宗教はこれまで、暴力や分断を正当化するために利用されてきた側面がある。一方で、対話を促し、紛争解決に向けて社会がより主体的な役割を果たすよう後押しする「平和の力」にもなりうる。
【メキシコシティーINPS Japan=ギレルモ・アラヤ・アラニス】

ロシアとウクライナの紛争に加え、米国、イスラエル、イランを巻き込む戦争が続くなか、世界は核紛争の危険が一段と高まる新たな地球規模対立の時代に入りつつあるように見える。こうした状況を形づくるのは、政治、戦略、経済だけではない。目立ちにくいながらも、なお重要な要素として、宗教とその平和構築における役割がある。|英語版|スペイン語|
かつて、とりわけ中世には、戦争が神の名のもとに正当化されることがあった。しかし今日、宗教は、いっそう世俗化した世界の中で、以前ほど前面に出ることはなくとも、より融和的な役割を果たしている。政治的意思決定が思いやりや他者への敬意から切り離されているかのように映る時代だからこそ、その意味は小さくない。
宗教は時に、攻撃や自衛を正当化する口実として利用されてきた。だが同時に、対話を促し、再軍備が進むなかで、指導者に紛争解決を迫るよう社会を後押しする平和の力にもなりうる。

クレジット:LinkedIn José Sols
こうした文脈の中で、政治神学の専門家であり、メキシコ市のイベロアメリカーナ大学教授を務めるホセ・ソルス氏は、世界が冷戦を思わせる緊張状態へと戻りつつあると警鐘を鳴らした。INPS Japanの取材に応じた同氏は、宗教が国際政治に及ぼす影響は弱まっているものの、社会の中での存在感はなお大きく、平和のメッセージはいまも多くの信者に届きうると語った。
「私たちは受け身で待つのではなく、希望を行動へと移さなければなりません。平和を築くことは、私たち自身の務めです。私たちは、ともすれば政治家や外交官のような誰かがそれを担ってくれると考えがちですが、それは誤りです。平和は共生から、人と人との関係から始まります。だからこそ、それは教会の責任でもあるのです。」
平和のための対話を促す重要性
国連によれば、世界人口はすでに80億人を超えている。そのうち、約20億人がイスラム教徒であり、キリスト教徒は約24億人、そのうち14億人がカトリック信徒である。さらに、仏教徒は5億人、ユダヤ教徒は1500万人を超える。こうした数字は、宗教が国際社会においてなお大きな影響力を持っていることを示している。
その影響力は各国の政治や社会のあり方にも表れている。イランは自らをイスラム共和国と位置づけ、イスラエルでは一部の政治運動が宗教シオニズムの影響を受けている。米国でも、大統領就任宣誓の際に聖書の上に手を置く慣行が、いまなお強い象徴性を帯びている。
19世紀後半以降、1893年のシカゴ世界宗教会議に代表される宗教間対話の試みは、主要な宗教伝統の指導者たちを集め、諸民族と諸文化のあいだの相互理解を促しながら、平和的共存の基盤を築いてきた。
カトリック世界でも近年、教皇庁生命アカデミーが「平和のための科学者たち(Scientists for Peace)」という国際的アピールを打ち出し、ドローンや高度化する兵器が戦場に投入される時代にあって、科学技術は戦争ではなく平和と人間の尊厳のために用いられるべきだと訴えている。昨年10月にはローマで、聖エジディオ共同体主催の「平和のための対話と祈りの国際会議」が開かれ、司祭、ラビ、イマーム、僧侶に加え、創価学会インタナショナル(SGI)代表を含む多様な宗教リーダーと市民社会の代表が参加した。恐怖やナショナリズム、戦争が色濃く影を落とす時代にあって、信仰を分断ではなく共生と平和への責任へどう結びつけるかが、あらためて問われた。

核再軍備と新たな課題―人工知能

高まりつつある核の脅威について、ソルス氏は、大量破壊兵器をめぐる再軍備の進行が新たな危険を招いていると警告する。その一つが人工知能(AI)の利用である。AIシステムは自律的に作動するため、事前に組み込まれた条件の枠を超える状況に適切に対応できない恐れがあるという。
「私たちはAIに多くのアルゴリズムを組み込みました。しかし、『注意せよ。この場合には実行してはならない。』という一文を入れ忘れてしまった。そうなれば、人間の関与なしに核戦争が始まる可能性もあるのです。」
ソルス氏はさらに、国際政治の中で帝国主義的な言説が再び力を持ちつつあり、包摂的な視点を押しのけ、武力紛争がもたらす人間の犠牲に目を向けることなく、「強者の論理」を正当化しようとしていると警告した。
「一人の人間の人生を築くには何年もかかります。しかし、それを壊すのは一瞬です。」
通常兵器の軍縮で教会が果たす役割

クレジット:mgmnoticias.mx
軍縮を求める宗教的な取り組みは、より身近な地域社会の課題にも向き合っている。そこでは、宗教機関に寄せられる市民の信頼が重要な基盤となっている。
市民社会組織「武力紛争位置・事象データ計画(ACLED)」がメキシコを世界で4番目に危険な国に位置づけるなか、同国のカトリック教会はクラウディア・シェインバウム政権と連携し、「武装解除に賛成、平和に賛成(Sí al desarme, sí a la paz)」プログラムを進めている。この取り組みでは、教会の中庭を活用し、市民が銃器を自発的かつ匿名で持ち寄り、軍関係者に引き渡して破壊してもらう代わりに、金銭的補償を受けられる仕組みが設けられている。

クレジット:mgmnoticias.mx
このプログラムは、メキシコ市とその大都市圏をはじめ、暴力水準の高いバハ・カリフォルニア州、コリマ州、グアナフアト州、ゲレロ州、オアハカ州、プエブラ州、タバスコ州などでも実施されている。
世界的に再軍備が進み、核の脅威もなお消えていないなかで、宗教共同体は対話と和解を促す声を社会に届け続けようとしている。平和は政府だけに委ねられるものではなく、市民社会の日々の営みによっても支えられる。その現実を、あらためて示しているのである。
This article is brought to you by INPS Japan in collaboration with Soka Gakkai International in consultative status with UN ECOSOC.

INPS Japan
関連記事:
|第8回世界伝統宗教リーダー会議|危機を超えて対話を(長岡良幸創価学会国際渉外局長インタビュー)













