ニュースTPNWはNPTと矛盾するか、あるいは弱体化させるのか?

TPNWはNPTと矛盾するか、あるいは弱体化させるのか?

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=タリク・ラウフ

核兵器禁止条約(TPNW)は、必ずしも、条約を支持する非核兵器保有国(NNWS)と核兵器保有国の大半および米国の核の傘に守られた米同盟国との間に争いをもたらす種となっているわけではない。TPNWに反対する人々は、TPNWに関する多くの懸念や欠点を指摘している。この短い論稿は、そのいくつかに答えるものである。(原文へ 

批判的な人々は、TPNWには以下のような欠陥があると主張する。

  1. 核兵器の定義がない: 確かにその通りであり、定義がない。しかし、不拡散条約(NPT)における非核兵器地帯(NWFZ)条約五つのうち四つにおいても定義はなく、定義があるのはトラテロルコ条約のみである(第5条)。
  2. 核不拡散条約(NPT)(第6条)に定める核軍縮の「効果的措置」を構成しない: TPNWは、核軍縮に関してNPT第6条で求められる「効果的措置」であり、1996年の包括的核実験禁止条約(CTBT)および2010年の新START(新戦略兵器削減条約)や1987年の中距離核戦力全廃条約(INF)のようなソ連/ロシアと米国の2国間協定(これらはNPTではなく国家安全保障を理由として締結されたが)、ラテンアメリカ・カリブ諸国、南太平洋、東南アジア、アフリカ、中央アジアで運用される五つの非核兵器地帯条約と肩を並べるものである。NPTは自動執行条約ではなく、執行を可能にする措置を必要とする。例えばNPT第2条および第3条に定める不拡散の誓約を検証するためには、NNWSと国際原子力機関(IAEA)との間で保障措置協定を締結する必要がある。第7条を執行するためにはNWFZ協定が必要である。また、原子力の平和利用に関する第4条を執行するためには原子力協力協定が必要である。
  3. 最新のIAEA保障措置(追加議定書)が含まれていない:正確には、TPNWの第3条に、NNWSの各締約国は「少なくとも、本条約発効時に効力を有する[IAEA]保障措置義務を守るものとする。ただし、これは、当該締約国が将来追加的な関連文書を採択する事を妨げない」と規定している。一方、IAEA理事会が1997年モデル追加議定書(AP)(INFCIRC/540)をNPT加盟NNWSに対するIAEA NPT包括的保障措置協定(INFCIRC/153)の必須項目にできなかったことは非常に残念なことであり、IAEA総会は、保障措置に関する年次決議において「追加議定書の締結は、各国の主権的決定である」と述べた。TPNWは、加盟NNWSに対して、少なくとも既存の保障措置協定を維持するよう求め、さらに強化した保障措置を規定した。これによりNPT加盟NNWSの80%が追加議定書を実施しているため、TPNWは不拡散の検証に関する現行の事実上の標準を確保している。これは、NPTが定める標準より厳しいものとなっている。
  4. 核軍縮の検証が含まれていない: 確かにその通りである。しかし、NPTにもNWFZ条約にも、検証の技術的詳細は含まれていない。現実には、検証は「機関[IAEA]の保障措置制度」に委ねられている。IAEAは、1970年のNPT発効を受けて1970~1971年に加盟国との共同作業により包括的保障措置(INFCIRC/153)を策定し、1993~97年に追加議定書(INFCIRC/540)を策定した。TPNW/IAEA加盟国は、TPNW発効後1年以内に開催されることになっている第1回締約国会議にIAEAを招待し、検証アプローチを策定する技術作業部会を設置するとともに、この目的のため、2021年IAEA総会で決議案を提出するべきである。また、慣習的な国際法の地位を獲得し、かつ検証に関する規定がない1972年署名(75年発効)の「細菌兵器(生物兵器)及び毒素兵器の開発、生産及び貯蔵の禁止並びに廃棄に関する条約(BTWC)」とは異なり、TPNWは、実際には検証アプローチを規定している。

 このほかの批判には、次のようなものがある。

  1. TPNWは、核兵器保有国の加盟を認める一方で、核兵器を保有していたが 武装解除した国の参加も認めるという点で矛盾している: 化学兵器禁止条約(CWC)は、化学兵器保有国も過去に備蓄化学兵器を廃棄した国もCWCに加盟することを認めていることを思い起こすことが有益である。したがって、TPNWも同様のロジックに従い、核兵器保有国もTPNWに加盟することができ、そのうえで、締約国により指名される権限ある国際当局の援助を受けて検証可能な形で核兵器を廃棄することができる。
  2. TPNWは、「核兵器の非保有に関する法的規範が存在しないことを示している」: TPNWの目的の一つが、核兵器保有を禁止する法的規範を確立することであり、これは、BTWCとCWCがそれぞれ生物兵器と化学兵器を違法化したことと同様である。
  3. TPNWは、「NPTに対する競合体制」を確立するもので、「NPTからの離脱」を招きかねない: トラテロルコ条約が初めてその適用地帯における核兵器を「禁止」し、その後、核兵器を否定する四つのNWFZ条約が締結されたが、いずれもNPTに対抗する、または取って代わるものとはみなされておらず、むしろ補い合うものと考えられている。TPNW締約国がNPTから「離脱」して、その不拡散義務を「縮小」しようとする可能性があると示唆することは、まったくもって筋の通らない話である。なぜなら、すでに上に述べた通り、TPNW自体が各締約国に対して「少なくとも、本条約発効時に効力を有する国際原子力機関の保障措置義務を守るものとする。ただし、これは、当該締約国が将来追加的な関連文書を採択する事を妨げない」(第3条)と求めているからである。
  4. TPNWは、「拡大抑止に基づく同盟関係を非正当化する」ものであり、そのため、同盟に加わるNNWSが自前の核兵器計画を策定する誘因になる: そのような主張は、同盟に加わるNNWSのNPTに対する誠実さと責任感を疑問視し、彼らが拡大核抑止に依存しているというだけの理由でその不拡散の信用性は疑わしいと示唆するものである。“ケーキを手元に残そうとし、同時にケーキを食べようとする”状況、つまり、核兵器の恩恵を被りながら(実際に核兵器を保有していなくても領土内に核兵器が配備されている場合を含む)、他のNNWSには不拡散を説いており、その結果、実質的にはNPTへの信頼を損なっているというのである。

 結論として、TPNWが発効し、賛成票を投じた122カ国のうち、さらに多くの国が批准手続きを完了し、それによって強行規範を確立して、すべてのNPT締約国だけでなく他の核兵器保有国にも対世的義務(訳者注=国際社会全体に対して負う義務)を生じさせたとき、慣習的国際法の下でTPNWが核兵器の禁止を生じさせる(create)ことはきわめて明白である。

タリク・ラウフは、国際原子力機関(IAEA)検証・安全保障政策課長(2002~2011年)、NPT運用検討会議へのIAEA代表団団長代理(2002~2010年)であった。日本の「核軍縮の実質的な進展のための賢人会議」委員(2017~2020年)、2015年NPT運用検討会議において主要委員会I(核軍縮)議長上級顧問を務めた。また、1987年よりすべてのNPT会合に公式代表者として出席している。

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