【国連IDN=タリフ・ディーン】
国連アントニオ・グテーレス事務総長は、現在ウクライナで起きている壊滅的な戦争が、外の世界にも同様に破壊的な影響を及ぼしており、世界で最も脆弱な人々や国々を直撃していると警告している。
世界食糧計画(WFP)の小麦供給量の半分以上を供給していたウクライナがロシア軍の空爆を受ける中、食糧、燃料、肥料の価格が高騰し、最も大きな影響を受けるのは世界の貧困層である。
ウクライナ紛争は、欧米諸国が世界の最貧国に対して行っている開発援助にも悪影響を及ぼしている。
ロンドンに本拠を置く人道支援団体オックスファムは、3月18日に発表した報告書の中で、ウクライナ危機の世界的な影響は、食料、商品、エネルギー価格の急上昇にすでに現れており、他の人道危機に直面している地域の人々を支援する公的支援活動を阻害することになりかねないと述べている。
オックスファムは、一部の援助供与国が既に、対ウクライナ支援と同国からの300万人以上の難民受け入れに援助予算をシフトしていることを懸念している。
また、欧米のドナー諸国は、他の人道危機に直面している地域に対する援助を控えるようになっている。オックスファムは、援助供与国に対し、新たな資金、特に政府開発援助(ODA)でウクライナのニーズに応えるよう求めている。
オックスファムは、欧州連合(EU)が東ティモールへの人道支援資金を半減させたこと、一部の援助国がブルキナファソへのODAを70%削減することを示唆していること、また、他の西アフリカ諸国に対しても援助削減について事前に警告を発していることを認識していると語った。
一方、ドイツは、ウクライナ支援が決まるまでは、保留中の資金提供案を決定できないと示唆しており、これは世界の他の地域での人道支援を危険にさらすことになると、オックスファムは語った。
経済協力開発機構(OECD)の開発援助委員会(DAC)は、ODAを「開発途上国・地域に対し、経済開発や福祉の向上に寄与することを主たる目的として公的機関によって供与される贈与および条件の緩やかな貸付等」と定義している。
DACは1969年にODAを対外援助の基準として採択し、現在も開発援助の主要な資金源となっているが、ウクライナ危機とその影響により危うい状況にあるのも事実である。
国連の長年の目標では、先進国は国民総所得の07%をODAに充てるべきとされている。
オックスファムによれば、北欧の援助供与国はウクライナに対して3億ユーロの拠出を約束しており、そのほとんどはノルウェーが拠出している。しかし、ノルウェーの拠出が新たに追加されるものでなければ、この金額はノルウェーの人道支援予算の40%近くに相当するため、他の地域への人道支援が大幅に削減を余儀なくされることとなる。
スウェーデンは新たな資金を割り当てたが、その援助予算は追加資金が見つかるよりも先に「調整」されてしまう恐れがある。
またオックスファムによると、デンマークは既存の援助予算から支援を行うとしており、開発協力大臣は「いくつかの厳しい選択と優先順位の再検討」、つまり他の危機対応プログラムの延期やキャンセルを行うと警告している。
「欧州をはじめ、世界中から惜しみない支援がウクライナに寄せられる中」、オックスファムはスペイン、オランダ、フランスがウクライナからの難民を支援するために新たな資金を提供したことを称賛し、これらの資金が他の人道支援予算枠に追加されることを公に確認するよう呼びかけている。
イタリアは、既存の支援予算から1億1000万ユーロをウクライナからの難民のために支給すると述べているが、まだ正式な確約はしていない。
英国は、一般からの呼びかけに応じて過去最大の2,500万ポンドを寄付し、ウクライナ難民を受け入れた家庭に月350ポンド(約5万4000円)の謝礼を支払う難民受け入れ制度を発表した。
オックスファムによると、欧州には難民支援について汚点となった過去の実績がある。2015年、約150万人の難民がシリアなどから欧州に流入したとき、援助国が難民支援に充てた金額は平均して援助約束額の僅か11%(154億ドル)に過ぎなかった。
オックスファムのEU事務所長であるエヴェリアン・ヴァン・ルンブルグ氏は、「一部の豊かな国々が援助予算を事実上国内で使ってしまうような事態は避けなければなりません。」と語った。
ルンブルグ氏はまた、「エチオピア、ケニア、ソマリア、南スーダンで今起きている広範な飢餓を救済するための国連の60億ドルのアピールに対して、今のところ資金の3%しか提供されていない。」と指摘したうえで、「ウクライナの人々に対して支援することは重要ですが、そのために、イエメンやシリアの人々、東・西アフリカで絶望的な飢餓に直面している数百万の人々、バングラデシュやその他の国々の難民キャンプにいる人々、コロナ禍や気候変動で最も大きな被害を受けた人々に向けた人道支援予算が削減されて、彼らにしわ寄せがいかないようにしなければなりません。」と語った。また、「しかし、人道危機に直面しているウクライナ以外の地域へのライフラインをカットするのではなく、創造性を発揮する必要があります。例えば、毎日、超高級ヨットや豪邸が差し押さえられるというニュースを耳にします。毎日、あらゆる国籍の億万長者が、投機、税金逃れ、企業利益と株価の高騰によって法外な利益を得ているのです。」と語った。
「新型コロナウィルス感染症の影響から自国の経済を救うために何兆円も使うのは当然として、ウクライナからの難民やソマリアの飢えた農民を助けることは選択肢にすぎないという主張には賛同できません。」とファン・ローエンバーグ氏は語った。
「正しいことをしているドナーは素晴らしいと思います。紛争や気候変動を止め、世界の食料システムを再構築するための努力を倍加させるように、余裕のある人たちが困っている人たちに手を差し伸べ、支援しましょう」と語った。
ウクライナからの小麦の供給不足について問われた国連のステファン・ドゥジャリク報道官は、3月17日、「WFPは小麦供給の約50%をウクライナから得ており、オープンマーケットで購入しています。問題は、商品価格が軒並み上昇していることです。それで、私の記憶違いでなければ、毎月の購入代金が7100万ドルほど加算されていると思います。」と記者団に語った。
一方、グテーレス事務総長は先週、ロシアとウクライナは世界のひまわり油の供給の半分以上と、世界の小麦の約30%を占めていると述べた。
穀物価格はすでに「アラブの春」開始時や2007年から2008年にかけての食糧暴動時の価格を超えているという。FAOの世界食料価格指数は過去最高水準にある。
アフリカと後発開発途上国の45カ国は、小麦の3分の1以上をウクライナ(または)ロシアから輸入しており、そのうち18カ国は50%以上を輸入している。
これには、ブルキナファソ、エジプト、コンゴ民主共和国、レバノン、リビア、ソマリア、スーダン、イエメンといった国々が含まれる。(原文へ)
INPS Japan
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