【ニューヨークIDN=アントニオ・グテーレス】
新型コロナウィルス感染症(COVID-19)は、世界中で人々の命や暮らしを破壊し続けていますが、中でも一番大きな影響を受けているのは、最も脆弱な立場に置かれた人々です。
それは特に、暴力や災害を逃れるために住む場所を離れざるを得なかった難民や国内避難民(IDPs)、不安定な状況に置かれた移民など、数百万にのぼる移動する人々に当てはまります。
こうした人々は今、3つの危機を一度に抱えています。
第1に、健康の危機です。社会的距離を取ることなど叶わぬ贅沢であり、医療や水、衛生、栄養などの基礎的条件がしばしば満たされない過密状態で、ウイルスに晒されることが多くなっているからです。
後発開発途上国で暮らす多数の移動する人々には、さらに深刻な被害が及ぶことになります。世界の国内避難民のうち、3分の1は新型コロナウィルス感染症の感染リスクが最も高い10カ国で暮らしているからです。
第2に、社会的保護を得られずにインフォーマル経済で働く人々をはじめ、移動する人々は社会経済的な危機に直面しています。
また、新型コロナウィルス感染症による所得喪失の結果、本国への送金額は1090億ドルというとてつもない規模で減少する可能性が高くなっています。つまり、政府開発援助(ODA)総額のおよそ4分の3に匹敵する金額が、本国で送金に頼って生活する8億人の手に届かなくなるのです。
第3に、移動する人々は保護の危機にも直面しています。
ウイルスの蔓延を防ぐため、出入国制限を課す国は150カ国を超えています。少なくとも99カ国は、迫害からの庇護を申請する者について、例外を設けていません。
同時に、新型コロナウィルス感染症に対する不安は排外主義や人種主義、感染者に対するスティグマ(偏見や差別)も一気に増加させました。
そして、ただでさえ不安定な立場に置かれる女性と女児は、ジェンダーに基づく暴力や虐待、搾取に晒される恐れが高まる中で、さらに悲惨な状況に直面しています。
しかし、難民や移民は、こうした課題に直面しながらも、勇敢にも必要不可欠な仕事の第一線で貢献しているのです。
例えば、全世界の看護師の約8人に1人は、出身国以外の国で働いています。
新型コロナウィルス感染症による危機は、人の移動について改めて想像力を働かせる機会でもあります。
その指針として、大事なことを4つ理解しておかねばなりません。
第1に、排除は高くつき、包摂は報われます。公衆衛生と社会経済面で包摂的な対応を行えば、ウイルスを抑制し、経済を再始動させ、持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けて前進することにも役立つでしょう。
第2に、私たちはパンデミックの中でも人間の尊厳を守り、渡航制限や水際対策を実施しながらも、人権と国際難民保護の原則を全面的に尊重できることを示した一握りの国々から学ばねばなりません。
第3に、一人でも安全を確保できない人がいれば、誰の安全も確保できません。診断や治療、ワクチンは誰でも利用できるようにしなければなりません。
そして第4に、移動する人々は解決策の一翼も担います。意味のない障壁は排除し、移民の移住方法を正規化するためのモデルを模索するとともに、送金取引の費用を引き下げようではありませんか。
私は、国内に社会的・経済的、さらに現在では保健上の課題も抱えながら、難民と移民に国境と心を開いてきた国々、特に開発途上国に感謝します。
ドアが閉じられている今、このような国は他の国々に心を動かす教訓を与えてくれます。こうした国に対する支援を増大し、全面的な連帯を示すことが欠かせません。
世界の難民保護の責任を公平に分担され、人の移動が引き続き安全で包摂的、かつ国際人権・難民法を尊重したものであることは、私たちみんなの共通の利益です。
単独でパンデミックと闘ったり、移住を管理したりできる国はありません。
しかし、私たちが力を合わせれば、ウイルスの蔓延を抑え、最も脆弱な立場に置かれた人々に対する影響を緩和し、あらゆる人にとって利益となるような形で、以前の状況を上回る復興を達成できるのです。(原文へ)
INPS Japan
関連記事: