【パリIDN=R・ナストラニス】
もし医者から「体重を減らしたいなら、床屋で髪を切れば?」と言われたなら、あなたはどう思うだろうか。しかし、この種の怪しげな議論が、政府開発援助(ODA)の提供者によって展開されているのである。2011年のODAは前年比で3%低下した。この14年間ではじめてのことであった。
異例の債務削減の時期にあることはおくとしても、これは1997年以来はじめての下落であり、経済協力開発機構(OECD)諸国の厳しい財政状況を考え合わせると、今後数年も対外援助への圧力は強いと多くの専門家はみている。
2011年、OECD開発援助委員会(DAC)の諸国は、合計で1335億ドルのODAを行った。これは、国民総所得(GNI)合計の0.31%にあたる。ODAが過去最高に達した2010年からは2.7%の減である。この減少は、冒頭の「床屋」的論理を使ってODA予算を減らし財政上の制約に対処しようとしているDAC諸国があることを示している。
アンヘル・グリアOECD事務総長と国際援助・人道機関のオックスファムは、このODAの減少に深い危惧を表明している。
オックスファムは4月4日、OECDが発表したこの最新統計について、「欧州諸国の間で開発援助を削減する動きが広まった結果、約6億人の子ども達が命取りになりかねない病気に対する予防接種を受けられなくなり、マラリアから身を守ってくれる5億張にも及ぶ蚊帳を貧しい人々の手元に届けられなくなってしまった。」と警告した。
メキシコ人のグリア事務総長は、約束を果たすよう富裕国に対して求め、「途上国が危機の玉突き効果の影響を受け、援助をもっとも必要としているときにODAが減少することは重大な懸念です。援助は、低収入国へのフロー全体からすればあくまで一部分であり、この経済の困難時にあって、投資も輸出も減少しています。厳しい財政再建計画の中にあっても約束を果たしている国々は称賛に値します。なぜなら、こうした国々は、危機を開発協力への配分を減らす言い訳として使ってはならないということを、行動で示しているからです。」と語った。
OECD開発援助委員会のブライアン・アトウッド委員長もまた同じような懸念を示した。「公約を果たしていない国があることは残念ですが、ODA全体の水準を見るならば、疾病から安全保障上の脅威、気候変動にいたるまで、世界的な課題は開発の進展なしには解決されえないという認識が高まっていることを示しています。」と語った。
援助の質もまた重要である。援助国・被援助国の強いパートナーシップで援助をより効果的にすることが肝要である。釜山で結ばれた新しい「グローバル・パートナーシップ」と、5月に発表される予定のOECDの新しい「開発戦略」が、将来の開発への新しい道を指し示すことになるだろう。
ODA合計の中では、債務削減や人道援助を除く主要な二国間プロジェクトが、実額で4.5%低下している。
2011年の最大のドナーは、米国、ドイツ、英国、フランス、日本であった。デンマーク、ルクセンブルク、オランダ、ノルウェー、スウェーデンは、国連による目標であるGNI比0.7%を達成している。実額では、最大の増額を示したのはイタリア、ニュージーランド、スウェーデン、スイス。他方で、DAC諸国の中で16ヶ国が減額しており、なかでも、オーストリア、ベルギー、ギリシャ、日本、スペインは最大の減少幅を見せた。G7諸国はDAC全体によるODAの69%、EUは54%を占めている。
米国は純額307億ドルと依然として最大のドナー国だが、実額で見れば2010年からは0.9%の減となっている。GNIに占める比率は0.20%で、2010年時の0.21%から下がっている。一方、米国の対アフリカ二国間ODAは史上最大の93億ドル(+17.4%)で、後発開発途上国(LDC)に対する援助も、100億ドル(+6.9%)へと増加した。
オックスファムの分析
オックスファムの分析によると、2011年現在のペースでは、今後50年経ってもGNIの0.7%という目標に達することはない。西欧諸国は世界全体のトレンドよりは比較的良好であるが、それでも0.45%であり、2010年の目標として掲げられていた0.51%には達していない。これは額で言うと、目標に77億ユーロ足りていない。
欧州では、ギリシャがマイナス39.3%、スペインがマイナス32.7%と、最大の下げ幅を示した。他に、オーストリアとベルギーがかなり額を減らしている。しかし、実情は数字で見る以上に深刻である。スペインはすでにさらなる削減を発表しているし、現在は目標の0.7%に達しているオランダですら、減額の議論が始まっている。
他方で、ノルウェー、デンマーク、ルクセンブルクは、0.7%目標を達成しつづけると約束し、英国は2013年までに同目標を達成するとしている。ドイツとスウェーデンは援助額を増やしている。イタリアは昨年よりは増やしているが、これは主に債務削減と移民にかかるコストの上昇でインフレ圧力がかかったためである。
オックスファムは、公約を達成し額を増やす国があるということは、援助の減額は経済的な必要から来るものというよりも政治的な選択の問題であると分析している。そのうえで同団体は、世界でもっとも貧しい国々への援助減額の流れを止め、約束を実行するよう欧州諸国に求めている。
オックスファムのEU開発問題の専門家であるキャサリン・オライアー氏は、「欧州による開発支援の急速な減額は言い訳ができるものではありません。これは、銀行救済が続く一方で、世界でもっとも貧しい人々が[先進国の]緊縮財政の犠牲を払うということを意味しているのです。」と語った。
「援助を減らすことでバランスシートは改善しません。援助をほんのわずか減らしただけでも、人々は命を救う薬やきれいな水を手に入れることができなくなるのです。援助は欧州各国の予算規模からすればほんの小さな部分を占めているに過ぎないのだから、それをカットしたところで財政赤字解消にはほとんど寄与しません。それはまるで体重を減らすと言って髪を切るようなものなのです。」と語った。
「スペインやオランダのように援助を大幅に減らしている国は、その決定が人間に与えるコストを考慮に入れて、決定をすぐに覆すべきです。」
「もし援助削減を今後避けることができたならば、次に取り組むべきは、イタリアやオーストリアのように、現在は予算のわずかの部分しか援助に割り当てていない国々が、最も貧しい人々を援助するために援助額を増やす努力をすることです。」
世界銀行によれば、経済危機が原因で数千万人が極度の貧困状況下に追いやられているという。オックスファムは、経済危機によって影響をこうむった貧しい人々のために金融取引税(FTT)を導入するよう提案している。欧州委員会もまた、新たに毎年570億ユーロの財源をもたらす金融取引税(FTT)を欧州全域で導入するよう提案している。
オライアー氏は、「欧州諸国の指導者らは、銀行を救済する大量の資金を見出しました。しかし、デンマーク、ノルウェー、英国といった例外を除いて、世界で最も貧しい人々に対する僅かの額を見出すことには惨めにも失敗しているのです。欧州の各国政府は、公約を達成し、貧困国が被った損害を回復すべく金融部門に応分の負担を要請すべきです。金融取引税(FTT)は、これまで以上に必要となっている追加資金を調達する有効な機会を提供することになるでしょう。」と語った。
翻訳=IPS Japan浅霧勝浩