【ボストンIPS=エイドリアン・アペル】
ニューメキシコ州は、8年と数百万ドルを費やしながら、2件の死刑裁判の続行を断念した。州議会が裁判所の任命した弁護士に追加料金を支払う投票を回避したためである。
金銭的な理由から死刑を取り下げるという前例のない決定は、ニューメキシコ州の検察が今後、再び死刑を求刑しようとするのだろうかという疑問を抱かせる。また、米国の他の州でも死刑案件を審理するためのコストが増大しており、このコスト増大が米国の死刑制度廃止を早める大きな要因として新たに浮かび上がるのではないかと示唆するものとなった。
今月初めに、ライス・ロペスとロバート・ヤングの訴訟を担当する主任検察官は、地方裁判所の指示に従って死刑の求刑を取り下げた。ロペスとヤング両名は、1999年の刑務所暴動で看守のラルフ・ガルシア氏を殺害した罪で告訴されていた。
地方裁判所がこの指示を出したのは、州議会が2月に、裁判所の任命する弁護士の事務所に追加料金を支払うという投票を行うことなく、2009年1月まで休会に入ったのを受けてである。
裁判所はそれより先に、ロペスとヤングの担当弁護士の弁護料が費用に見合わず不足しているという訴えを受理し、州議会はさらに20万ドルを事務所に割り当てるべきだと命じていた。この事件では、もともとの15人の受刑者のうち、告訴を取り下げられるか減刑された3人を除く全員が審理中で、すでに州は数百万ドルを費やしていた。
「州議会では追加の支払いを行うという趣旨の法案を起草するものがいなかった」とニューメキシコ州のゲイル・キャシー議員はIPSに解説した。「歳入は減っており、収支を合わせなければならないからだ」
さらに議員たちは来年までこの「金のかかる問題」を扱う必要がなくなったと「ほっとしている」とキャシー議員は語った。
「死刑が取り下げとなったのは実に良いニュースだ」とニューメキシコ州死刑廃止同盟のキャスリーン・マクレー氏は検察官が正式に死刑求刑を取り下げた後でIPSの取材に応じて語った。「州と州の財政のために良いニュースであり、容疑者とその家族のためにも良いニュースだ」
ロペスの代理人を務めるいわゆる「公選弁護人」のジャクリーン・ロビンス氏は、弁護費用に見合うだけの料金が支払われていないと裁判所に訴えた弁護士の1人である。
「私たちの訴えは法律的主張だ」とロビンス氏はIPSの取材に応じて語った。「もしニューメキシコ州が死刑を行うつもりなら、刑の執行とともに弁護のために利用できる資金を調達する必要がある」
ロビンス氏は「この案件で死刑制度を覆そうとするつもりだったのではない」としながら、「それでもこのような結果になったことをうれしく思う」といい、「ロペスも喜んでいる」と語った。
「次席検事は一時、死刑制度をなくすための策略としてこの訴えを行っていると主張した。私は仕事をするために破産の憂き目を見るのは策略ではないと述べた」とロビンス氏はいう。
刑務所看守の未亡人のレイチェル・ガルシアさんは以前、州に夫の死に関与したとされる人々に死刑を行わないように求めていた。
このように注目を集めている裁判での死刑求刑を取り下げる決定は、死刑全廃に関してニューメキシコ州で起きている議論に一定の役割を果たす可能性がある。
「死刑廃止までもう少しだ」とニューメキシコ州アメリカ自由人権協会のダイアン・ウッド氏はIPSの取材に応じて語った。「上院も下院も死刑廃止を望んでいる」
キャシー議員が作成した死刑廃止法案は2005年と2007年に下院を通過している。死刑廃止支持者は、ビル・リチャードソン知事が拒否権をちらつかせて法案が成立するのを妨げたという。
知事は、「私はニューメキシコ州の死刑に関する法律に賛成である」といっている。「この法律は凶悪犯罪に情状酌量はないという強いメッセージを伝えており、犠牲者の家族に正義を提供するものだ」
リチャードソン知事は、民主党の次期大統領選候補レースから最近脱落したが、閣僚ポストを提示されれば知事を辞めると語っている。そうなると、おそらくニューメキシコ州が次に死刑制度を廃止する州になるための道が開かれる可能性がある。ニュージャージー州は昨年死刑を廃止している。
「たとえ知事を辞めなくても、態度を変える可能性はありうる」とキャシー議員はいい、カトリック教徒を公言する知事が教会の有力者からの影響を受け入れる余地があるのではないかと考えている。
ニューメキシコ州の金銭的な理由で死刑制度を取り下げた決定は、死刑を行っている他の36の州で強い関心を持って注目されるだろう。いくつかの州は、死刑制度維持を無効とする法案に直面している。死刑の代償と公正の再検討は現在、カリフォルニア州、ジョージア州、メリーランド州、ネブラスカ州、オハイオ州、ユタ州で進められている。(原文へ)
翻訳=IPS Japan