SDGsGoal8(働きがいも 経済成長も)|視点|新型コロナで浮き彫りになる搾取的労働へのグローバルな構造的依存(ランダール・ハンセン トロント大学ムンクグローバル問題・公共政策校所長)

|視点|新型コロナで浮き彫りになる搾取的労働へのグローバルな構造的依存(ランダール・ハンセン トロント大学ムンクグローバル問題・公共政策校所長)

【トロントIDN=ランダール・ハンセン】

2019年11月、カナダ連邦政府の関係者がトロント大学ムンク校を訪れ、来たるグローバルな脅威について解説するよう依頼された。私たちは、不平等や飢餓、気候変動、公衆衛生、プラスチック公害等について議論したが、その際、病原菌に言及したものは誰もいなかった。せいぜい抗微生物薬耐性の脅威についての議論が最も近いものだった。

4ヶ月後、その部屋で議論した誰もが都市封鎖(ロックダウン)に遭遇した。新型コロナウィルス感染症が、まるで貨物列車が踏切に停まったままの車に衝突したかのように、世界を襲ったのだ。ウィルスが私たちの日常生活のリズムを寸断した結果、今後経済や政治は再構成を余儀なくされるだろう。

それがどのような形でなされるかは依然不透明だが、このことだけは確かだ。すなわち世界中で、中流階級の生活水準が、肉体労働者、とりわけパンデミックの最中においては、安値で働く大勢の移住労働者の死に依存しているということだ。新型コロナの感染拡大がこうした依存の事実を浮き彫りにしたが、そのこと自体は新しいことではない。なぜなら、少なくとも1970年代以来、これは各国と世界の資本主義の基本的な特徴であり続けているからだ。コロナ禍の灰の中から立ち上がる、新しく、より公正な世界について様々な議論がなされている一方で、世界が低賃金労働にどっぶりと依存している問題については出口が見えない状況が続いている。

Image: Virus on a decreasing curve. Source: www.hec.edu/en
Image: Virus on a decreasing curve. Source: www.hec.edu/en

コロナ禍は、世界が低賃金で搾取的な労働に構造的に依存している事実を白日の下にさらした。

2月にアジアの多くの地域で、3月に欧州と北米の多くの地域でロックダウンが広がる中、低熟練の移民労働者は、失業・監禁・追放・感染という4つの運命に見舞われることになった。

トルコでは、パンデミックにより国内の経済成長と海外送金が大きな打撃を受け、非正規部門で働いていた370万人のシリア移民の多くが真っ先に解雇された。ロックダウンされたシンガポールでは、3万人の移住労働者が1部屋当たり20床というすし詰め状態の寮に閉じ込められた。

ナレンドラ・モディ首相が3月24日に13億人の国民に対してロックダウンを発表したインドでは、少なくとも60万人の国内移民が故郷に戻ろうとした。道路や鉄道に殺到する彼らの姿は、インド・パキスタン分離独立時にみられた逃避行と追放の記憶を想起させるものだった。サウジアラビアでは、ロックダウン措置に伴い、政府は2800人以上のエチオピア移民を追放した。

こうしたロックダウン措置に伴う解雇や追放の事例は、先進国か途上国かを問わず、あらゆる国々が低賃金の移住労働にいかに構造的に依存しているかを露呈した。2019年に5540億ドルに上った海外送金は、国際援助よりも多くの収入を産んでいる。タジキスタンでは、ロシアに移住した100万人以上の一時労働者からの海外送金が、同国のGDPの実に半分を占めている。

新型コロナの感染拡大のために、世界の海外送金は今年、1080億ドル減となるかもしれない。しかし、南の発展途上国もまた、安価な移住労働に依存している。主として、インドや中国の内地移民、マレーシア、香港、シンガポール、タイ、ペルシャ湾岸諸国の外部からの移民である。彼らは、建設・製造・食肉加工・介護・清掃など、多くの肉体労働に従事している。

北の先進諸国では、複数の部門が未熟練の移民労働者に依存しているが、とりわけ、農業と食肉包装の2つの分野が際立っている。食肉包装と食肉加工では、労働者が密集した環境で、年々早くなる生産ラインで送られてくる鶏、豚、牛の解体作業に従事している。移住労働者らは、狭苦しい、しばしば不潔な場所で暮らすことを余儀なくされている。契約上の詐欺や賃金の詐取、ビザの違法な取り上げなど、人身売買が横行している。

これらの部門は、新型コロナに集団感染する格好の温床となっている。ドイツやアイルランド、フランス、ベルギー、ポーランド、オランダ、米国で、食肉加工工場が新型コロナのホットスポットになり、何万人もの労働者が罹患している。米国だけでも、すでに5月までに食肉工場、鶏肉工場の労働者1万6200人が陽性判定を受け、86人が亡くなった。死者の87%がマイノリティであった。

メディアの論評の多くが、こうした状況に驚きや、怒りすら示している。しかし、世界経済が安価で取り換えがきく労働者に依存してきたことを考えれば、こうした反応は不思議と言わざるを得ない。国際労働機関の統計によると、世界の移民の21%が未熟練労働者だが、これは過小評価だ。名目的には中程度の熟練とされている人の多くが、実際には未熟練だからだ。

1970年代以来、テイラーシステム(科学的管理法)を体系的に適用してきた企業は、かつては熟練労働だった販売アシスタントや組立工、スーパーのレジ係、事務補助員などの仕事を未熟練労働に替えてしまった。工場は労働者の研修を削減し、機能をルーティーン化し、(バーコードに典型的にみられるような)技術を利用して、労働を未熟練化した。労働の未熟練化はえてして、労組加入率の低さ、低賃金、福利厚生の不在を意味する。

SDGs Goal No. 8
SDGs Goal No. 8

小売り・接客・建設・農業・食肉包装の部門に低賃金労働者が層を成して存在しているということは、衣料品や住宅、ファーストフード、食料雑貨、そしてあらゆる種類の小売品が、本来あるべき価格よりも安いということを意味する。これらの商品やサービスが生産される条件はあまりに魅力がない(3K「きつい」「きたない」「危険」)ため、地元出身の労働者たちは、よりよい賃金を求めてこれらの部門から退出していく。そして合法、違法に関わりなく、移住労働者がその穴を埋めることになる。

このプロセスはグローバルなものだ。フィリピンの未熟練労働者が香港に移住して家事労働をしている。未熟練のカンボジア人やミャンマー人がタイに移住して農業や製造業で働いている。未熟練のメキシコ人が米国に移住して食品包装や農業、建設、介護部門で働いている。バングラデシュやインドネシア、中央アジアの低熟練労働者らがペルシャ湾岸諸国やマレーシア、ロシアに移住して、建設部門で働いている。

インドや中国では、数千万人にのぼる国内移住者が同じ機能を担っている。新型コロナの件があっても、この構造は全く変わらない。実際、新型コロナの感染拡大で構造的損害を被った貧しい国々では、安価な労働者、とりわけ安価な移住労働者への需要は、むしろ強まっていくことだろう。(原文へ

INPS Japan

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