【国連IPS=レイラ・レムガレフ】
有力な国際メディア監視団体が、「2014年は世界中で報道の自由が後退する事態が見られた」と警告している。
フランスのパリに本部を構える「国境なき記者団」が2月12日に発表した2015年版『世界報道の自由度ランキング』によると、報道の自由度は世界的に後退傾向にあり、調査対象の180カ国・地域の3分の2が、前年よりランクダウンした。
上位の国は、5年連続1位となったフィンランドを筆頭に、ノルウェー、デンマーク、オランダ、スウェーデンと続き、上位20か国のうち15か国を欧州の国が占めた。一方下位を占めたのは、中国(176位)、シリア(177位)、トルクメニスタン(187位)、北朝鮮(179位)、エリトリア(180位)だった。
「国境なき記者団」のデルフィン・ハルガンド米国代表は、IPSの取材に対して、いくつかの事例について解説した。例えばワースト5位の中国については、「投獄中のジャーナリストが世界最多。さまざまな手段で情報の流通も制限している。」と指摘したほか、アゼルバイジャン(162位)については、「政府は最後の独立系メディアを閉鎖に追い込むなど多元主義の痕跡をほぼ全て排除した。」と解説した。
「国境なき記者団」は2002年から各国の報道の自由度を評価したインデックスを毎年発表している。このインデックスは、メディアの質を評価したものではない。
「このインデックスは、多くの国々で報道の自由やジャーナリストが攻撃に晒されている実態を、誰もが知ることができる有効な手段です。例えば、私たちは、「トルコに行ってみたい。」「ベトナムに行ってみたい。」という時、実はこれらの美しい国々では、多くのジャーナリストが標的になっているという事実を知らないことが往々にしてあります。そこでこのインデックスがこの重要な問題を認識する手段となるのです。」とハルガンド氏は語った。
またハルガンド氏は、質的・量的両面の基準を用いるこのインデックスの作成手順や透明性を向上させる目的で、今回初めて多くのデータを公開した、と語った。
2015年版『世界報道の自由度ランキング』は、報道の自由度が2014年に急速に後退した背景について以下の7つの要因を挙げている。
報道統制:「情報統制を強める政権の存在」(東欧、アフリカ、アジア、中東)
北朝鮮、エリトリア、トルクメニスタン、ウズベキスタン(政府がメディア・情報を完全に統制している国家として、他の非民主主義国家がモデルにしている。)中国、イラン、カザフスタン、サウジアラビア、バーレーン(徹底したインターネット検閲、ジャーナリストの逮捕・抑留、虐待)、スリランカ(新聞社を軍隊が包囲)他
紛争:紛争を有利に運ぶ手段として情報戦争を展開している紛争当事者の存在(ウクライナ、シリア、イラク、アフガニスタン、タイ、南スーダン)
メディア関係者は殺害・拘束の直接の標的となっているほか、プロパガンダ活動に協力する圧力をかけられたりしている。
無法な組織:非国家主体による専制君主的な報道統制の存在(ボコ・ハラム、イスラム国、イタリアのマフィア、ラテンアメリカの麻薬組織)
犯罪組織の宣伝活動に利用されることを拒否したジャーナリストやブロガーは口を封じられている。また、北アフリカと中東には顕著な「ブラックホール(非国家主体に地域全体が支配され、独立した情報提供者が全く存在しない地域)が存在する。
神聖を汚す行為:神への冒涜を犯罪と見なす国々の存在(サウジアラビア、イラン、モーリタニア、クウェートなど全世界の約半分の国々)
体制を批判したジャーナリストやブロガーを、政府が神への冒涜と結びつけて厳罰に処す事例や、過激派組織が、神や預言者への敬意が足りないと一方的に断定したジャーナリストやブロガーを標的にする事例が増えている。
抗議デモ取材の危険性:抗議デモを取材するジャーナリストやブロガーに対する暴力事件が増えてきている。
ウクライナ、エジプト、イエメン、香港、ベネズエラ、ギリシャ(治安警察による暴力)。タイ、ハイチ、フランス、ベネズエラ、香港(デモ抗議側からの攻撃)。中国、ベネズエラ(反政府デモ報道の検閲、シャットダウン)。トルコ(抗議デモ現場への立ち入り制限)。
