【アブダビWAM】
「コプト正教会が、エジプトの新憲法策定を託されている憲法委員会(イスラム原理主義者が委員の大半を占めている)から代表委員を引き上げた。これにより、新憲法策定のプロセスそのものの正当性が益々問われる事態となった。」とアラブ首長国連邦(UAE)の日刊紙が報じた。
憲法委員会(委員定数:100名)はムスリム同胞団とサラフィスト勢力が大多数を占めているエジプト議会の構成を反映して組織されているため、コプト正教会の決定は、一見民主主義の規範を尊重していないように見える。
しかし、来る新エジプト憲法には、まさにこの民主主義の原則が明記されなければならない。そのためには、政治的なものであれそうでないものであれ、憲法策定のプロセスが特定のイデオロギーによって支配されるものであってはならない。
「従ってコプト正教会が憲法委員会に出していた2名の委員を引き上げる決定をしたことを、反民主主義と決めつけることはできない。」とシャルジャに拠点を置く英字日刊紙が4月6日付の論説の中で報じた。
コプト正教会は、「憲法委員会の構成について様々な政治勢力が異議を表明している中で、当教会が代表委員を出し続けているのは適切ではないと判断した。」と述べ、今回の決定理由を明らかにしている。
キリスト教徒は8200万人のエジプトにおいて約10%の人口を占めている。コプト正教徒は長年マイノリティーとして差別されてきたと主張し続けてきているだけに、自身の権利を確保するためにも、是が非でも新憲法において発言権を確保したいところである。
ちなみに、憲法委員会から代表を脱退させたのはコプト正教だけではない。この点について同紙は、「最近、いくつかのリベラル派政党や非宗教的政党の委員が、『私たちは、イスラム原理主義者が自らの政治・宗教的なイデオロギーを反映させた憲法を策定するための見せかけの存在として利用されている。』と主張して憲法委員会から脱退している。」と報じている。
また同紙は、「イスラム教スンニ派の最高学府であるアル・アズハル大学も、憲法委員会から脱退し、ムスリム同胞団及びサラフィスト勢力との関係に距離を置く決定を下した。」と報じた。
ムスリム同胞団は、ホスニ・ムバラク政権を崩壊に導いた革命後に行った2つの公約(①ムスリム同胞団から大統領候補を出さない。②自身のイデオロギーを新憲法に押し付けない)を反故にしようとしている。ムスリム同胞団は従来「リーダーがあることを公約すると、時がくれば全くその反対を行う」と批判されてきたが、今回はその批判通りの行動をしていることになる。また、ムスリム同胞団が行った公約には米国とイスラエルにとって極めて重要なものもある。すなわち1979年に米国の仲介で成立したキャンプ・デーヴィッド合意である。たとえムスリム同胞団が同合意を反故にしてもアラブ世界にとって大きな損失になるわけではないが、ムスリム同胞団は、そうした決定が、エジプトを世界から孤立させ、イランが陥っているような立場にエジプト自身が追い込まれることになるリスクを十分に理解しているはずである。
一方、ムスリム同胞団とサラフィスト勢力が、自身が進めている新憲法策定プロセスに対する諸勢力の批判に耳を傾け、方向転換を行う可能性は低い。これらイスラム原理主義勢力にとって今回の機会は長年待ち続けてきたものであり、念願の国政掌握を目の前に妥協に転じることは考えにくい。
同紙は、「両勢力は国民民主党(NDP)が政権を握っている間は非合法集団として弾圧されてきた。しかし同党を率いたホスニ・ムバラク前大統領が失脚して政権獲得の機会が見えてきた。彼らは民主主義であれ非民主主義であれ、彼らの計画を台無しにするような動きに妥協することはないだろう。」と結論付けた。(原文へ)
翻訳=IPS Japan戸田千鶴
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