【国連IDN=タリフ・ディーン】
女子教育への投資が進んでいるにも関わらず、女性の経済的平等が進んでいない実態を新たな調査が明らかにした。
この調査では、こうした投資が女性とその家族の健康増進など多くの利益をもたらしている一方で、経済的な見返りは期待されたほどではなかったとの知見を明らかにしている。
5月12日に発表されたこの研究は、ワシントンとロンドンを拠点とするシンクタンク「グローバル開発センター」の研究者らが執筆したもので、世界の最貧国において学校に通う少女の数が大幅に増加したものの、雇用や経済のジェンダー平等にはつながっていないことを明らかにした。
「女子教育への投資には意義があり、そのことに疑いはありません。しかし、女子生徒を学校に通わせるだけでは、その後の人生に平等な機会を与えることはできません。」と、本報告書の主執筆者の一人であるグローバル開発センター上級政策アナリストのシェルビー・カルバーリョ氏は語った。
126カ国を対象にした分析では、女子の教育水準が飛躍的に向上したにもかかわらず、女性の就労に関しては過去30年間ほとんど変化していないことが明らかになった。実際、女性は男性の2倍の割合で、雇用や教育を受けられていない。
また、「女子教育と女性の平等:世界で最も有望な投資からより多くを得るには」と題された調査では、以下のことが明らかにされている。
- 平均して、女子の就学率が上昇しても、働く女性の数は必ずしも増えておらず、働いたとしても、賃金や年功序列に大きな格差がある。
- 世界的には、失業中の若者(15~24歳)の大多数は女性である。
- インドでは、学校に行く女子の数が大幅に増えているにも関わらず、働く女性の数は1980年代以来増えていない。
- エチオピア、マラウイ、パキスタン、ウガンダのデータは、女子教育の改善は労働市場の公平性に全く影響を及ぼさないことを示している。
- ラテンアメリカでは、女子の学業成績が向上しているにもかかわらず、女性の社会進出が鈍化している。
こうした新しい知見は、国連の17項目の持続可能な開発目標(SDGs)、とりわけジェンダー・エンパワーメントと女性教育に関連した目標を棄損するのではないかという問いに対してカルバーリョ氏は「こうした制約は、SDGsの少なくとも3つの目標に影響します。」と答えた。
カルバーリョ氏は、「SDGsの第5目標では、すべての女性と女児のジェンダー平等とエンパワーメントの実現を呼びかけています。女子教育はジェンダー平等を実現するための重要な手段であり、各国は全ての女子に質の高い教育を提供するために絶対的に投資をしなくてはなりません。しかし、労働市場が男女平等でなければ、女性は教育の果実を享受することができません。」と語った。
「SDGsの第10目標は、国内および国家間の不平等の削減を求めています。ジェンダーの不平等は、国内における不平等の主な原因であり、政治的指導層から理科の先生の数に至るまで、女性が少ないことが進歩を遅らせることになります。」
さらに、「SDGsの第4目標は、すべての人に包摂的で公平な質の高い教育を求めています。しかし、パプアニューギニアやハイチでは高校を卒業できるのは女子の5人に1人、ベニンやギニアビサウに至っては女子の僅か5%しか高校を卒業できていません。このような状況ではSDGsの第4目標は達成できません。」と付け加えた。
カルバーリョ氏のインタビューの抜粋は以下の通り。
IDN: シャリーア法のあるアフガニスタンやサウジアラビアのような国々での女子教育やジェンダー・エンパワーメントの現状はどうでしょうか。
カルバーリョ:女子教育や女子の希望、労働市場で女子が得られる機会を制限するような厳格な法律や規範は、教育がエンパワーメントに果たす役割を制限し、たとえ教育の成果が同じであっても、人生の後半における経済機会の平等化に対する根強い障壁となる可能性があることが明らかになっています。
