【ニューヨークIDN=ジャヤ・ラマチャンドラン】
「リーチング・クリティカル・ウィル」のレイ・アチソン代表は、『第一委員会モニター2018(11月5日号)』の中で、「もし今年の第一委員会を表す単語をひとつ選べと言われたら、『Contentious(争い・論争)』が候補の上位に挙がってくるだろう。言葉のあらゆる意味において、非難と拒絶の度合いが増し、外交の場におけるただの罵りあいに近くなってきている」と述べている。
アチソン氏が語っているのは、10月8日から11月9日にかけて開かれた第73回国連総会第一委員会(軍縮・安全保障問題)のことである。
アチソン氏の見方は、国連総会が出している非公式の会議記録を詳細に読むことで確認できる。また、「核兵器なき世界」の実現に向けて国連に焦点をあてたイニチアチブや行動のためのプラットフォームであるUNFOLD ZEROも、国連総会の議論に深い分断が見られたとの見方で一致している。
第一委員会のイオン・ジンガ議長(ルーマニア国連大使)は閉会の挨拶で、「加盟国の行為が、我々皆が向き合わなくてはならない結果をもたらすことから、軍縮と国際安全保障は、あなた方(=各加盟国)の行動にかかっているのです。」「つまり、この委員会を通じて我々がいかに共通の目標を達成できるかは、各加盟国の委員会に対するアプローチの仕方にかかっているのです。」と語った。
ジンガ議長は、4週間にわたった審議の成果について、第一委員会は総会に対して68本の決議・決定案を送ったと述べた。その多くが投票によって可決されたものである。そのうち、26本は無投票によるものだった。これは、第72回国連総会の時の全会一致可決率48%よりも低い割合である。
一部の代表は、投票後に自らの立場を説明する中でこうした傾向について触れ、以前なら全会一致で可決されていたような内容の多くの決議案が、今会期では記録投票に付されたと述べた。実際、一部の代表は、サイバー空間における責任ある行動を加盟国に求める規範設定的な指針作りを目的とした同じような内容の2本の決議案が記録投票に付されたことは遺憾である、と述べた。
そううちの一つが、ロシアが提案した決議案「国際安全保障分野における情報及び電気通信分野の進展」(A/C.1/73/L.27.Rev.1)で、委員会は賛成109、反対45、棄権16で可決した。これにしたがって総会は、2019年に公開作業部会を開くかどうかを、加盟国の責任ある行動に関する規則・規範・原則を全会一致で策定することを含め、決定することになる。
そしてもう一つが、米国が提案した決議案「国際安全保障の文脈におけるサイバー空間での責任ある国家行動」(A/C.1/73/L.37)で、委員会は、賛成139、反対11、棄権18で可決した。この決議の文言によって、総会は、2019年に設置される予定の政府専門家グループの支援を得ながら、情報安全保障の分野における現在および将来の脅威に対処する協力措置について研究を継続するよう事務総長に要求することになるだろう。ここには、加盟国の責任ある行動に関する規則・規範・原則を決定することが含まれる。
一部の代表らは、ロシア提出の決議案の内容には昨年までの決議案とは異なった点があり、「政府専門家グループ」による報告書の内容が意味を捻じ曲げる形で引用されていることから決議案を変容させてしまうような部分があったと指摘した。他の代表らは、米国案は新たに別の政府専門家グループの設置を呼びかけているが、任務も従前のものと同じであり、メンバー構成についても従来と同じような選択基準であると語った。
議論が続く中、ロシア代表は、[国連の]ホスト国である米国の意見と合わない国の代表の一部が国連入りを米国によって拒まれている、と語った。この政府間フォーラム(=国連)に誰を出席させるかは各国政府の裁量に委ねられており、選ばれた代表には無条件で入国許可が与えられるべきだ、とロシア代表は語った。
ロシアの批判は、第一委員会を担当するロシア連邦外務省の局長が、ホスト国である米国によってビザ発給を拒まれた件に絡んでいる。驚くべき事態であった。
