【国連IDN=ラメシュ・ジャウラ】
国連本部で開かれていた核兵器を法的に禁止する条約の制定を目指す交渉会議で7月7日、核兵器禁止条約が、「歴史的」かつ感動的な雰囲気の中で、賛成多数で採択された。
交渉会議の議長をつとめたエレイン・ホワイト・ゴメス駐ジュネーブ軍縮大使(コスタリカ)は、第二次世界大戦終盤の1945年8月に広島・長崎で最初の原爆が使用されてから「70年、世界はこの法的規範を待ち望んできました。」と語った。
「とても感動しています。なぜなら、私たちは現在と将来の世代の希望と夢に、いま応えているからです。」とホワイト議長はニューヨーク国連本部で開かれた記者会見で語った。
核兵器禁止条約は、この20年の間、議論されてきた核軍縮に、初めて法的拘束力を持たせた多国間の枠組みである。この条約によって、世界は核兵器の完全廃絶に「一歩近づきました。」とホワイト議長は語った。
賛成122、反対1(オランダ)、棄権1(シンガポール)で採択された核兵器禁止条約は、核兵器やその他の核爆発装置の開発・実験・生産・製造・取得・保有・備蓄などの核兵器関連活動を全体として禁止している。禁止事項には、核兵器やその他の核爆発装置を使用したり、使用の威嚇を行ったりすることも含まれている。
ホワイト議長は、「129カ国が条約の起草に加わったが、これは193の国連加盟国の3分の2にあたります。」と語った。しかし、全ての核兵器保有国(国連安保理常任理事国である米国・英国・フランス・ロシア・中国に、インド・パキスタン・イスラエル・北朝鮮を加えた9カ国)と、核の抑止力に依存する北大西洋条約機構(NATO)加盟国などの国々は、協議に参加しなかった。
唯一の例外は、米国の核兵器を領土に配備することを認めているオランダであった。国会が交渉会議に代表を送るよう政府に要請したためである。
核兵器禁止条約は「核兵器の全面的廃絶のための国際デー」に6日先立つ9月20日にニューヨークの国連本部で全ての加盟国に対して署名開放され、少なくとも50カ国が批准すれば90日後に発効する。
国連のステファン・ドゥジャリク事務総長報道官は採択後、「核兵器禁止条約は、核兵器のない世界という共通の目標に向けた重要な一歩です。」「グレーレス事務総長は、この新しい条約が、長年停滞してきた核軍縮の実現に向け、包括的な対話と新たな国際協力が進むことを望んでいます。」と語った。
しかし、米国・英国・フランスの3カ国は7月7日に共同で声明を出し、「我々は条約交渉には加わらなかった…そして、条約に署名・批准したり、加盟国になったりする意図は全くない。」と語った。
共同声明はさらに、「この取り組みは、国際安全保障環境の現実を無視したものだ」と指摘したうえで、「核兵器禁止条約の締結は、欧州と北東アジアにおいて70年間以上も平和を保つうえで不可欠であった核抑止の政策と矛盾する。」と主張した。
ホワイト議長は、この共同声明が提起した疑問点について、「かつて核不拡散条約(NPT)が採択された際にも、加盟国数は多くなかった。」という事実を指摘した。
1968年に署名開放された同条約は1970年に発効した。1995年5月11日、条約は無期限延長された。5つの核兵器国を含めた全191カ国が条約に加盟している。「当初は、これらの国々がNPTに加盟することは考えもしなかったことです。」とホワイト議長は指摘したうえで、「しかし、世界も国際状況も変化しているのです。」と論じた。
ホワイト議長はまた、核爆発の被害を者を意味する「ヒバクシャ」が、核兵器禁止条約の採択を加速する原動力であったと語った。ヒバクシャが証言し続けてきた壮絶な被爆経験の内容は「人々の心を打つもの」であり、核兵器禁止条約の採択に向けた交渉は、まさに「理性と心情の組み合わせ」であったと語った。
新たに国連軍縮問題担当上級代表に就任した中満泉氏は、最近の「国連ニュース」のインタビューの中で「核兵器国とその一部の同盟国は、現在は交渉に加わることができないかもしれません。しかし、結果的には参加できるような条約になることを私は期待しています。」と語った。
中満上級代表は、「扉はすべての国に対して開放されておらねばならず、こうした包摂性が条約に組み込まれるべきです。」と語った。
条約草案には、核保有国が参加する様々な道筋が埋め込まれている。たとえば、ある核保有国が加盟する場合、加盟前に核兵器プログラムをまず廃止しなくてはならないが、当該国は、その核物質及び核施設のリストの完全性を検証する目的で、国際原子力機関(IAEA)と協力する必要がある。これは(1990年代に核兵器を自ら放棄した)南アフリカ共和国が行った手続きと同じである。
ホワイト議長は7月6日の記者会見で、「これは交渉ですから、いかなる国の代表も自国の観点から望む全てを手にして議場をあとにすることなどできません。」と指摘する一方で、「その熱情と知識、集団的な経験でもってこの交渉プロセスを突き動かしてきた市民社会も含め、この会議に参加する圧倒的多数の人びとの希望を最終草案は捉えたものです。」と自信を示した。
国連ニュースによると、ホワイト議長は記者の質問に対して、核兵器なき世界の実現に向けた最初のステップとして国際的な法的規範を確立することの重要性を強調した。つまり、「(将来的に)核保有国が参加する機が熟した際に、それを可能にする仕組みが既に存在していることになるのです。」と説明した。
また、「あらゆる人々が、核保有国が条約に『遅かれ早かれ』参加することを望んでいますが、いつになるかは分かりません。」と語った。さらにIDNの質問に対して、「私は今後も、協議に参加しなかった国々との対話を続けていきます。」と語った。
北朝鮮の核・弾道ミサイル開発をめぐる現在の緊張が協議に与えた影響について問われたホワイト議長は、「法的規範を確立すれば、国の行動に必ず影響を及ぼしますし、21世紀の新しい安全保障パラダイムを形成するうえで根本的な役割を果たすことになります。」「核兵器禁止条約は、核軍縮・不拡散体制の世界的な仕組みを補完し強化していくものに違いありません。これは人類にとって歴史的な出来事です。」と語った。
この「歴史的な出来事」の起源は、核兵器の全面的廃絶を目指し、法的拘束力のある核兵器禁止条約の交渉を行うための国連会議を2017年に開催することを決定した国連総会決議71/258に遡る。
国連総会は、すべての加盟国に会議への参加を推奨し、国際組織や市民社会の代表の参加と貢献も得つつ、会議が他の決定をしないかぎり、国連総会の手続き規則に従ってニューヨークで招集されるべきものと決定した。
こうして核兵器禁止条約交渉会議はニューヨークで3月27日~31日と、6月15日~7月7日に開催された。
この会議を招集する決定は、決議70/33に基づき招集された多国間核軍縮交渉の前進に関する国連公開作業部会の勧告に従ったものである。
タイのタニ・トーンパクディ大使が議長を務めた公開作業部会は、その報告書で、法的拘束力のある核兵器禁止条約を締結すれば、核兵器の原則的な禁止とそれに伴う義務のほか、核兵器のない世界を実現、維持するための政治的な確約も得られるだろうと明記していた。
公開作業部会の最重要マンデートは、核兵器なき世界を実現、維持するために締結する必要のある具体的かつ実効的な法的措置、法的条項、規範の問題を扱うことであった。(原文へ)
翻訳:INPS Japan
This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.
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