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|軍縮|核抑止の神話を解く

President Reagan meets Soviet General Secretary Gorbachev at Höfði House during the Reykjavik Summit. Iceland, 1986./ Public Domain

【国連IPS=カンヤ・ダルメイダ】

1980年代末に冷戦の恐怖が去ろうとするなか、米国のロナルド・レーガン大統領とソ連(当時)のミハイル・ゴルバチョフソ連共産党書記長が、「核兵器の完全廃絶」を議論するためにアイスランドの首都レイキャビクで会談を行った。

それから20年後、世界の指導者らは、依然として大量の核兵器を維持し続けている。

国連の「軍縮・平和・安全保障に関するNGO委員会」が作成した2010年の統計によると、現在9ヶ国(安保理五大国+インド、パキスタン、北朝鮮、イスラエル)が核兵器を所有(あるいは、それを開発・配備する手段を保有)している。その内、米国とロシアが全体の95%を占めている。

 長年にわたって、特に米国の外交政策論議においては、軍縮の問題は「抑止論」によって支配されてきた。「国家に対する潜在的な敵は核戦争の脅威によって抑止しうる」という考え方である。

「NGO軍縮委員会」が今週開催したパネル・ディスカッションでは、法律の専門家であるジョン・バローズ氏とワード・ウィルソン氏が抑止論の誤りを暴き、軍縮に関する対話をより建設的な方向に向けていくための議論を行った。

不拡散研究センター(CNS)の研究員であるウィルソン氏は、「国際社会は、我々の世界に関する理解として、コペルニクス的転回にも似た軍縮に対するアプローチの大胆な変化、つまり、パラダイム・シフトを起こす必要がある。」と語った。

「長年にわたって、米国をはじめとした多くの国が、核抑止論を『危険でおそらくは非道徳的なものではあるが、確実に必要なものである』という考え方をとってきた。」とウィルソン氏は言う。

しかし、ウィルソン氏の研究によれば、核兵器の使用も、あるいは使用の威嚇も、戦争を抑止したり、相手方に降伏を促したり、勝利を確実にしたりする効果はないという事例が歴史には多く見られるという。

おそらく、核兵器の持つ力を示すものとして最も多く引用されるのが、ハリー・トルーマン大統領が1945年8月6日に広島に原子爆弾を投下する命令を下した後に日本が降伏した、という事例であろう。

米国は、広島の悲劇は核兵器の「サクセス・ストーリー」であると宣伝し、その後の核兵器開発を推進し正当化するための例えとして用いてきた。

しかし、ウィルソン氏は、多くの人々が注目してこなかった事実に目を向けさせることによって、こうした考え方を解体することを試みた。たとえば、広島は、45年8月までに容赦なく爆撃されてきた日本の68都市のひとつに過ぎない、という事実である。

原爆投下による広島での死者数は、それまでの日本本土空爆における死者数の中でいうと、9位か10位にしか入らない。だとすると、なぜ、日本はリトル・ボーイの直後に降伏したのだろうか?
 
 ウィルソン氏によれば、その答えは、単なる神話の創造によるものだという。多くの歴史家や法律専門家、学者らが実際には、8月9日の長崎への原爆「ファット・マン」投下前のソ連軍の侵攻が日本の降伏に関しては重要であったという見解で一致している。

こうした神話解体には、法律の面から見て多くの意味合いがある。とりわけ、核兵器の使用が国際人道法に明確に違反している、ということである。

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核政策に関する法律家委員会(LCNP)のジョン・バローズ代表は最近、「米国の核兵器への依存を終わらせ、グローバルな核廃絶を達成する―法が要請する賢明な政策」という共同声明の作成に加わった。抑止であれ、何の目的であれ、核兵器の保有が違法であることを詳細に論じたものである。

この声明は、「この環境においては、数千発を超える米国の核兵器は米国の安全保障上の利益にかなわない。核兵器はそれ自体、米国の直面する安全保障状況の脅威になっている。」と述べている。

さらに同声明は、ハーグ陸戦法規ジュネーブ条約国際刑事裁判所(ICC)に関するローマ規程国際司法裁判所(ICJ)の1996年の勧告的意見など、戦争と武力紛争に関する国際法の中に核兵器の問題を位置づけている。

バローズ氏はIPSの取材に応じて「核兵器の使用が武力紛争に関する国際法によって違法だとされている事実は、米国が核兵器を使用すると脅すことは違法であるということを示しています。つまり、抑止の政策もまた違法だということです。特定の状況において核兵器を使用する気がないのなら、なぜ核兵器を保有する必要があるでしょうか?」「私たちには、人類の絶滅を脅しの種にする憂慮すべき状態が当然のことになってしまっています。私たちは、このような世界に住みたいのではありません」と語った。しかし、米国は平然として自国の核兵器を強化する一方で、世界的な非難をイランや北朝鮮、シリアといった国々に向けようとしている。

さらにバローズ氏は、「国連安保理が、核兵器を保有した五大国(米国、ロシア、中国、フランス、英国)によって牛耳られているという状況の下では、『脅威』を与える手段として核兵器に国家が依存するという状態を打ち破るために、国際社会が1996年のICJ勧告的意見の先へと踏み出ていく明確な方法があるわけではありません。」と語った。

「しかしメキシコは現在、ICCのローマ規程を改定して、核兵器の使用、あるいはその威嚇を違法化しようと提案しています。」「ICCの加盟国が近い将来この改定を採択することはありえることです。ローマ規程にすでにある禁止武器リスト(毒ガス、人体内において展開する弾丸)に核兵器を付け加えることで、核兵器を使用しないという国際規範を定着させていくことができるでしょう。」とバローズ氏は語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service(IPS) and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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