「審議と採決は、核兵器国の間で高まる緊張と、非核兵器国と核兵器に安全保障を依存している国々との間の深まる分断という環境の中で行われた。」とUNFOLD ZEROは見ている。
UNFOLD ZEROは、国連創設を記念して始まった「国連軍縮ウィーク」(10月24~30日)の間、「分裂した国連総会」が核軍縮関連の決議案の投票を行っていた、と指摘した。
「核の脅威を低減する」と題されたインド提出の決議案は、賛成票127(そのほとんどが非同盟諸国)を得た。核武装国や欧州諸国からの支持は得られなかったが、それは、この決議が中国・フランス・ロシア・英国・米国による核リスク低減策だけを呼びかけていて、インド・パキスタン・北朝鮮・イスラエルを対象から外していたからだ。
非核兵器国のグループが提出した決議案「核兵器システムの作戦態勢の低減」は、これよりも多い173カ国の賛成を得た。北大西洋条約機構(NATO)諸国や、4つの核兵器国(中国・北朝鮮・インド・パキスタン)も賛成している。
核兵器禁止条約(核禁条約)に関する決議案には、2017年7月に122カ国が賛成した。これは、核禁条約に署名した国の数よりも多い。核禁条約にはこれまでに68カ国が署名しているが、そのうち批准を済ませているのはわずか19カ国である。投票結果からすれば、署名国はもっと増えてくるだろう。
しかし、核兵器国や、NATO・オーストラリア・日本・韓国のように核の傘に依存している国々はこの決議には賛成しなかった。核保有国やその同盟国の反対は、これらの国々が核禁条約に参加する意思がないことを示している。
一般的には、これらの国々は核禁条約の義務に拘束されることはない。しかし、同条約が再確認しているように、核兵器使用を違法とする慣習国際法が、核禁条約に加入するか否かに関わらず、すべての国々に適用されることになる。
インドが提出した決議案「核兵器使用の禁止」は、インドに加えた3つの核兵器国(中国・北朝鮮・パキスタン)を含め、120カ国の賛成を得た。
一部の非核兵器国は、インドが1998年に核実験を行って核保有国となったことから、同決議案に例年反対している。インドは、核兵器の人道的影響に関する国際会議にインドが参加したこと、同会議が核兵器の使用を予防する重要性に焦点を当てていたことから、同決議案への反対姿勢を考え直すように諸国に呼びかけている。
UNFOLD ZEROはさらに、「核軍縮に関する国連ハイレベル会議」に関する以前の国連の決定を確認する決議案(賛成143カ国)にも触れている。「核軍縮に関する2013年の国連総会ハイレベル会議へのフォローアップ」と題されたこの決議案はまた、包括的な核兵器禁止条約(NWC)の交渉入りも訴えている。これは、(核保有国が含まれていない核禁条約とは異なり)核保有国も含めて核兵器を禁止する条約案である。
ハイレベル会議は、一部の核保有国も含めて力強い支持を得てはいるが、まだ十分な政治的推進力を得ていない。同決議案は、ハイレベル会議の実施期日には触れなかった。
国連総会はさらに、核兵器やその他の大量破壊兵器のない地帯を中東に創設することに関する会議を2019年までに招集する決定も採択した。
中東非大量破壊兵器地帯という目的自体は別の決議(賛成174)によって国連加盟国のほとんどによって支持されているにも関わらず、「法的拘束力のある条約を作成するため」に2019年の会議招集を求めるこの決議案にはわずか103カ国の賛成しか集まらなかった。
決議案にあまり多くの国々が賛成しなかった理由は、中東に非大量破壊兵器地帯を創設する条約を具体的に策定し交渉入りするには、中東のすべての国々の参加が必要だと考えているためだ。しかし、今のところ、少なくとも1つの国(イスラエル)が、そうした地域条約の作業に入る予定がないとしている。(原文へ)
INPS Japan
This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.
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