【ウランバートルIDN=J・エンクサイハン】
2020年の前半は、世界がますます緊密に繋がってきていること、そして、国境がない3つの生存上の脅威(①大量破壊兵器の存在、②気候変動、③新型コロナウィルス感染症のパンデミック)に対処するには、各国政府とあらゆるステークホールダーが協力し合うことが不可欠であるという現実を、私たちが改めて突き付けられた期間となった。
こうした脅威に対して何の対策も取らず、無視を決め込むことは、それ自体が第4の脅威となる。また、国際環境にマイナスの影響を及ぼす大国間の政治的・経済的角逐が強まりつつある。
パンデミック:上記の脅威の中で、とりわけ新型コロナウィルス感染症のパンデミックが、単独行動主義や保護主義、大国間の角逐ではなく、むしろ多国間主義と相互理解・協力こそが、共通の脅威と難題に実質的に対処するために必要であることを明示している。今日、「別々に行動するより団結する方が良い(死ぬも生きるも全員の意味)」という諺のとおり、狭隘なナショナリズムや大国間の角逐よりも広範な協力の重要性が増している。
パンデミックは、多くの国々における医療システムや公衆衛生を促進する国際協力が、今回の新型コロナウィルス感染症に対しては依然として脆弱なものであり、先進国ですら効果的な対応をとれなかったことを示した。適切な措置を取り、対応策に関する情報や経験を持ち寄る時間は失われた。効果的なワクチンの開発には、科学者や医者だけではなく、全世界の力が必要だ。願わくば、世界は、その他の生存上の脅威に対しても緊密に協力するようになってほしいものだ。
核兵器・生物・化学兵器を含む大量破壊兵器は、人類に対する明確な生存上の脅威である。新型コロナウィルスの感染拡大を念頭に置きつつ、パンデミックの兵器化を防ぐために、1972年の生物兵器禁止条約を再考する必要がある。
核兵器に関しては、その脅威は冷戦終結とともに除去されたわけではなかった。それどころか、核兵器保有国の数は増えてきた。冷戦終結後の30年、米国とロシアが保有する核兵器の数は減り続けているが、核兵器の脅威は低減されるどころか、むしろ増大している。
米ロ二国間の重要な核兵器全廃あるいは削減に関する協定は破棄され、その他の協定についても攻撃を受けている。超音速兵器、宇宙兵器、その他の先進兵器やシステムが開発される一方、核兵器が使用されるハードルは、核兵器低出力・小型化が進む中で下がってきている。
核実験の再開に関する議論さえ出てきているが、もし実施されれば広範囲な連鎖反応を生むことになるだろう。核不拡散体制は、「核軍備競争の停止および核軍縮に関する全面的かつ完全な軍備縮小に関する条約について、誠実に交渉を行うことを約束する。」という公約の履行をNPTの加盟国である核兵器国が拒んでいるために、弱体化している。
米国による、イラン核計画に関する多国間合意からの一方的な離脱は、合意を崩壊させるリスクを高めた。朝鮮半島における非核化協議は、重大な公約を実現しようという意思が当事国に欠けていたために停滞している。
こうした問題含みの動きが起こる一方で、核兵器が、故意、人間やシステム上のエラー、あるいは過失によって使用されることがあれば、その脅威は、現在の新型コロナウィルス感染症のパンデミックと違って、よく訓練を受けた献身的な医者でさえ実質的に役に立たなくなるぐらい大きな被害が瞬間的に生じるものとなる。
1945年に広島と長崎で核兵器の使用がもたらす壊滅的な人道上の帰結と、被爆者の証言をよく知る各国の医師たちは1980年、核戦争防止国際医師会議(IPPNW)を設立した。IPPNWは、核兵器が使用された環境下では、医師が犠牲者に適切な医療支援を行うことは不可能であり、最善の対応策は、そもそもそうした惨事を引き起こさないようにすることだと宣言した。
核兵器の使用がもたらす人道上の影響に関する最近の研究では、核兵器がわずか数発使用されるだけでも数十万人が即時に死亡し、その後にもっと多くの人々が苦しみながら亡くなったり、苦難を経験したりするとされている。また、いわゆる「核の飢餓」につながる、気候の壊滅的な崩壊を世界的に生み出すとされている。
メディアの役割:現在起こっているマスコミ革命は、一般の人々にとってメディアを最も直接的な情報源に押し上げた。今日、人々の意識を高め、その態度や意見を形成し、人々の行動を通じて、最終的な意思決定者、つまり各国の政府に影響を与えるうえで、メディアは重要な役割を果たすと期待されている。
しかし、メディアは、広範に利用できる情報の単なる伝達者であってはならない。なぜなら、そうした情報の中には、客観的な事実に基づいた情報もあるが、情報の利用者に影響を及ぼすような偏見を持ったものや、フェイクニュースも含まれるからだ。
メディアは「良いニュースは悪いニュース」あるいは「悪いニュースは良いニュース」という論理に従ってはいけない。メディアがすべきことは、安全と平和、人々の相互理解を促進することだ。それは具体的には、客観的な情報を提供する、責任ある効果的な媒体として機能し、ニュースのより大きな背景や影響を示し、人びとが、問題の性格・課題・可能性がよく理解できるように問題の文脈を明確にし、人びとが直接、あるいは、同じような見方を共有する集団を通じて問題に積極的に関わっていけるようにすることを通じて、なされるべきだ。(原文へ)
※著者は、モンゴルの元国連大使で、NGO「ブルーバナー」の代表。この記事は、国連SDGメディアコンパクトの正式加盟通信社IDN-InDepthNewsを主幹メディアに持つInternational Press SyndicateがSoka Gakkai Internationalと推進しているメディアプロジェクト「Toward a Nuclear Free World」の最新レポートの序文として寄稿されたものである。
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