【ナイロビIDN=マーク・カプチャンガ】
中国人にとってアフリカ大陸が新たな故郷になりつつある。4年前にケニアにきたリュウさん(3児の父)は、暫くは中国福建省の故郷に帰ることはないだろうという。
最近完成したばかりのティカ高速道路の建設に従事していたリュウさんは、今後はケニアで小売業を始めるか、違う仕事を探すつもりだという。
現在アフリカには新たな中国人移民の波が押し寄せているが、リュウさんの声はそうした中国人労働者の心情を代弁したものといえよう。今日までに中国からアフリカに渡航した労働者は81万人以上にのぼっている。そして彼らの大半が、アフリカ諸国では本国と比較して多くの収入が期待でき、ビジネスチャンスも多いことから、労働ビザの期限が切れた後も不法滞在を続けているのである。
また中にはアフリカの広大な耕作地に目をつけ、土地と農業ビジネスへの投資で一儲けを企図して渡航してくる者もいる。
中国輸出入銀行の李若谷総裁はかつて、「中国人農民が国を離れてアフリカで農民になることを認めても差し支えない。当銀行は、投資志向の農民の海外移住を支援する用意がある。」と発言したことがある。
それからばらくの間、中国のアフリカ進出に関する話題は大いに注目された。もっとも欧米諸国の見方には、中国の進出をアフリカにとっての機会というよりは脅威と受け止めているものが少なくない。
なかでも大きな懸念となってきたのが、中国ビジネスが現地の雇用に及ぼす影響である。巨額の中国資本が流入してきた結果、アフリカで数千におよぶ雇用が創出されたが、一方で地元の企業や労働者は、中国人企業家や中国人労働者に付随して持ち込まれる低価格製品や低く抑えた賃金体系との厳しい競争に晒されている。
中国人移住者や建設プロジェクトに従事していた元労働者(多くが不法滞在者)らは、本国とのコンタクトを梃に安い中国製品を仕入れて各地で商店を開業している。
こうした中国人労働者の進出は、既にアフリカ各地で不安材料として大きな懸念が浮上してきている。つまり彼らの進出が、地元では現地の企業の閉鎖や失業率の悪化とリンクして捉えられるようになってきているのである。
とりわけレソト、ザンビア、アンゴラ、南スーダンでは、反中国感情が高まっており、極端なケースでは、対立が暴力的なものに発展し、既に数名の中国人が殺害されたり重傷を負わされたりしている。
2012年8月、ザンビアの炭鉱労働者が、低賃金に対する抗議行動のさなか、中国人の炭鉱管理責任者を殺害するという事件があった。その2年前には、同じ鉱山で中国人監督2人が、低賃金と労働条件の改善を求め抗議したザンビア人炭鉱労働者に向けて銃を乱射し、ザンビア当局によって13人を殺害しようとした罪で起訴されていた。
中国人の人口増加に対して抵抗が大きいのは、中国人による小規模ビジネスが増えるとともに不十分な労働慣行が顕在化している経済規模が小さな国々に集中している。しかし、より経済規模が大きく安定している国については、様子が異なっている。
アフリカ最大の経済規模をもつ南アフリカ共和国(南ア)の場合、反中感情はそれほどでもない。この国では、むしろ中国製品が幅広く、多くの国民がより手ごろな値段で市場に流通していることを歓迎している。南アでは、アジア人が移民人口の大きな部分を占めており、現時点で約20万人の中国人が暮らしているとみられている。
こうしたなか、アフリカ各国では中国人の投資に対する国民感情に配慮して、地域住民のニーズを汲み取った労働法の改正作業が進められている。つまり改正内容の趣旨は、国内における中国人の就労を、労働許可証を保持した者に限るよう徹底するというもので、ガーナやタンザニアでは、中国人不法滞在者に対する厳しい取り締まりが既に実施に移されている。とりわけ、「ジャカリ(juakali)」と呼ばれる無許可の露天商など非公式経済で労働に従事している中国人移民は起訴されることになる。
昨年、タンザニア政府は、数百人におよぶ中国人違法滞在者に対して、彼らは投資家として滞在が認められていたにもかかわらず、実際には市場で露天商や靴磨き等の副業に勤しんでいるとして、30日以内に国内の労働市場から撤退するよう命令を出した。
また、アフリカ大陸全域に亘って、社内の労働力に占める中国人労働者の割合を減らすよう求める声は依然として大きい。
アフリカで中国の進出がもっと著しいアンゴラでは、アンゴラ人労働者が全体の労働力に占める割合は約75%である。しかし平均すれば、中国人労働者の方がアンゴラ人労働者よりも勤労意欲が高く、社内で同じ部署に配置されても生産効率が高い傾向にある。しかし興味深いことにこうした中国人労働者の生産性の高さには、それなりのコストが伴っているようだ。
つまり中国人労働者の所得レベルはアンゴラ人労働者のものよりも平均で6割高く、その他にも住宅、少なくとも年一回の中国帰郷の保障、労働許可証の取得手続き費用、医療費など雇用主に追加の負担がかかっているのである。
企業側でも政府の対応を受けて、新たな労働法のガイドラインのもとで、主に地元労働者の生産性を上げて雇用しやすくするなど、中国人労働者にかわって積極的に地元労働者をと採用する動きが出てきている。また中には、中国人に代わってアンゴラ人の管理職を積極的に登用して事業の統合や生産性の向上を図っている企業もある。
翻訳=IPS Japan
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