ニュース|パキスタン|石打の刑-タリバン復活の兆し

|パキスタン|石打の刑-タリバン復活の兆し

【ペシャワールIPS=アシュファク・ユスフザイ】

アフガニスタンと国境を接する辺境の部族地域で、駆け落ちした男女を石打の刑で処刑したのはタリバン支持者だったと、タリバンが認めた。石打の刑はいわゆる「名誉犯罪」に対する昔からの処刑方法だが、この地で行われたのは初めてである。 

「タリバンが運営するガジ(宗教)法廷はこの男女を姦通の罪で有罪とし、石打の刑による死刑という判決を下した。この判決は国境の都市ペシャワールから北へ60km離れたモーマンド地方のKhwezai-Baezai地区で執行された」と、タリバンのモハマド・アサド広報官はIPSの取材に応じて語った。処刑はタリバンが判決を言い渡した2週間後の4月1日に執行された。

 「シャノ(ビビ)はペシャワールに住む既婚女性で、家族がダウラト・カーンによって誘拐されたと提訴していた。だが後に、2人は駆け落ちしたと通報された」とアサド広報官は主張した。 

モーマンド地方はパキスタンとアフガニスタンの国境にある部族地域のひとつである。この地域は連邦直轄部族地域(FATA)の一部で6,000km2以上にわたり、タリバンが逃げ込んだ一帯でもある。 

この石打の刑を人権組織が非難している。人権組織は、部族の古い慣習である「名誉殺人」が、タリバンによって銃殺よりも残酷な死刑方法を宣告されるという新たな事態を憂慮しているようだ。 

「政府に責任者を逮捕し、裁判にかけるよう要請している」と独立組織であるパキスタン人権委員会(HRCP)のカムラン・アリフ評議委員はIPSの取材に応じて語った。 

「政府は責任者に対して厳しい措置を取るべきだ」とパキスタン各地に事務所を持つ全国規模のNGO「オーラット財団」のラーシャンダ・ナズ氏もいう。 

ペシャワールの法律家であるヌール・アラム・カーン氏によると、最近でも「名誉殺人」と呼ばれる家族に恥をかかせたという理由での処刑が行われている。こうした殺人事件は新聞の見出しになることが多い。 

「厳格な父権制の社会では、妻、娘、姉妹、母はちょっとした性的無分別さとわずかな姦通の疑いで殺される」とカーン氏は説明した。 

ペシャワールで発行されているウルドゥー語の新聞「Aaj(今日)」の記者であるザヒル・アリ氏は、報道された事件が実際に今その地方で起きている状況をすべて伝えているわけではないという。ジャーナリストとしての自主規制から、全貌の報道は控えている。 

「毎月1,2回起きているのだが、社会から予想される厳しい反応を考えると報道できない」と同氏はIPSの取材に応じて語った。 

アリ氏によると、最近のそうした事件では、5月1日にある農村に住む男女が家族の承諾なしに結婚したとして殺された。 

「事件の多発は、現在実施されている名誉殺人を抑制するための法律では『期待される結果をもたらす』ことができないと立証している」とカーン氏はいう。2005年に刑事裁判法が改正され、賠償金に応じるといった示談により和解後に犯罪者を無罪放免とすることが阻止されるようになった。 

 それ以来、ペシャワール高裁および法執行機関では一貫性のない判決がいくつか言い渡されており、法律改正の意図に反するものとみられている。 

1ヶ月前、ペシャワール高裁は、許可なく家から外出したとして妻と3人の娘を殺害したグル・ザマンの死刑判決を覆した。判事は生き残っている3人の息子と娘が父を許したという話を聞いた後で、自らの裁定を下した。 

最初の死刑判決は2005年1月31日に地方裁判所が下したものだった。 

ところが昨年3月には、ペシャワール高裁は「名誉殺人」の慣習を削減するための新たな法改正に従った厳格な裁定を下していた。 

昨年2月に北西辺境州(NWFP)のディール県北部で母親を殺害したグル・ザミーンに対し、裁判所は10年の禁固刑を確定したのだ。 

ドスト・ムハンマド・カーン裁判長はそのとき、「後進地域では女性が劣った市民として扱われ、名誉に関連した殺害などの非人道的慣習がいまだに行われている。これはイスラムの教えに反するとともに国の法律にも違反している」と語った。 

その6ヶ月後、ペシャワール高裁は、父親の許可なく結婚した娘を、息子と甥の助けを得て殺害した父親の釈放という妥協合意を無効にした。タリク・ペルベス判事は3人をそれぞれ10年の禁固刑にするという判決を下した。 

地元警察も「名誉殺人」の通報に基づいて行動を起こすのをためらうことがある。 

昨年、ペシャワールから60km離れたマルダンで、警察は家族の不名誉となったとされる男女を殺した親族を一旦逮捕したが、その後、告訴せずに釈放した。 

最近では、またマルダンで、「警察は地元実力者の地主が駆け落ちした娘と運転手を銃撃したという通報を受けてすぐに対処しようとはしなかった」とNGOの活動家であるサイジャド・アリ氏はIPSの取材に応じて語った。 

カーン氏によると、過去3年で弁護士が裁判で「だます」腕を磨き、家族の和解という悪しき慣習を制限しようとする法改正の裏をかいて、検察の求刑を回避している。 

「名誉殺人」に対する法改正の効果は、軽減事由をすぐに斟酌しようとし続ける裁判所によっても鈍らされている。 

「裁判所は被告人に対して『深刻で突然の挑発』を理由に寛大な見解を採用するが、法律のどこにもそのような理由は存在しない」とナズ氏はいう。 

人権組織は今、政府に「名誉殺人」を阻止するためにあらゆる局面でより断固とした行動を起こすように要請している。 

現在までのところ、当局はその慣習に「まったく歯止めをかけることができていない」とHRCPのジャミラ・ビビ氏はいう。 

根本的な改革が必要だとナズ氏は主張する。 

「名誉と称して女性や男性を殺すのは反イスラムである。今後もこの常軌を逸した伝統と戦っていく」とNWFP議会のシターラ・イムラン女性局長はIPSの取材に応じて語った。 

HRCPは1998~2002年の間に1,339件の「名誉殺人」を記録している。犠牲者のおよそ半数は既婚女性だった。HRCPはこうした殺人のほとんどが通報されないでいると考えている。 

HRCPは「名誉殺人」に関する最近の統計を発表していないが、パキスタンでは夫が妻を殺す事件の数が引き続き多いことから、減っていないことがわかる。HRCPの報告によると、2006年には355人の夫が妻殺害で起訴された。2005年には296人だった。 (原文へ
 
翻訳=IPS Japan 浅霧勝浩 

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