々の一つの選択肢となった。アノテ・トンの後を継いだ新たなキリバス政府は、さらに政策を変更した。レジリエンスの構築にいっそうの重点を置き、移住の選択肢はあまり重視しなくなった。バヌアレブ島に購入した土地を中国と共同開発するつもりであるという近頃の発表は、このような変化と一致する。

キリバス政府は、このバヌア・ナトバツの土地をアングリカン教会から購入した。今日でもフィジーの土地のほとんどは、先住民イ・タウケイのコミュニティーによる慣習的共同所有の下にあるが、問題の土地はいわゆる自由保有地で、植民地時代にフィジーに来た外国人によって占有されていた。元々はカイバラギ(欧州人)が、カカウドロベ州ワイレブ地区のナイカキ村の土地を、元の土地所有者であるナトバツ・ヤブサ(族)を代表する先住民の首長から購入したものである。カイバラギは、その土地をアングリカン教会に譲渡した。

1941年にアングリカン教会は、フィジー全土のソロモン諸島出身者がその土地に定住することを認めた。年季労働者としてフィジーで働くために、19世紀にソロモン諸島から連れてこられた人々の子孫がいたのである。最後にそのような労働者がソロモン諸島からフィジーに来たのは、1905年のことである。年季労働者の子孫はフィジー全土に定住し、最大の島ビチレブ島にある首都スバの周辺にいくつかの居住地を形成していた。そのいくつかがアングリカン教会によってバヌアレブ島の土地に移転させられ、アングリカン教会の信徒にされ、ナビアビア村を形成したのである。

入植者たちの理解では、1957年にアングリカン教会が300エーカーの土地を彼らに分け与えたのであり、彼らが土地の所有権を持っている。しかし、フィジーの原住民イ・タウケイの土地所有者の場合と同様、これは土地所有権を示す正式な書類を伴わない単なる口頭の契約だったようである。ナビアビアの入植者たちは数十年にわたり、この土地と周囲のバヌア・ナトバツの土地を居住地および生計手段として使用してきた。したがって、アングリカン教会がキリバス政府に土地を売却したと知って、彼らは非常に大きなショックを受けた。彼らには何の相談もなかった。事が済んだ後で初めて知らされたのである。

入植者たちがキリバスの移住計画を知ったとき、彼らは大変心配し、「自分たちはこの土地に残れるのか?」「自分たちの生計手段はどうなるのか?」「イ・キリバスが実際に来るのはいつか?」「よそから来る彼らの文化はどういうものか?」「彼らと一緒の生活はどういうものになるのか?」といった、非常に大きな疑問をもった。

ナビアビアの人々は、すでに大変に困難かつ複雑な状況の中で生きている。メラネシアの離散民として、フィジー国民とはなったものの、彼らはいまなお、概して自らをフィジーには帰属していない(メラネシアの)ソロモン諸島出身者と認識している。また、アングリカン教会と元々のイ・タウケイの土地所有者たちとの間には、長年にわたる未解決の問題がある。近隣の村に住むナトバツ族の人々も、その土地の所有権を主張している。これら多くの困難かつ複雑な課題に加えて、キリバス政府が新しい正式な土地所有者となり、さらにフィジー政府はキリバス政府による土地購入を支持した。なぜなら、フィジーの土地を新たな住まいとして提供し、フィジーが気候変動により深刻な影響を受けている太平洋の兄弟姉妹と連帯する国家であることを示したいと考えたからである。

この問題は、中国の関与が発表されたことによっていっそう複雑化している。中国とキリバス政府が“開発”を意図している土地は、すでにそこに住んでいる人々に治安と生計手段をもたらしている土地である。そこを“開発”することは、ナビアビアの人々がすでに経験している現在の困難をさらに悪化させるだろう。幾重にも重なる関係者や利害関係が存在するこの土地で、それが紛争を巻き起こす大きな要因となることは間違いない。

筆者が所属する団体トランセンド・オセアニアは、この2~3年、現地の状況に沿って関係者らと協力を行ってきた。農地としての利用をめぐる不安と緊張は明白かつ現実のものであり、コロナ禍の経済的影響によりいっそう悪化している。当団体がナビアビアの状況を分析し、主要な紛争促進要因と特定したものには、歴史的な強制移住、国をまたがる気候移住、土地の所有権と利用権、関係の緊張、現地政府の能力的限界、開発プロジェクト、コロナ禍や自然災害の経済的影響、度重なる自然災害に起因する食料安全保障の欠如と食料不足、多くの若者が抱えるメンタルヘルスの問題、学校からの早期ドロップアウトと薬物乱用、ソーシャルメディアの無責任な利用、文化的なジェンダー観体系などがある。

これらの紛争促進要因のいくつかに取り組む中で、トランセンド・オセアニアは、入植者たちと周囲のイ・タウケイ村落の代表者たち(首長や主要な権力者)を集め、第1回の対話集会とリーダーシップ・トレーニングを行った。このような環境において紛争変容と平和構築には時間がかかり、長期的な取り組みが必要であることは明白である。中国の関与の発表は懸念を引き起こし、問題をいっそう複雑化させる。

この事例が如実に示すのは、気候変動の多重層的な特性であり、ひいては、気候変動政策に対して多面的なアプローチを採用し、気候変動、安全保障、平和構築の間の関連性に取り組む必要性である。われわれは、各層間の関連性を認識しなければならない。つまり、フィジーの島の村が中国やキリバスの首都政府に及ぼす影響や、その逆の影響である。

パウロ・バレイナコロダワは、フィジーに拠点を置く平和構築と開発の地域機関である「トランセンド・オセアニア」のプログラム・ディレクターである。

INPS Japan

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