*エチオピア連邦政府軍による北部ティグレ州(同州政府を率いるティグレ人民解放戦線(TPLF)への軍事侵攻(11月5日)は、スーダンへの多数の難民流出(過去20年で最悪の1日当たり4000人規模の強制移動/UNHCR)やTPLFと対立関係にあるエリトリアの軍事介入を誘発しており、もはや内戦の域を超えて、「アフリカの角地域」全体に大きな影響を及ぼす国際紛争に発展しつつある。EEPA(事務局長:ミリアム・ヴァン・ライゼンINPS顧問)では、エチオピア連邦政府による厳しい情報封鎖下にある流動的な情勢の中で、国境を越えて逃れてきた難民や人道支援団体、外交筋、市民社会等から収集した最新状況報告(情勢を把握するための参考資料として、各種報道や発表と比較チェックすることを勧めている)を、11月9日以来随時IDNを通じて配信している。
軍事状況
エチオピアと難民が多数流入しているスーダン間の緊張が高まっている。スーダン政府は急速支援部隊と装備をエチオピア国境地帯に派遣した。(エチオピア・エリトリア国境に近い)カッサラ州、ガダーレフ州のバニアメール族とアルハブ族が食料・資金支援を行う。現在、スーダンとエチオピア間の交渉は中断したままになっている。
3人のエジプト政府関係者と欧州の外交官の証言によると、アラブ首長国連邦(UAE)がエリトリアのアッサブに保有する軍事基地からエチオピアのティグレ州に対してドローン攻撃を行ったという。ベリングキャット(ファクトチェックとオープンソースインテリジェンスを専門とする調査ジャーナリズムのウェブサイト)は、エリトリアのアッサブ基地に中国製のドローンが配備されていることを確認している。
報道によると、エジプトはトランプ政権の仲介で9月に国交樹立したUAEとイスラエル間の関係強化の動きを憂慮している。とりわけ両国がスエズ運河に代わるルートをイスラエルのハイファから建設するのではないかと危惧している。
報道によれば、エジプトはスーダンに対してティグレ州のTPLFを支援するよう働きかけている。エジプトは、同じくエチオピアの下流に位置する国として影響を受けるスーダンに対して、グランドルネッサンスダムを巡るエチオピアとの交渉で足並みを揃えられるよう関係強化を志向している。
報道によるとスーダン当局はアムハラ人特殊部隊と共にスーダン国境地帯で戦っていたアムハラ民兵の軍服を着たエリトリア兵を捕虜にした。
外交筋によると、「数千人規模の」エリトリア兵がティグレ州内で作戦に従事している。2人の外交官が、エリトリア兵がエチオピア北部国境の街ザランベッサ、ラマ、バドメの3か所からエチオピアに侵入したと述べている。
報道によると、ティグレ州の小さな街エドガ・ハムスでエリトリア兵による住民虐殺事件が起こった。犠牲となったのは聖職者と教会に避難していた女性達を含む約150人。マリエアム・デンゲラートと周辺の村々(マイメゲルタ、デンゲラート、ツァア、ハンゴダ)は、エリトリア軍の支配下にある。兵士達は家畜を殺害し、地元民らが餓死している。
ティグレ州の州都メケレの住民と情報集に当たっている2名の外交官によると、メケレ市内でエリトリア兵が確認されており、中にはエリトリア兵の制服を着ている者もいれば、エチオピア連邦軍の制服を着ている者いたが、「いずれもエリトリア語訛りでティグリニャ語を話していたほか、ライセンスプレートがないトラックを運転していた。」
エチオピア連邦政府軍がスール社(エチオピアの建設会社)を略奪し略奪品をアジスアベパに運んでいるとする複数の報告がなされている。
アディグラトでは、アディス薬品工場を略奪から守ろうとした助祭と15人の民間人がエリトリア軍の兵士とエチオピア連邦政府軍の兵士に殺害された。
国際的な動き
