SDGsGoal1(貧困をなくそう)│ドミニカ共和国│マカダミア・ナッツの木がコーヒー農家を貧困から救う

│ドミニカ共和国│マカダミア・ナッツの木がコーヒー農家を貧困から救う

【サントドミンゴIPS=エリザベス・イームス・ローブリング】

Macadamia integrifolia/ Wikimedia Commons

32年前にドミニカ共和国を襲ったハリケーン「デービッド」がもたらした森林破壊は、貧困を生んだ。いま、被災後に行われたかつての植林計画を見直して、グルメ向けのアイスクリームを導入することにより、貧困に喘ぐ小規模コーヒー農家を支援するユニークなプロジェクトが進行している。

ハリケーン「デービッド」(カテゴリー5)は、1979年にドミニカ共和国に襲来し、約2000人が死亡、国の農業の70%を破壊した。翌年、起業家のマニュエル・アルセニオ・ウレナが、森林を再生し表土を補強するため、オーストラリアからマカダミア・ナッツの木を導入した。マカダミアの木は浅くしか根を張らないため、貴重な表面土壌を保持するのに役立つと考えられたのである。

 その後15年間にわたってマカダミア・ナッツの木はただ植えられただけであった。やがて実をつけるようになったが、殻が非常に硬く、ナッツが食べられるものだとは現地の人々に知られていなかった。その結果、世界市場で最も高価なマカダミア・ナッツが、収穫されることもなく放置されていた。そして地元の人々はマカダミア・ナッツの木を価値のない木と認識していたことから、やがて薪作りのために伐採するようになった。

そこへやってきたのが、地元アイスクリーム製造会社「エラドス・ボン」の創業者ヘスス・モレノ氏である。環境保全にも関心が深いモレノ氏は、新たにグルメ向きアイスクリーム路線の第一弾として、マカダミア・ナッツ入りアイスクリームを思いつき、放置されてきたマカダミア・ナッツの市場確保に乗り出した。

それから10年が経過した2005年、国産マカダミア・ナッツの生産量はアイスクリーム向け需要を上回り、モレノ氏は新たに「ラ・ロマ」というブランド名でマカダミア・ナッツのパッケージの販売を始めた。今日、「ラ・ロマ」のマカダミア・ナッツ缶は、ドミニカ共和国各地の食料雑貨店や観光地の売店で販売されている。ちなみに商品チラシには、「ドミニカ共和国で愛情を込めて育てました」と謳われている。

モレノ氏は、こうした成功に満足せず、マカダミア・ナッツの木をもっと祖国のために活用できるのではないかと考えた。
 
マカダミア・ナッツの木は、高さ15メートル程まで成長し作付けから6年後にナッツの収穫が可能となる。初年度における1本当たりの収穫量は5ポンド(約2.26キロ)程度だが、樹齢を重ねると年間40ポンド(約18.1キロ)程の収穫を見込めるようになる。また、マカダミア・ナッツの木の根は浅いため、コーヒーの木のそばに植えても害をもたらさず、コーヒーの生育に必要な日陰を提供する役割も期待できた。

こうしたことから、モレノ氏はマカダミア・ナッツの木を導入することで作付面積が1ヘクタール以下で貧困に喘いでいる約10,000件の小規模コーヒー農家を支援できるのではないかと考えた。

「ラ・ロマ」プロジェクトの主任をつとめているエディソン・サントス氏は、会社のトラックを駆使して首都サントゴミンゴから北へ約1時間のボナオ郊外の丘陵地帯を巡っている。彼はそこで現地のコーヒー農家にあたかも金鉱を発見したかのような情熱をもってマカダミア・ナッツの木を栽培するメリットについて説いて回っている。

「私たちには持続可能な農業を実践していくためのビジネスプランがあります。まず、会社側でマカダミア・ナッツの苗木を2年間育てます。そしてプロジェクトに参加を希望する小規模コーヒー農家に対して、必要な技術支援とともに木を提供しています。」とサントス氏はIPSの取材に応じて語った。

「その際、私たちは農家に対して将来収穫されるナッツを買い取る保障をしています。現在はナッツ1ポンド(約0.45キロ)あたり2.7ドルで買い上げています。提供している若い木からナッツを収穫できるようになるにはさらに4年間を要するため、農家が適切に栽培できるよう指導が欠かせません。マカダミア・ナッツの木は樹齢6年になれば向こう100年はナッツの収穫が期待できるのです。」

「栽培といってもたいした手間がかかるわけではありません。6カ月ごとに肥料を与え、ナッツが好物のネズミから木を保護すればよいのです。また、マカダミア・ナッツは、コーヒ豆のようにケアする必要はなく、木に実ったまま乾燥するため、市場への出荷も容易です。」とサントス氏は付け加えた。

マカダミアの木は、1ヘクタール当たり200本を植えることができる。植樹1年目で2500ドルを、将来的には2万1000ドルを稼ぐことも可能だという。1日あたりの収入が1ドルにも満たない小農が多いこの地では、夢物語にも聞こえる。

しかしこうした夢を実現した農家が出てきている。

セルビオ・マルチネス氏は、マカダミア・ナッツの木を栽培して12年になる。植えつけ時期が異なる合計250本を栽培している

「私はこれらの木の栽培をコーヒープランテーション敷地内で始めました。このプロジェクトには満足しており、もし尋ねられれば、私は確実に将来性がある作物をプランテーションで育てていると答えますよ。他の農家にもこのプロジェクトに参加するよう勧めます。」

マルチネス氏はマカダミア・ナッツの収穫で昨年8000ドル以上を売り上げた。しかもナッツの収穫まで成長していない木もあるので今後もっと多くの収穫を期待できる。
 
 「ラ・ロマ」プロジェクトは海外から援助金を獲得し、それを原資に農家への苗木提供と、無料の技術支援を行っている。一方、サントス氏は将来的に援助資金に依存することなくこのプロジェクトを維持していく取り組みについて説明した。

「私たちは、プラスチックの木をしつらえた(プロジェクトの趣旨を記したラベル付の)小さな箱を制作しています。そしてそれを置いてもらう地元のホテルを選定しています。つまり、ホテルの宿泊客は、それを買うことでマカダミア・ナッツの苗木のスポンサーとなり、農民の支援者になれるという仕組みです。なお、提携ホテルにはマカダミア・ナッツの殻を提供しています。またプロジェクトで支援をうけた農家はマカダミア・ナッツの木から収穫ができるようになると、5年~6年かけて元の苗木代をプロジェクト事務局に返済していきます。こうしてプロジェクト事務局は、次の農家に苗木の提供を行うことができるのです。」とサントス氏は語った。

またプロジェクトにはフェイスブックやツイッターのアカウントもあって、さらに支援の輪を広げようとしている。

マカダミア・ナッツで農民を救うドミニカ共和国のプロジェクトについて報告する。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

関連記事:
食料価格バブルを引き起こす投機活動

最新情報

中央アジア地域会議(カザフスタン)

アジア太平洋女性連盟(FAWA)日本大会

2026年NPT運用検討会議第1回準備委員会 

パートナー

client-image
client-image
client-image
client-image
Toda Peace Institute
IPS Logo
The Nepali Times
London Post News
ATN

書籍紹介

client-image
client-image
seijikanojoken