【カイロIPS=アダム・モロー】
複数候補者による初のエジプト大統領選挙から2週間、人々は選挙が長期的な政治情勢に及ぼす影響を理解しようと躍起になっている。
予想通り、現職のムバラク大統領が圧勝を収めた。ムバラク大統領の当選が疑われたことはないと大半の識者が強調する一方で、例外があちこちに見られたものの、与党国民民主党(NDP)有利に不正操作が行われてきたこれまでの選挙に比べ、遥かに公正な形で選挙が実施された事実も指摘されている。
ニューヨークに本部を置く政治コンサルタント会社ユーラシア・グループの中東アナリスト、サイモン・キッチン氏は「とりわけ今後も選挙の透明性拡大に向けた動向が続けば、今回の選挙は前進の一歩」と評価している。
NDPのムバラク大統領は、得票率88.5%の圧倒的多数で勝利した。
対立候補は計9名で、ムバラク大統領に次ぐ得票率は、注目のアルガド(明日)党のアイマン・ヌール党首が7.3%で、伝統ある政党、新ワフド党のヌーマン・グムア党首は、党の名声にも関わらず、3%弱に終わった。
複数候補による直接選挙は、今年初めの憲法改正によって実現されたものである。これまでの選挙は、議会が選出した単独候補に国民投票で賛否を問う形で行われていた。
評論家は、改正は充分ではないとし、合法政党しか候補者を擁立できず、最低250人の署名を取り付けなくてはならないという厳しい立候補者要件を批判している。
こうした手続きは、少なくとも有力政党2党を締め出すに充分であった。野党のナセリスト党と左派タガンム党が抗議して、候補者擁立を拒否したのである。
また、エジプト最大のイスラム政治組織であるムスリム同胞団は、非合法化されたまま候補者を擁立できず、エジプトのもっとも手強い野党陣営も無力化されてしまった。
投票率は、政府が9月7日の投票日最後まで国民に投票を呼びかけたにもかかわらず、わずか23%にとどまった。これは期待を大きく下回るものであった
が、それでも、通常15%にも達していなかった過去の国民投票より高い数字であった。
ヌール、グムア両者は、選挙後、不正行為の申し立てを行った。「結果は現実とまったくかけ離れたものである」と、英字週刊誌『カイロ』は、ヌール候補の言として報じた。
だが、明らかな候補者に対する制約や不正行為の申し立てがあったとはいえ、選挙制度は過去に比べれば遥かに公正になった、というのが多くのエジプト人の見方である。エジプト人権機構(EOHR)は、ムバラク大統領が得た単発的な不正による得票は選挙結果に影響を与えるほど多くはなかった、との報告を明らかにしている。
「これまでよりは遥かに公正な選挙が行われたことは断言できる。以前のような組織立った脅迫もなかった。透明性に関して言えば、成績は『優』とは言えないまでも『良』」と、EPHRのハフェズ・アブ・サーダ会長はIPSの取材に応えて語った。
他方エジプト国民は、現職以外の候補者に勝ち目はないと、冷めた見方が大勢を占めた。候補者側も国民に自らの考えを訴えるのに3週間しか与えられなかった。
地元の法律事務所のシニアパートナー、アムル・アブデル・モタール氏は投票に行かなかった。「あのような必要条件が課せられれば、唯一当選可能なのはムバラクしかいない。他の候補に当選の可能性はまったくない」と述べた。
多くの人が、複数候補による選挙という概念が浸透するまでに5年ある2011年の次期大統領選を見据えている。
しかし、完全に公正かつ透明な選挙が実現されるまでには、大規模な改革が必要だ。
「NDPは依然として構造的に俄然優位な立場にある」と、キッチン氏は、与党の豊富な選挙資金源、広範に及ぶ党支部網、そして司法制度や報道機関への影響力を列挙して指摘する。「こうした優位が最終的に解消されないかぎり、信頼できる野党候補の擁立は不可能なままに終わるだろう」。
アブ・サーダEOHR会長も、2011年に完全に公正な選挙を実現するためには、憲法のさらなる修正が必要と、同意見である。「第76条(複数政党制選挙の規則を定める憲法条項)にまだ重大な問題がある」と述べ、真の競争を阻害する現行の規定として、250人の署名要件と、合法政党の党員しか立候補できない規定を例に挙げた。
アブデル・モタール氏は、「2011年はまだまだ先の話。まったく仮想の質問をするというのも難しい」とし、今後5年間、地域や国際的な外圧が現在の改革に向けた政治動向をおそらく左右することになるだろうと語った。(原文へ)
翻訳=IPS Japan