【ハーグIPS=バヘール・カーマル】
メディアには、持続可能な開発と気候変動という、21世紀のふたつの大きな課題に効果的に取り組む上で、果たすべき重要な役割がある。だがメディアはその役割を十分に果たしているだろうか。
その裁定は様々である。少なくとも23日にオランダのハーグで開かれたセミナーに参加した、研究者、ジャーナリスト、科学者、政府役人、NGOおよび国連機関の代表が表明した見解から判断すると、様々だった。
「メディアはこのところ金融危機に注目しているが、気候変動の危機、食糧安全保障の危機についてはどうなったのか」と、オックスファム・ノヴィブのファーラー・クリミ代表は疑問を投げかけた。
気候変動が地球上の誰もが関心を持つ新たな問題になりつつあるときに、「私たちが意欲を新たにし、再び結束して、地球規模で必要な対応策を計画、調整、実施するために、メディアはどのように役立つことができるだろうか」と英国のマンチェスター大学持続可能な消費研究所長のモハン・ムナシンゲ博士は問いかけた。
このパネルディスカッションは、「地球規模の持続可能な開発の支持基盤を保持拡大する戦略:メディアの役割」というテーマで行われ、オックスファム・ノヴィブ、オランダ国際協力・持続可能な開発委員会(NCDO)、インタープレスサービス(IPS)通信社の共催により開催された。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の副議長でもあるムナシンゲ氏は、「地球温暖化は世界がすぐにも受け入れなければならない現実だ」と述べた。
ムナシンゲ氏によると、近年の政治紛争で数十万人が死亡しているダルフールでは、進行する砂漠化が引き起こす水と土地の不足が、気候変動によってさらに悪化している。そのために農業が衰弱し、乏しい資源を求める貧困層の争いに油を注いでいる。
また、「地球の裏側では、多くの太平洋の島々やインド洋のモルディブで海抜わずか数センチになることが増え、海面上昇による浸水に脅かされている」とムナシンゲ氏は述べた。
こうした事柄についてはあまりメディアで取り上げられていないと、オックスファム・ノヴィブのサビー・フォーフト氏はいう。「気候変動に関して報道する際に、メディアは、長引く干ばつ、異常な洪水、突然の寒波にすでに苦しんでいるこうした途上国の人々よりも、棚氷に乗った心細げなシロクマばかりを取り上げがちだ」
「気候変動は農業と食糧安全保障に大きな影響を及ぼしているが、さらに悪化して、水不足が深刻になり、気候帯は変化し、全動植物の4分の1は死滅することになるだろう」とフォーフト氏は述べ、富裕国そして世界銀行などの機関に、有害な行為をやめ、外的ショックに対して途上国の農民がいっそう抵抗力を持てるよう支援することを要請した。
会議ではこうしたニュースのメディアによる取り上げられ方が、特に欧米の主流派メディアのいくつかについて検討された。欧米の主流派メディアは今なお、大きな政治的新規展開がなければ、気候変動にはほとんどニュース性がないと考えている。
持続可能な開発のための世界経済人会議のコミュニケーション・ディレクターであるリネット・トーステンセン氏は、ニュースメディアに情報を売り込むときには「熟達した語り手」にならなければならないという。
トーステンセン氏は、多くの人々がメディアに関わり、浄水や十分な衛生設備の不足によって発展途上の世界で苦しむ数十億の人々のニュースに関わっているという。
新聞の中には気候変動を「退屈で、おもしろさがなく、難解だ」とみるものもあるとトーステンセン氏は認めながらも、「ニュースを売り込む方にも、より面白く人間的に表現することが託されている」と述べた。
一方で「情報は万能薬ではない」とアムステルダム大学の科学者であるシース・ヘイムリンク教授はいう。「人々は多くの情報を得ていて、何が有害かわかっているが、知っていることに基づいて行動を起こさない場合も多い」
情報よりも必要なのは、対話と人の話に耳を傾けようとする十分な心の用意であるとヘイムリンク氏はいう。トークショーは巷にあふれているが、必要なのは「リスン(耳を傾ける)ショー」である。
IPSのマリオ・ルベトキン事務総長は、気候変動におけるメディアの役割について、唯一の答えはないと指摘した。「ひとつのプロセスの一部であり、問題は最終的な解決法に向けてどのようにそのプロセスを作り上げていけるかだ」
ルベトキン事務総長は、今日の気候変動の記事が5年あるいは10年前よりもずっと良いものになったのは間違いないと主張した。
主流派も、独立系も、この問題に取り組もうとするメディアはますます数を増やしているとルベトキン事務総長はいう。また持続可能な開発に関するニュースにアクセスする読者も今や膨大な数に上っている。
「同時に今、非政府組織(NGO)と通信社との連携という考え方も広がっている」とルベトキン事務総長は述べた。「5年前にはこうした連携はあり得なかった」(原文へ)
翻訳=IPS Japan 浅霧勝浩
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