SDGsGoal13(気候変動に具体的な対策を)北極圏会議で注目を浴びる先住民族

北極圏会議で注目を浴びる先住民族

【レイキャビクIDN=ロワナ・ヴィール】

北極地域は地球の生態系の中でも特異な地位を占めている。この地域の諸文化や先住民族らは寒冷で極端なこの地の気候に適応してきた。北極での生活は、動物プランクトンや植物プランクトン、魚類や海洋生物、鳥類、陸上生物、人間社会を包含している。

北欧の国アイスランドの首都レイキャビクは、第27回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP27)まであと4週間を迎える中、「北極圏会議」の主催地となった。北極は、エジプトのシャルム・エルシェイクで行われる2022年の年次会合の議題には上がっていない。

しかし、10月13日から16日にかけて開催された北極圏会議には2000人が参加し、600以上の講演やセミナーが持たれるなど、「大成功」を収めたとみられている。

10月にレイキャビクで開催された北極圏会議は、公式のイベントに加えて、継続中の研究やその結果の公表や拡散、社会・環境問題の議論など、ネットワークを広げるために多くの時間を費やすことができる構成となっていた。あまり知られていない研究でも、多くの人々に届けることができる。

The Frederik Paulsen Arctic Academic Action Award 2022: Ceremony and Reception/Arctic Circle

例えば、スウェーデン製薬業界の億万長者フレデリック・ポールセン氏は北極圏会議でを創設し、2年目を迎えた。気候変動の劇的な影響を具体的に反転させようと試みる行動志向の科学的取り組みに対して賞を与えることにしたのだ。

今年の受賞者は、ロングイェールビーンのスヴァールバル大学センターに勤めるハン・H・クリスチャンセン氏とマリウス・O・ヨナッセン氏であった。彼らの研究は、異常気象とインフラに関連して北極圏社会の適応力をつけることを目的とした先進的な永久凍土・気候変動対応システムの開発に力を注ぐものだ。

アイスランドの左派緑運動党の議員で「西部ノルディック評議会」の議長であるスタイナン・トーラ・アルナドッティル氏は、「西部ノルディック地域におけるグリーンイノベーションと若者の新しい機会」と題したセミナーを開いたが、北極圏会議から特に具体的な動きが出てきていないことを認めた。「北極圏会議は人脈作りと交流の場、つまり、アイディアをもらい意見を交換する場です。しかしそれが北極圏会議の目的でもあります。政治家や学者、研究者、企業人を一堂に会させるという役割です。」とアルナドッティル氏は語った。

アルナドッティル氏は、自らにとって何が重要かを語る若者たちが多くのセミナーに参加していたことに感心した。あるセミナーでは、先住民族の英知について言及がなされた。「英知をいかに世代を超えて伝えるか、自然の力に対処するにあたって過去の世代の英知を科学者が理解できるような『言語』に先住民族がいかにして翻訳していくかが重要です。」と指摘した。

Photo: Anders Oskal from Norway's International Centre for Reindeer Husbandry said the Arctic Council’s Arctic Monitoring and Assessment Programme works with reindeer herders and how they deal with climate change. Credit: Lowana Veal | IDN-INPS.
Photo: Anders Oskal from Norway’s International Centre for Reindeer Husbandry said the Arctic Council’s Arctic Monitoring and Assessment Programme works with reindeer herders and how they deal with climate change. Credit: Lowana Veal | IDN-INPS.

