【国連IPS=タリフ・ディーン】
国際的な非政府組織(NGOs)の連盟が国際司法裁判所(ICJ)に対して核兵器の合法性と使用に関する助言を求めている。このような求めは13年ぶり2度目のことである。
元ICJ判事で国際反核法律家協会(IALANA)会長のクリストファー・ウィラマントリ氏は、「ICJ判事が全員一致で『核兵器は全ての文明とこの惑星の全ての生態系を破壊する潜在能力を持っている』と宣言してから既に10年以上が経過した。」と語った。
オランダのハーグに拠点を置くICJは、国際連合の主要な司法機関である。15名の判事の任期は9年で国連総会と安全保障理事会によって選出されている。
核兵器の使用・威嚇は一般的に国際法に違反するとのICJ勧告にも関わらず、核兵器開発を継続し既存の核兵器を維持し続けようとする動きに歯止めがかかっていないのが現状である。
核不拡散条約(NPT)で核兵器保有が認められているのは米国、英国、フランス、中国、ロシアの5カ国だが、インド、パキスタン、イスラエルが新たに核兵器保有疑惑国として浮上し、さらにイラン、北朝鮮がその後に続こうとしている。
ICJは1996年7月に出した勧告的意見の中で各国政府に対し、「厳格かつ効果的な国際的管理のもと、あらゆる分野にわたる核軍縮につながる交渉を誠実におこない完了させる義務が存在する」と述べている。
今回ICJに対して新たな勧告的意見を求めている団体には、核政策に関する法律家委員会(LCNP)と核戦争防止国際医師会議(IPPNW)の支援を受けているIALANAやハーバードロースクール国際人権クリニックが含まれている。
「その後核軍縮に向けた具体的な進展がなくICJ見解にある『各国に課された誠意ある交渉義務』の解釈を巡って論争が絶えない今日の現状を考えれば、改めてICJから核軍縮に関するガイドラインを得て(核軍縮に向けた各国の)法的順守義務を明らかにすべき時がきている。」とNGOグループが提出したメモランダムに記されている。
ICJの勧告的意見を求めようとするこのようなNGOによる提唱が実現するためには、なお192カ国が加盟している国連総会において同様の決議が採択されなければならない。1996年の核兵器の使用・威嚇の合法性に関するICJの勧告的意見は、まさに国連総会における決議案が通ったことで実現をみた。
ジョン・バローズLCNP事務局長はIPSの取材に対し、「ICJが1996年に出した最初の勧告的意見は、一般に考えられているより遥かに影響力のあるものだった。」と語った。
NPT第6条規定によって各国には核兵器の全面的な廃棄を実現する交渉を誠実に行い、妥結する責務が存在するとしたICJ判事全員一致の見解は、国際社会に幅広く受け入れられている。
「すなわち、各国には交渉を通じて最善を尽くす義務にとどまらず、交渉を通じて核兵器廃絶を成し遂げる義務があるのです。」とバローズ事務局長は付け加えた。
国連年次総会の場でも、ICJの勧告的意見のフォローアップとして、核廃絶実現を責務とするICJ見解を歓迎する別条項についての決議が行われてきた。これらの決議では、インド、パキスタンを含む殆どの国々が賛成したが、米国、ロシア、イスラエルの3カ国のみが反対している。
NGO2団体は、ICJによる2回目の勧告的意見を求めるメモランダムの中で、国際社会が核廃絶についての見解を異にし具体的な行動を起こせない現状に鑑み、核廃絶を実現させる責務を果たすために各国がとるべき行動に関する明快なガイドラインが求められていると述べている。
ICJが1996年の勧告的意見の中で言及した全面的な核廃絶の約束は、政治的なコミットメントであると同時に法的拘束力を持つものである。
核不拡散を超えて
「従って、ICJは国連の主要司法機関として、今日行われている各国の『責務』を巡る論争に終止符を打つべく法的なガイダンスを提供し、(核廃絶という)約束を現実のものとするために必要な見識を国際社会に示す必要がある。」とメモランダムには記されている。
ウィラマントリ氏は、「国際機関並びに政府トップレベルによる最近の発言が核兵器の完全廃棄はもはや架空の話ではなく実現可能な目標であるとの希望をもたらした。」と指摘した。
それらの発言の中には、潘基文国連事務総長が2008年10月に行った核軍縮に向けた5つの提案や、オバマ大統領が今年4月にプラハで行った「アメリカは核兵器のない平和で安全な世界を希求する。」と表明した演説が含まれる。
「核兵器のない世界という目標が実現可能となった今日の情勢を考えれば、ICJの示す(核廃絶への法的)道筋を厳密に実行に移していくことがますます必須の課題となってきます。2010年のNPT運用検討会議(その第3回準備委員会が2週間の日程で今週金曜日まで国連で開催中)はこの目的を追求する絶好の機会となるでしょう。」とウィラマントリ氏は付け加えた。
バローズ氏はIPSに対し、「1996年のICJ見解は、米国の士官養成学校であるウエストポイントにおいて、武力紛争法の講座の一部として取り上げられるなど、国際社会において、一般及び専門分野の議論に幅広く浸透してきた。」と語った。
IALANA及びハーバードロースクール国際人権クリニックは、国連総会がICJに対して軍縮義務の法的意味合いについて明確な見解を求めるよう提言している。
バローズ氏は、ICJの見解が求められている問題について、「軍縮に向けた誠実な取り組み義務とは、各国が期限を設けて完全なる核廃絶に向けた多国間交渉を即時開始することを意味するか否かという点が含まれている。」と語った。
これはNPT加盟国の大多数の政府が採用している見解であるが、一部の核兵器保有国はこの見解を拒否する立場をとっている。
同様にICJの見解が求められている問題に「核兵器、運搬手段及びそれを支える支援技術体系を長期的な観点から保持、管理、改良を加えていくこと、及びそのような計画をたてていくことが、軍縮に向けた誠実な取り組み義務を欠くことにあたるか否か」という問いかけがある。
バローズ氏は、「今日、核兵器保有国は、数十年先を視野に入れた核兵器の維持及び管理計画に莫大な資金を投資しており、このような動きは核軍縮を達成しようとする意図に決して沿ったものとは思えない。しかしICJはこの問題について法的な側面からコメントすることができる。」と語った。
そしていま一つの問題に「軍縮に向けた誠実な取り組み義務は全ての国々、つまりインドやパキスタンといったNPT未加盟国に対しても適用されるか否か」という問いかけがある。
1996年のICJ見解ではこの問題に対して明確な判断を下していない。ただし当時のモハメッド・ベジャウイICJ所長を含む数名の判事は、別の意見書の中で問題の義務は全ての国々に適用されるとの見解を述べている。
バローズ氏は「ICJはこの重要な問題についても明確化することができる。」と語った。(原文へ)
翻訳=IPS Japan浅霧勝浩