ニュースハリケーン「サンディ」対応で文化の壁を乗り越える人々

ハリケーン「サンディ」対応で文化の壁を乗り越える人々

【国連IPS=ベッキー・バーグダール】

ハリケーン「サンディ」は、一夜にして米東海岸の広大な地域に深刻な被害をもたらした。しかし、長期的に見れば、様々な宗派の人々が、被災後の試練にともに立ち向かい行動することを学ぶなど、プラスの効果ももたらされたかもしれない。

「異なる宗派の人々が寄り合って対等な立場で議論を尽くすのは時に難しいことです。しかし、ここでは誰もが率先して協力し合っています。」と「ニューヨーク災害救援宗教横断奉仕会(NYDIS)」のピーター・グダイティスさんは語った。

 NYDISは、ニューヨークを拠点に災害救済に取り組んでいる「信仰を基盤とした団体(FBO)」の連合組織で、現在ハリケーン「サンディ」への対応で、ニューヨーク市南東部のロッカウェイズや南西部のスタテン島などで被災者支援にあたっている。

グダイティスさんは、「人びとは、災害支援というと連邦政府や赤十字がやるものだと思っています。しかし、実際には様々な宗教団体による支援活動が実は最大のものなんです―もっとも、それは財政面ではなく人間の参画という意味においてですが。」と語った。

NYDISには80以上の様々な宗派の団体が加盟しており、多様性に富むニューヨーク市の団体の中でも、宗教的に最も多様な災害支援団体である。メンバーには、仏教徒、シーク教徒、イスラム教徒、ユダヤ教徒、様々な宗派に属するキリスト教徒など、多数を抱えている。グダイティスさんは、「全ての宗教団体が団結して被災支援に参画しています。こうした信仰を基盤にしたコミュニティーは、危機に際して、人々の心に希望をもたらす存在になるのです。」と語った。

とはいえ、異なる宗派に属する様々な団体を調整して協力させるのは、決して容易な仕事ではない。「9・11同時多発テロを契機に設立されたNYDISも、それなりの内部対立を経験してきた経緯があります。」とグダイティスさんは、指摘した。

「いくつかの宗教間には、歴史的な背景から互いに協力しにくい状況があります。そうした明らかな例の一つにユダヤ教徒とイスラム教徒の対立構図があります。従来中東地域におけるイスラエルとアラブ諸国間の対立が、ここニューヨークにおいても両教徒間の対立構図に反映されてきたのです。しかし米国で大災害が起こると、彼らは一転して協力し合う傾向があります。」「また従来は、いくつかのキリスト教徒のコミュニティーの協力を得るのも、容易ではありませんでした。」とグダイティスさんは付け加えた。

グダイティスさんは、(ニューヨークを直撃した)ハリケーン「サンディ」後の災害支援を経験して、こうした異なる宗教コミュニティー間の絆が強まるのではないかと感じている。

ニューヨークのイスラム教徒コミュニティーの連絡調整組織であるムスリム協議ネットワークのデビー・アルモンテイサー代表も、グダイティスさんとほぼ同様の見解を持っている。

「私たちのネットワークに属する学生団体をボランティアに行かせています。避難所や地域の公民館にユダヤ教徒やキリスト教徒のボランティアとともに向かうのです。2001年の9.11同時多発テロに際しては、宗教間協力が活発に行われました。今回のハリケーン被害に対しても、人々は再び宗教の違いを乗り越えて、ともに立ち上がり協力し合っているのです。」

またアルモンテイサー代表は、災害支援にイスラム教徒が参加することは在米イスラムコミュニティー全体にとって利益になると指摘した上で、「米国内にイスラム排斥の風潮があるなかで、実際にイスラム教徒が被災者を支援している姿が伝えられれば、彼らに対するネガティブなステレオタイプを変えることにつながるのです。」と語った。
 
現在「ムスリム協議ネットワーク」は、電子メールで被災者支援に参画するボランティアを募るようメンバーに呼びかける一方、被災者に食事を提供する調理施設の設置についてスタテン島のイスラム礼拝所と連絡調整をおこなっている。

「ニューヨーク市民に今必要なものは助け合いの精神です。つまり黄金律の実践なのです。私たちは、9・11同時多発テロ以来、これほどの大災害に直面しませんでした…今が一番厳しい時期ですが、今後も復興までには長い時間を要します。私は、今後様々なコミュニティー間で、息の長い協力がなされていくものと考えています。」

また現在ハリケーン「サンディ」の救援活動に熱心に取り組んでいる「信仰を基盤とした団体(FBO)」に「ユダヤ災害対応隊」という復興支援活動を全米で展開している団体がある。

「今現在は、被災地コミュニティーの支援に全力を尽くしています。このような試練の時に、人々に生きる力を与えられる信仰の力には、計り知れないものがあります。」と、この団体の創設者で代表のエリー・ローウェンフェルドさんはIPSの取材に対して語った。

「ユダヤ災害対応隊」は以前にも大災害後の救援事業で他宗教団体との協力を行ったことがある。昨年4月に米国に嵐が襲った際には、「北米イスラムサークル」という団体と協力して被災者支援を行った。

ローウェンフェルドさんによると、この経験が宗派間の対話を加速し、今後ハリケーン「サンディ」の対応でも有益になるであろう連帯が強まったという。「今や私たちは、(宗教の壁を乗り越えて)手を取り合っています。」とローウェンフェルドさんは語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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