アイスランド「若者環境協会」のエステル・アルダ・フラフンヒルダー・ブラガドッティル氏は、先住民族社会や環境正義、それにエコフェミニズムという考え方に特に関心を持っており、いくつかのセミナーに出席した。

彼女は、技術的な解決策について、先住民のコミュニティと欧米諸国の人々の間で考え方に違いがあることに気づいた。あるセミナーでは、「カナダ、グリーンランド、米国の先住民が、「自然を基盤とした解決策(Nature -based Solutions=NbS)」や地球工学といった欧米の解決策は、彼ら先住民が実際に目の当たりにし直面している問題を考慮した不可欠な解決策ではないと語っていた。」しかし、彼女が次に参加した「欧米の白人が主導したセミナー」では、「欧米のパネリストらが、まさにこうした解決策を賞賛していた。」のだ。

にもかかわらず、ブラガドッティル氏は、より良い方向に向けて何かが変わりつつあると感じている。先住民族に関する数多くのイベントが開かれ、「先住民族に関する状況は、2013年に第1回北極圏会議が開催されて以来、かなり改善してきた」という評価が見られた。

「同じことは女性に関しても言えます。」とブラガドッティル氏は語った。今回の会議では、アイスランドのカトリーン・ヤコブスドッティル首相が北極圏におけるジェンダー平等と女性のリーダーシップに関する部会の司会を務めた。「この部会が開かれるまでに5年を要したことをあとで知り驚きました。それでも今回開催できたことはよかったと思います。」とブラガドッティル氏は付け加えた。

Ólafur Ragnar Grímsson/ By premier.gov.ru, CC BY 4.0
Ólafur Ragnar Grímsson/ By premier.gov.ru, CC BY 4.0

オラフール・ラグナー・グリムソン氏は、自身が大統領在任中に北極圏会議を創設した(2016年まで大統領職にあった)。16年間の職責の間、多くの政治家に会い、有名なスピーカーを多く北極圏会議に招いてきた。

一部の国は、北極圏内にはないためにオブザーバーという形で参加してきた。例えばシンガポールがそうである。シム・アン外務担当兼国家開発担当上級国務大臣は、シンガポールはその地理的な特徴ゆえに北極圏会議に参加している、と語った。

彼女は発表でこう述べている。「北極で起こっていることはシンガポールのような小規模な島嶼国には重大な影響を及ぼしています。我が国の約3割は海抜5メートル以下のところにあり、地球温暖化による海水面の上昇に脆弱です。従ってシンガポールとしては、気候変動のマイナスの影響に対処する上で多くの北極圏国家と積極的に協力していきたいと思っています。」

シンガポールは2050年までに温室効果ガス排出ゼロ(ネットゼロ)を目指している。

今も北極圏会議の議長を務めるグリムソン氏は、「北極圏会議の特徴は、設立以来、気候変動対策、クリーンエネルギー開発、北極の氷の急速な融解に対するより良い理解など、多くの重要な分野における複数のアクションやプロジェクトにつながる条件やコンタクトを創出させてきたところにあります。2022年の会議は、様々なパートナーや組織、政府を一堂に会して、複数の方法で行動を強化する北極圏の招集力を再び見せてくれました。」と説明した。

「『北極圏』の民主的な性格によるならば、このイニシアチブの役割は、必ずしも新たにアクションを生み出すことではなく、他者が具体的な方法で前進するのを可能にするところにあります。さらに、今回の会議では、近年で最も重要な気候-北極圏研究である歴史的な「北極気候研究のための学際的漂流観測(モザイク)」探検隊を表彰し、北極圏賞を授与しました。」と付け加えた。

「『モザイク』は、北極海の北極に近いところで砕氷船を用いた1年に及ぶ探査である。砕氷船には科学調査の機器を積み、その目的は、地球温暖化の震源地である北極に迫り、気候変動に関する理解を深める知見を得ることである。20カ国から数百人の研究者が関わっている。」

「このように、2022年の会議は、北極圏の科学と気候変動の脅威を理解することの根本的な重要性を伝えています。」とグリムソン氏は締めくくった。

シンガポールのような熱帯の国々にも利するところがある。アイスランドでの毎年のイベントに加えて、特定の問題に焦点を当てた小規模のフォーラムが各地で開かれている。次のフォーラムは、来年1月と3月にそれぞれアラブ首長国連邦のアブダビと日本で開催の予定だ。(原文へ

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