5月2日から3日にかけてドイツ外務省が米国務省と共催した国際会議「気候危機の最中における持続可能な平和:データ科学、技術とイノベーションの役割」におけるベアボック外相のスピーチ内容。ドイツは今年のG7議長国である。
【ベルリンIDN=アナレーナ・ベアボック】
気候危機は、私たちの世界、私たちの生活に対する脅威です。皆さんの多くは、このことを何年も前から知っていました。
ドイツに暮らす私たちの多くは、昨年、致命的な洪水によって200人近くが亡くなったことで、そのことをはっきりと認識しました。しかし、世界中の何百万人もの男女や子供たちにとって、気候の危機は非常に長い間、 危険な現実であり続けているのです。
先月サヘルに行ったとき、マリやニジェールの勇気ある女性たちが、干ばつや異常気象がいかに彼女たちの生活を脅かしているかを話してくれました。
ニジェールでは、ニアメの北に位置する広大な平原に立ち、60年ほど前には綿花が栽培されていた場所に行きました。村人によると、かつては木々が生い茂り、20メートル先も見えないほどだったそうです。私たちが立ってみると、地平線を遮るものは何もない。見えるのは、干ばつと浸食、そして激しい雨によって硬くなった、赤く不毛な土の地面だけでした。気温45度の焼け付く大地の上に立つと、その村に住む人々にとって気候変動が何を意味するのかがわかります。
彼らにとって、そして世界中の多くの人々にとって、気候の危機はパーセンテージや排出量の目標値で測れるものではありません。彼らにとって、気候の危機とは、母親が次の日に子供に何を食べさせたらいいかわからないということです。これはつまり、農民が収入源がなくなってしまったので、息子が過激派に加担するのではないかと心配しているということです。
そして今、ロシアによるウクライナ侵攻はこの危機をさらに悪化させ、既に人々が多大な苦痛を受けている地域で、供給の途絶が食料価格を押し上げています。複数の危機の嵐がサヘルをはじめとするこの世界の脆弱な地域のコミュニティを襲っているのです。そして、気候の危機はその嵐の中心にあり、他の危機をさらに乗り越えにくくする要因として作用しています。だからこそ、私たちは気候の危機との闘いを政治的行動の中心に据える必要があります。
グラスゴーで開催された前回の気候変動会議(COP26)で、世界は1.5度の目標を達成するために2030年までに世界の排出量を45%削減することに合意しました。今、重要なことは、エジプトで開催される次の気候変動会議(COP27)を利用して、この野心を完全に行動に移すことです。
このことを念頭に置き、私たちは国際的な気候変動対策のための特使として、ジェニファー・モーガンを任命し、今日の会議に参加させました。モーガン特使をはじめ、ベルリンや各国の大使館にいる彼女の同僚たちは、世界中の国々と気候に関するパートナーシップや対話を構築し、知識や技術を共有し、この激しい嵐に耐える力をつけるための中心的存在となるでしょう。なぜなら、気候危機を抑えるために必要な行動の規模とスピードを考慮すれば、私たちは世界中で一緒に行動することしかできないからです。
しかし、正直なところ、サヘルなどの地域に見られるように、危機を抑えるだけでは十分ではありません。私たちは、人々が気候変動による被害に適応できるよう支援し、気候変動のリスクを軽減しなければなりません。
本日の会議が早期警戒とリスク分析を扱うのはこのためであり、なぜこれが非常に重要なのか、その理由もここにあります。科学的分析、ビッグデータ、人工知能……どれも抽象的で専門的、そして少しオタクっぽい印象を受けるかもしれません。しかし、これらは実際に命を救うことができるツールなのです。
異常気象がいつどこで発生するかが分かれば、遡及的に再建するだけではなく、積極的に保護するなど、より適切な対応が可能になります。例えば、ギニア湾などでの海面上昇を予測できれば、手遅れになる前に海岸線から人々を避難させる計画を立てることができます。また、ソマリアで深刻な干ばつが発生し、食料が不足しそうな地域がデータ分析によって明らかになれば、緊急支援の準備をより効果的に行うことができます。早期警戒メカニズムとリスク分析は、文字通り、沸騰する危機の度合いを測り、人命救助に役立てることができるのです。
そのため、私たちはこれらのツールを強化しています。例えばニジェールでは、国連の専門家が非常に詳細な衛星データと人工知能を使って、嵐や大雨の影響を受けにくい学校用地を特定しています。中央アジアでは、洪水や水資源の変化を予測するために、氷河の監視を支援しています。
外務省には、高度なデータ分析プラットフォーム「PREVIEW」が設置されています。人工知能の助けを借りて、私たちの同僚は何十億ものデータを評価し、暴力的な紛争、政治的傾向、気候変動のパターンを予測・分析しています。そんな彼らが説明してくれた手法の一つが、テキストマイニングです。つまり、たとえば国連総会で可決された何千もの決議文をフィルタリングして、各国の投票パターンがどのように展開しているかを理解しているのです。
PREVIEWは、科学者と政治家、科学と政治の間のギャップを埋める、ドイツ政府内でもユニークな規模と野心を持った学際的な分析ツールです。なぜなら、データ分析は、私たちのグローバルな課題を理解し、それに対処するための鍵だからです。一つはっきりしているのは、リスク評価に関しては、私たちが協力し合うことが最も効果的であるということです。このように考えているのは、私たちだけではありません。西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)は、地域的なECOWARN(早期警戒対応ネットワーク)を通じて先導していいます…。
私たちは、地域や国連、とりわけG7で力を合わせる必要があります。なぜなら、この気候危機を推進した富裕層や先進国は、気候危機と闘う上で特別な責任を負っていると私は信じているからです。
確かに、この危機は地球上のすべての人々に影響を及ぼしています。しかし、それは私たち全員に等しく影響を与えるわけではありません。気候の危機は、最も脆弱な人々に最も大きな打撃を与えているのです。
気候変動対策は、グローバル・ジャスティス(地球規模の正義)の問題です。だからこそ、ドイツはG7議長国となった機会を利用して、グローバルかつ包括的な「気候・環境・平和および安全保障イニシアティブ」を立ち上げるのです。
私たちは、レトリックから行動へと移行する必要があります。昨年、国連や緊密なパートナーとともに、複合リスク分析基金に合意するために尽力したのもそのためです。私たちはまず、テロや暴動、抗議行動などの紛争に関する包括的なデータセットに資金を提供し、毎週更新され、世界中でアクセスできるようにします。私たちの優先課題は明確で、知識を共有し、現場でのタイムリーな行動と保護を支援するために協力することです。
この会議は、知識を共有し、意思決定者、科学者、実務者をつなぐ場であり、より良い行動への重要なステップとなります。海面上昇、異常気象、干ばつの多発など、気候変動の影響を最も直接的に受けている方々のご意見を伺いたいと思います。
また、この会議を共催する米国のパートナーに感謝したいと思います。これから、ジョン・ケリー大統領特使(気候担当)の話を聞くのが楽しみです。
この会議は、データ、分析、科学的ツール、人工知能に関するものですが、同時にデータの背後にいる、気候の危機が抽象的でも人工的でもなく日常生活に関わる人々、つまり、自分たちの生活や子どもたちの次の食事に不安を感じているマリやニジェールの女性たちや、硬くなった土壌を耕すことができない農民たちについての会議でもあるのです。
データと科学的分析によって、私たちはより良い準備と広い目で未来と向き合い、共に命を守ることができるのです。(原文へ)
INPS Japan
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