地域アジア・太平洋ビルマに新たなHIV・結核・マラリア基金援助

ビルマに新たなHIV・結核・マラリア基金援助

【バンコクIPS=マルワン・マカン・マルカール】 

長年にわたり軍事政権下で苦しむビルマの国民に、命にかかわる3大感染症対策のための新たな援助基金が供給されることとなった。この基金により、国際社会と秘密主義の軍事政府との関与が深まるとの期待が寄せられている。 

なによりもまず、エイズ、結核およびマラ3リア対策のための1億ドルのこの基金「3疾病基金」により、「ビルマへの人道援助は問題の多いこの東南アジアの国の政治とは切り離すべき」との一部西側諸国政府間で広がっている考えが試されることになる。

国連の監督の下、来年初頭から実施に移される基金には、欧州連合、オーストラリア、英国、オランダ、ノルウェーおよびスウェーデンが支援を寄せている。基金は、ビルマ政府が規制を課したことから2005年8月に9,840万ドル相当の活動が停止に追い込まれた世界エイズ・マラリア・結核対策基金(世界基金)の撤退後の空白を埋めることとなる。 

「人道上の理由から、国際社会はビルマ人民の窮状を無視できない」と欧州委員会のビルマ外交代表のフリードリッヒ・ハンブルガー氏はIPSの取材に応え電子メールで伝えてきた。「十分に計画を練れば人道支援も貧困者や恵まれない立場にある人々のもとに必ず届くと確信している」と述べた。 

欧州は、3疾病基金に対しては規制や妨害を受けないとの確約をビルマ(軍事政権はミャンマーと称する)から得ている、とハンブルガー氏は次のように言い添えた。「私たちは、政府の関連当局から、重要な資源がそれらをもっとも必要としている人々のもとに届くよう、また効率的に届けられるよう条件を整備するとの約束を取り付けている」 

3疾病基金は、また、先週ビルマのKyaw Myint保健相と国連プロジェクトサービス機関高官の間で交わされた覚書に盛り込まれた特別条項によって、世界基金よりも前進を図ることができると期待されている。 

「作業を進めるための全般的な政治的枠組みを整えた。大きな相違点のひとつとして、今回の取り組みでは『3疾病基金』を通じてプログラムを実施する事業者に対し郡区レベルでの医療制度との連携が義務付けられている」と国連のビルマ担当調整官のチャールズ・ペトリー氏はラングーンから電話で取材に応えて述べた。「実際に地元の医療当局と協力して活動しなければならない」 

報道によれば、覚書は、民族紛争下にある国境付近の地域も含め、基金の監視に当たる担当官にはビルマ全土へのアクセスも保証している。ジュネーブに本拠を置く世界基金の場合はこれほど恵まれた状況にはなかった。ビルマ政府は農村地域で世界基金の一部プログラムに取り組むNGOに対して厳しい移動制限を課していた。他の人道救援組織にも同様の規制が課せられ、フランスに本拠を置く国境なき医師団(MSF)など一部組織は今年初め撤退を余儀なくされた。 

エイズ、結核およびマラリアの感染率が地域の中でももっとも高い国のひとつであるビルマへの新たな基金供与に対しては、世界基金の撤退に大きな打撃を受けた地元コミュニティと協力する国際人道援助組織からも期待が寄せられている。 

ワールドビジョン・ビルマ事務所のHIVプログラム顧問キー・ミン博士はIPSの取材に応えて、「(3疾病基金)は抗HIV療法や必須医薬品で結核、マラリアの治療を受けている人々のニーズを満たすだろう。こうした病気に苦しむ人々にも生きる希望が出てきた」と述べた。 

実際、キリスト教精神に基づく国際救援機関であるワールド・ビジョンは、世界基金が抗議して撤退してから、HIVプログラムの財源削減に苦しんでいるNGOのひとつである。なかでも、ビルマ西部のエーヤワディ管区とチン州のHIV陽性者を対象とした在宅ケア・プログラムおよびカウンセリング・サービスが財政難にある。 

キー・ミン博士は、「ちょうどプログラムを開始したばかりのところで、資金の拠出が停止されてしまった。プログラムは潜在的移民と一般住民を対象とし、受益者は15万人にのぼるだろうと推定していた」と説明した。 

地元草の根の取り組みを強化するため無償資金協力の対象としている120カ国以上の開発途上国のひとつに世界基金がビルマを選んだことは、命に関わる3大感染症の蔓延を考えると時宜を得たものだった。世界基金が撤退という前例のない措置をとってから1年、ビルマの医療情勢に改善は見られていないとさまざまな報告は伝えている。 

国連エイズ合同計画(UNAIDS)その他保健機関によれば、人口5,000万のビルマのHIV感染率は東南アジアで一番高く、成人感染率は1.3~2.2%、HIV陽性者は36~61万人にのぼる。 

加えて、ニューヨークに本拠を置くシンクタンク、外交問題評議会は、2005年の調査報告書で、ビルマは、西はカザフスタンから東はベトナム南部までの広域におけるあらゆる変種のHIVの蔓延源になっていると明らかにしている。 

結核についても状況は同様に厳しい。ビルマの年間新規感染者数は9万7,000人にのぼり、世界保健機関(WHO)の統計では、結核罹患率がもっとも高い22カ国の中に入っている。ジュネーブに本拠を置くWHOが現在直面している厄介な問題は、多剤耐性結核(MDRTB)の流行である。ビルマでは、新規感染率が4%と、5.3%の中国に次ぐ東アジア第2位の深刻な状況となっている。 

マラリアも感染が広がっており、昨年WHOが実施した調査によれば、2003年に71万6,000症例と、アジアでもっとも深刻な国のひとつとなっている。2001年には66万1,463症例であった。 

しかしこうした深刻な状況にあっても軍事政権は強硬な姿勢を崩しておらず、ビルマの少数民族が暮らす地域の感染症の影響を受けやすいコミュニティに対する保健プログラムの提供を認めていない、と野党グループは述べている。彼らは、感染症に苦しむ人々に希望と救いを提供する保健活動の取り組みをビルマ政府がいかに阻害しているかを示すものとして、依然実施されている移動制限を指摘する。 

1991年に軍事政権によって禁止された政党「新社会のための民主党」の外交担当広報官ゾー・ミン氏は、「NGOや人道援助機関の国境地帯への移動を阻止するための移動制限が依然として実施されている」と語っている。

ミン氏は、「『3疾病基金』が自由に活動するには地元パートナーが必要だ。しかし軍事政権は、コミュニティに基盤を置く地域社会組織(CBO)は住民の政治意識を高めることになる懸念があるとして、CBOをおそれている」と取材に応えて説明した。「最近、(野党)NLD(国民民主連盟)との政治的提携関係を理由に、HVI/AIDS活動家が逮捕された」(原文へ

翻訳=IPS Japan

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