サウジアラビアやアフガニスタン、その他多くの国では、女子教育や女性の権利に関連するいくつかの分野で前進が見られる一方で、正式な法律や社会規範の両面で、女子教育が私たちの信じる大きな平等化の担い手となる可能性を制限し続けている分野もあります。
IDN:宗教、あるいは宗教の間違った解釈が、男女差別に影響があるとお考えですか。
カルバーリョ:社会規範は男女差別に大きな影響を持ちますが、それは宗教を含む多くの社会現象によってもたらされるものです。女性が働く能力、あるいは、特定の産業において女性が働く能力を制限する社会では、教育の恩恵を十分に受けられない女性がいます。
現在、3分の1以上の国で、女性が男性と同じ産業で働くことを制限しています。しばしば、男性中心の職場は給料レベルも高いものです。他にも、ローンの権利や労働時間の制限などの点で、女性は不利です。女子教育が実を結ぶには、女性が労働市場で平等な機会を得る以外にはないのです。
カルバーリョ氏はまた、「世界中の女性や女児にとっては、単に男性と同じ教育を受けるというだけでは、男性と同じ賃金を得る保証にならないのです。あるいは、未払いの家事労働や育児に時間を使うために、外で働けないということもあるでしょう。」
「また、男性からの暴力に遭う頻度が落ちるということでもありません。資産を手にするチャンスがより多くなるということでもありませんし、子どもたちが育つ社会がより平等になるという保証もありません。」と語った。
他方で、報告書の著者らは、教育制度がジェンダー平等を支援するために、学校を女子にとって安全な場所にし、女性差別を根絶し、卒業後の女子就労を一層支援するよう勧告している。
グローバル開発センターのシニアフェローで、本報告書のもう一人の主執筆者であるデビッド・エヴァンス氏は、「私たちは、女子を学校に通わせ学習を支援する方法については多くを知っています。しかし、学校がすべての女子にとって安全な場所にするためには、まだ学ぶべきことがたくさんあります。」と語った。
著者らは、こうした観点から、世界銀行や英国外務・英連邦・開発省(外務省)などの上位ドナーによるグローバル教育への投資について検証している。
ジェンダー平等や女子教育は、これらの機関が共通して焦点として掲げているものでる。2020年には、英外務省の教育関連資金の92%、世界銀行の資金の77%が、女子教育を優先事項とするプロジェクトに充てられていた。
「しかし、女子や、彼女らが抱えている特有の困難を対象とした事業は全体の半数以下しかない。教室でのジェンダー・バイアスの軽減に焦点を当てた事業は全体の5%に過ぎず、女子のエンパワーメント、アクセス、健康と安全、アドボカシーに焦点を当てたものは20%未満しかない。」と今回の報告書は指摘している。
この20年間における世界銀行の教育関連事業の中で、児童婚姻や若年層の妊娠、不十分な月経衛生管理など、女子特有の困難を取り上げた文書はほとんどなかった。
「教育制度における制度的なジェンダー・バイアスと、女子に対する学費を下げるなど、その多くが極めて単純で既に効力が証明された対応策に焦点が当たっていないことが、世界の中で最も貧しく、最も疎外された女子たちを苦しめている。コロナ禍によってその現状はさらに悪化している。」
都市部以外に住む貧しい女子たちは、学校に通えない可能性が最も高い。サハラ以南のアフリカでは、学校に入学していない人の半数以上が、農村環境で貧困ライン以下の生活をしていた、と報告書は指摘している。
「また、新型コロナウィルス感染症のパンデミックとそれに伴う景気後退、さらには親の失業や病気といったパンデミック以前の問題によって世帯収入が減少すると、女子は男子よりも学校に行けなくなる確率が高い。」
「ジェンダー平等や教育から得られる経済的利益を夢物語に終わらせないためには、私たちはもっと努力しなければなりませんし、おそらくこれまでのやり方とは違った考え方をする必要があります。」とカルバーリョ氏は語った。(原文へ)
INPS Japan
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