【ブリュッセルIDN=ラインハード・ヤコブソン】
エチオピア北部のティグレ州で横行している、紛争に絡んだ女性に対する性暴力犯罪の規模と残忍さが、世界中からの非難を集めている。
「欧州・アフリカ対外プログラム」(EEPA)が5月25日に開いたウェビナーがこのテーマを扱ったのは偶然ではない。EEPAは、「アフリカの角」地域における平和構築や難民保護、強靭性(レジリエンス)の問題に特化した、専門知識・出版・ネットワーク化の能力を持ったセンター(本拠ベルギー)である。
このウェビナーの重要性は、女性に対する性暴力がほとんど通報されないという事実にある。国連人口基金は4月、紛争に絡んだ性的暴力の結果として、2万2500人の女性が支援を必要としていると推計した。
犠牲者が「恥」の意識と恐怖心から沈黙を守ってしまうことや、加害者が罰せられにくいこと、さらに行政機関や病院が破壊されている等の要素が複合的に作用して、真相が表沙汰になりにくい状況にある。実際、性暴力に関する報道はあったとしても極めて少なく、報道内容は氷山の一角に過ぎない。
多くの人々が、紛争に絡んだ性暴力について、一つには民間人を標的に虐殺の意図をもって行使される戦争の武器だとしている。
加害者の多くはティグレ州に大規模に展開しているエリトリア兵と言われている。これらの兵士は、エリトリア全土で施行されている無期限奉仕制度の下で軍に徴用された人々で、国連の特別調査委員会は、この制度を実質的な奴隷制の一形態であり「人道に対する罪」に該当するとして非難している。
同委員会は、ティグレ州における性暴力の問題はハーグの国際司法裁判所(ICC)で裁かれるべきだと勧告している。また、ティグレ州に隣接するアムハラ州から派遣されている兵士らや、エチオピア連邦軍の兵士らも加害者として挙げられている。
ノーベル賞受賞者でもあるエチオピアのアビー首相は、紛争開始以来ティグレ州におけるエリトリア兵士の存在を否定してきたが、この度一転してこの事実を認め、同州の女性・少女に対する性暴力の加害者である可能性についても言及し始めている。
今回のウェビナーは、リベリアのジェンダー問題担当相であるジュリア・ダンカン=カッセルが司会を務めた。同氏はウェビナーのまとめで、指導的立場にある全てのアフリカの女性に対して、ティグレ州で戦争の武器として横行しているレイプという恐るべき犯罪を阻止するために声を上げようと呼びかけた。
ダンカン=カッセルは、ウェビナーで証言をしたティグレ州の女性に対し、「アフリカの女性は彼女たちの痛みを共有し、アフリカと世界に対して、女性への暴力を根絶するよう訴えています。」また、「現在はアフリカ連合を代表して『アフリカの角』地域への特使を務めるリベリアのエレン・ジョンソン・サーリーフ元大統領は、状況をしっかりと把握しており、そのために米国のリンダ・トーマス=グリーンフィールド国連大使と緊密に協力しています。」と語った。
彼女はまた、ウェビナー終盤の演説で、「紛争に絡んだ性暴力は止むことなく続いており、アフリカの角地域に広がっています。国際的に協調した圧力と対象を絞った制裁が必要です。これらの犯罪は止めさせなくてはならないし、加害兵士やその司令官は訴追されねばなりません。」と語った。また、ティグレ州に駐留している兵士、とりわけエリトリア駐留軍の全てを撤退させること、エリトリアが国軍を外国の領域に派遣している件を国際司法裁判所に付託することを求めた。また、ティグレ州の全ての当事者がレイプを戦争の武器として使用することへの免責を与えないよう訴えた。
ある欧州議会議員は、開会の基調発言で、ティグレ州でレイプされている女児や女性は8才から72才にまで及ぶと見られていると述べた。レイプは、家族や夫、子どもの面前でなされている。兵士たちによるレイプは数日続くこともあり、犠牲者はしばしば生命に関わる傷を負っている。
この議員は、「こうした組織的なレイプは、全住民や次世代の人々から尊厳を奪い、恐怖とトラウマを植え付けようとするもの」だとしたマーク・アンドリュー・ロウコック国連事務次長(人道問題・緊急支援担当)の発言に言及したうえで、「ノーベル平和賞の受賞者であるエチオピアのアビィ・アハメド首相が、こうした破壊行為や専制、剥奪を指揮しているとは理解しがたいと何度も述べてきました。世界は時として、戦争は男性の領域だとみています。しかし、女性は、その背後にあって男性と同等の、場合によってはそれよりも大きな犠牲を払ってきました。例えば、経済的力の喪失やレイプ、強制的な売春、飢餓、社会的平等における後退といったことが挙げられます。」と語った。
「女性や女児に対する性暴力は、年世紀にも亘って、戦争における武器として用いられてきた。紛争時のレイプが被害女性達にもたらした深刻な被害は明らかだ。そうしたトラウマを抱えた女性たちはルワンダや韓国、旧ユーゴスラビア等に見られるが、これらは前世紀に起こった紛争のほんの僅かな事例に過ぎない。」
「しかし、国際社会の無作為を見ると、私たちは歴史から何も学んでいないのではないかと思わせてしまう。バイデン大統領やG7、国連、EUが、現在起こっている事態を非難し、懸念を表明してきた。」
「しかし、女性達の苦難を終わらせるには、言葉だけでは不十分だ。非難することは大事だが、ティグレ州の人々が今晩安心して眠れるようにするには、十分ではない。」
「協調的な国際的圧力と対象を絞った制裁がなければならない。こうした犯罪を阻止し、加害兵士やその上官は訴追されなければならない。」
今回のウェビナーでは、ティグレ州の女性達が自分たちの苦境について証言した。レイプのうちの3分の1は、数日にわたって、人目につく形で、子どもを含めた家族の面前で行われる集団強姦である。性器が焼かれたり、焼けた棒などの異物を性器に押し込まれたり、親戚のティグレ人女性をレイプするよう強制されたケースもあった。証言によれば、レイプ被害者の幼児を含めた子どももまた、暴力的に殺害されることがあったという。
エリトリアの人権活動家セラム・キダネはウェビナーで、ある種の奴隷制のような形で国軍に徴兵された人々が隣国エチオピアのティグレ州に派兵されており、それ自体を「人道に対する罪」とみなすべきだと語った。そのうえで、エリトリアがティグレ州などの外国領土で行っている犯罪について国際司法裁判所に付託するよう国際社会に訴えた。
マリアム・バサッジャは、「『アフリカの角』の平和を求めるアフリカ女性たち」を代表して、アフリカ全体の若い女性がティグレ州の女性たちの味方だと語った。
ティグレ人人権活動家ミーザ・ギデイは、ティグレ州での女性へのレイプは大量虐殺とみなすべきだと訴えた。「女性達は、ティグレ人だというだけで、民族浄化の対象としてレイプされているのです。国際社会の前に全ての事実が明るみ出てきています。全ての関係者に対して、ティグレ人の無辜の女性たちの叫びに耳を傾けるよう訴えたい。彼女たちは、レイプされているだけではなく、餓死させられてもいるのです。」
「東西女性ネットワーク」(ポーランド)代表のマルゴルザータ・タラジービッツは、「レイプが戦争の武器として使われ、速やかな対処が迫られているティグレ州の状況に対応できるあらゆるツールが国際社会には揃っています。即座に対応すべきです。」と語った。(原文へ)
INPS Japan
This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.
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