【国連IPS=エリザベス・ウィットマン】
中東の非大量破壊兵器化に関して会議が開かれる予定の2012年まであと4ヶ月。しかし、未だに会議の開催日も、ファシリテーター役も、開催国も決まっていない。
2010年の核不拡散条約(NPT)運用検討会議において、条約加盟国は、1995年の「中東に関する決議」に従って、中東における生物兵器・化学兵器・核兵器の軍縮について議論する、中東の全諸国を当事者とした会議を開くことに合意した。米国、英国、ロシア、国連事務総長が、会議の開催に向けて準備を進めることも決まった。
中東諸国と会議準備国双方の政府高官による準備協議が進行中ではあるが、依然として、会議開催国も、ファシリテーターも、開催日も―これらはすべて会議開催に必要なものである―決まっていないことは「きわめて残念です」と話すのは、米英安全保障情報評議会のワシントン支部代表であるアン・ペンケス氏である。
軍備管理協会のダリル・キンボール事務局長も、「会議開催に向けた集中的な協議がたしかに行われている」としているが、一方で、「仮に会議が開かれるとして、関係諸国が、会議を生産的なものにするような内容面よりも、実務面に焦点を当てすぎるのではないか」との懸念を表明している。
会議の実務面の決定に遅れを生じさせている要因は多くあるが、なかでも重要なのは、どの国が会議を主催するのか、誰がファシリテーターになるのかが決まっていないことである。
キンボール事務局長は、中東諸国をすべて一堂に集めること自体、きわめてハードルが高く、たんに会議開催に合意するだけでも「大きな突破口だ」と強調したうえで、「イスラエルとエジプト、イラン、シリア、サウジアラビアが同じ会議室に集い、建設的な会話を交わすというのは、きわめてハードルの高い取り組みです。」とIPSの取材に応じて語った。
部屋の中の象*
イスラエルが核保有を公式宣言していないことは、政治的論議の多くの領域において障害となっている。しかし、議論が軍縮に絡んでくると、ますますこの問題はセンシティブなものとなる。イスラエルは、NPT運用検討会議の最終文書が同国が条約加盟国でないことを名指しで批判したことで、態度を硬化させている。
ペンケス、キンボール両氏によると、その結果、イスラエル政府は、2012年の会議が、イスラエルとその核政策にのみ焦点を当てたものになってしまうのではないかと懸念しているという。
しかし、イスラエルがもし会議に参加するならば、そうした可能性もむしろイスラエルの利益に変わるであろう。キンボール事務局長は、イスラエルが会議に出ること自体、中東におけるイスラエルの評価を高めると考えている。「会議出席によって、イスラエルには、中東の他の国が化学兵器・生物兵器・核兵器の不拡散の義務をはたす必要について指摘する機会が与えられることになるだろう。」と、キンボール事務局長は付加えた。
イスラエルは、中東唯一のNPT非加盟国であり、公式宣言しないまま核を保有しているという事実は広く認められている。一方、シリアとイランはNPT加盟国だが、それぞれ、化学兵器と核兵器開発を進めているものとみられている。
イスラエルが2012年の会議にどれほど関与してくるかは不確実である。かつては、イスラエルだけを非難しないという条件をつけて会議に参加してくる見通しもあった。この点についてキンボール事務局長は、「イスラエルはきわめて用心深く、会議参加への態度を明らかにしてこなかった。」と語った。
しかし、ペンケス氏は、「非大量破壊兵器地帯化を議論することに『オープンな』イスラエルの政府関係者達と話したことがあるが、イスラエルは中東会議に向けた議論のプロセスには関与し続ける意向だった。」と語った。
この点について、イスラエルの国連代表部からのコメントは得られなかった。
中東和平
現在中東の多くの国を席巻している政治的動乱と不確実な状況は、すでに非常に複雑でセンシティブな問題に関する議論を単純化することにはならないようだ。
「近年、軍縮問題はこれらの国々にとって外交課題の首位を占めなくなってきている」とキンボール事務局長は指摘した。結果として、2012年会議の準備は遅れている。
一方ケンぺス氏は、「中東諸国が民衆蜂起の問題に気をとられていたとしても、こうした不確実な状況にあるからこそ軍縮会議を開く必要性、とりわけ、イスラエルがすべての隣国と同じテーブルにつく中東会議を開く重要性はかえって高まっています。」と語った。
またペンケス氏は、「民衆蜂起を理由にして2012年会議への不参加を決める国も出てくるかもしれないが、それを実際に意図している国があるようには思えません。」と語った。
軍縮問題は常に中東の和平プロセスと強く結びついてきた。とりわけ、和平プロセスの重要プレイヤーであるイスラエルにとっては、安全保障がもっとも重要な問題だからである。
かつて国連で兵器査察を行っていたリチャード・バトラー氏は、軍縮は和平プロセスにとって「本来的に重要なもの」だとIPSの取材に電子メールで答えた。
しかし、ペンケス氏によれば、和平プロセスと軍縮の問題を切り離すべきという「強い主張」もあるという。
中東の軍縮と和平プロセスの関係がどのような形をとるのかということは別にしても、どちらの問題も長期にわたる時間と着実なコミットメントを必要とする複雑な問題である。中東の軍縮はわずか1回限りの会議で達成できるものではない。しかし、そうした努力なしには、進歩が得られることはなおさらないだろう。
ペンケス氏は「事態はゆっくりとしか進んでいない。しかし、進んでいることは確かである。」と結論付けた。(原文へ)
翻訳=IPS Japan浅霧勝浩
*Elephant in the room: 誰もが認識しているが話したがらない重要な問題
関連記事:
|軍縮|五大国が核軍縮について協議
|軍縮|アラブ民衆蜂起で中東非核地帯はどうなる
|軍縮|核兵器なき世界には核実験禁止が不可欠