コリー・ブッカー上院議員(ニュージャージー州/民主党)とトッド・ヤング上院議員(インディアナ州/共和党)は、共同声明を発表しその中で、「アビー・アハメド首相は軍事作戦は完了したと主張しているが、エチオピア紛争は未だに終結からは程遠い状態にある。我々は、ティグレ州内のエリトリア難民(難民キャンプ4か所に約96,000人が暮らしていた)がエリトリア軍によって殺害、拉致、強制送還されているという報告や、より安全な地域に逃れようとする人々が足止めされているとする痛ましい報告に、深く憂慮している。」と述べた。両上院議員はまた、「紛争の国際化は米国の利益を脅かすもの」と指摘したうえで、エチオピアに対して公約を順守するよう求めた。」
米国家安全保障会議のキャメロン・ハドソン元アフリカ担当ディレクターは、「ティグレ州におけるエリトリアの関与を公に語ることについては、戦略・戦術面の配慮から、米国政府内で意見が分かれている。」述べた。
エリトリアのイサイアス・アフェウェルキ大統領の力は弱まっており、TPLFの排除に成功すれば、将軍たちはイサイアス大統領を排除してエリトリアとエチオピアの「統合」(エチオピアに紅海の港へのアクセスを確保)に動くと分析する専門家の見方が報じられている。
欧州連合(EU)は、ティグレ州は周辺地域を不安定化する人道的大惨事の瀬戸際にあると述べた。EUはこの地域に向けた人道支援資金を12月19日に2370万ユーロ増資した。EUの人道支援はエチオピア、ケニア、スーダンに対して実施される。
アントニオ・グテーレス国連事務総長の副報道官は、ティグレ州では多くの民衆が全く支援を受けられておらず、いくつかの援助団体による支援も制限を受けていると述べた。国連は引き続き、民衆が戦闘の影響を受けているあらゆる地域に「迅速かつ自由なアクセスが確保されるよう求めている。」
ティグレ州の状況に関する報道
ティグレ州の首都メケレは、警察とTPLF不在により無法地帯と化している。特に若者らがエチオピア連邦政府軍兵士らの標的となっている。
メケレでは、電気と電話線が断続的に繋がるものの、ティグレ州の大半の地域では繋がらない。インターネットは依然として使えない状況が続いている。
公務員はティグレ州の臨時政府により職場に戻るよう指示されているが、出勤するものはほとんどいない。
ティグレ州の住民の多くが、食料、水、現金、電気、電話へのアクセスができていないと指摘する国連報告書が公開された。
アディグラトのテスファセラシエ・メディン司教は、自宅で安全が確保されていることが報じられた。駐エチオピア教皇大使であるアントワーヌ・カミレリ大司教は、教区における戦闘が激しくなったために集会を欠席していたメディン司教との連帯を表明していた。
エチオピア情勢(ティグレ州以外)に関する報道
引き続き、ティグレ人を対象にした人種選別が行われている。首都アジスアベバ在住の著名なティグレ人活動家や弁護士が19日にエチオピア警察に逮捕された。また、ティグレテレビ局の元職員やティグレ系聖職者らも逮捕されたと報じられた。先週、エチオピア航空に勤務するティグレ人1名も逮捕された。(原文へ)
INPSの顧問を務めるミリアム・ヴァン・ライゼン 欧州政策アドバイザーが率いるEEPA(Europe External Programme with Africa) はベルギーを拠点とするシンクタンク。エチオピア、エリトリア、ケニア、ジブチ、ソマリア、スーダン、南スーダン、ウガンダを含むアフリカ諸国の専門家、大学、市民社会組織と協力して、アフリカの角地域における平和構築、難民保護、レジリエンス強化に取組んでいる。また、アフリカの角地域及び地球海中部ルートにおける難民の移動及び人身売買問題に関する報告書を出版している。
INPS Japan
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