欧州モデルの崩壊:欧州の国々はランキング1位のフィンランドから106位のアゼルバイジャンまで様々。
比較的上位を占める国が多い欧州でも、経済の低迷、社会不安の増大を背景にフィンランド(欧州の上位諸国でも、少数のオーナーへのメディア統合が進み相対的な報道の独立性が低下する傾向にある。)オランダ(国会の撮影を許可制に変更)。ノルウェー(報道は自由だが開発問題の取材が希薄)。デンマーク(年金スキャンダルを告発した活動家を逆に罰金処分に)。ハンガリー(政府機関のメディア干渉)。イタリア(国営放送による自己検閲)。アゼルバイジャン(欧州でも最も多くのジャーナリストを収監)。フランス(有力右翼政党によるメディアの占め出し)。
法律によるメディア規制:非民主的な政権と民主的な政権双方において、国の安全保障、領土保全等を名目にメディア規制・言論弾圧を行う事例が増えている。
タイ、インドネシア、ミャンマー(軍当局によるメディア支配強化)。(米国、英国、フランス(反テロ法制による国民の監視)。ロシア、モロッコ、エジプト、ソマリア、エチオピア(報道内容が領土保全を脅かすとして逮捕・収監)オーストラリア、日本(安全保障に関連して情報検閲体制を強化)
報道の自由度をどのように計測するかは、非常に複雑な課題だ、とハルガンド代表は言う。
「スーダンにおける報道の自由とイタリアのそれは、同一のものではありません。そこで、私たちは7つの基準(①多元主義、②メディアの独立、③自己検閲、④法的支配、⑤透明性、⑥インフラ、⑦ジャーナリストへの暴力)に照らして報道の自由度を評価しています。」
「これは非常に複雑な課題です。最大限に正確さを期すためにも多くの基準に当てはめる必要があります。しかし、そうした努力をしても、当然ながら、(報道の自由を巡る)状況は各国独自のものになります。」とハルガンド代表はIPSの取材に対して語った。
ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)メディア・コミュニケーション学部の教授で同校のジャーナリズムシンクタンクの所長でもあるチャーリー・ベケット氏は、(報道の自由度を計測する難しさについて)「あるレベルでは複雑ですが、また別のレベルでは極めてシンプルです。」と指摘したうえで、「もしジャーナリストが、投獄されたり、肉体的に傷つけられたりするケースを調べるのであれば、たしかに基本的な報道の自由度を測る尺度にはなります。しかし私としては、例えば偽情報のような、より微妙な問題が気になります。」と語った。
ベケット氏はIPSの取材に対して、「今日のメディアはあまりにも複雑になったため、報道の自由度を計測することも益々困難になってきています。」と指摘したうえで、「私たちは情報が豊富に溢れた世界に暮らしています。しかし、そうした情報や情報源をどのように信頼し、理解するかは、様々な力によって左右されているのです。」と語った。
ベケット氏は、「報道の自由は、もはや検閲や法律、或いはジャーナリストに対する肉体的な暴力という直接的に分かりやすい問題のみでは説明が困難になってきています。」さらに今では、「一人のジャーナリストが殺されると、残りの99人のジャーナリストが、以前よりはるかに言われた通りの行動をするようになるという恐ろしい状況があります。」と語った。
さらにベケット氏は、「たとえ新聞社が何かを出版している場合でも、果たして、ジャーナリストたちが脅迫されているのか、買収されているのか、或いは圧力をかけられているのか、実際にはどのような状況下で出版がされているかは知る由もありません。そしてもう一つのポイントは、もし人々に情報を共有する自由がないならば、自由なジャーナリストがいても意味がないということです。」と語った。(原文へ)
INPS Japan
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