SDGsGoal11(住み続けられる街づくりを)オーバーツーリズム:市民社会の動き出し

オーバーツーリズム:市民社会の動き出し

【ロンドンIPS=アンドリュー・ファーミン】

ヨーロッパや北米は休暇シーズンの真っただ中で、人々はビーチに押し寄せ、都市中心部を埋め尽くしている。旅行・観光産業は巨大なビジネスであり、昨年は世界経済に占める割合が10.9兆米ドル、世界GDPの約10%に達した。

Andrew Firmin
Andrew Firmin

しかし観光地の住民は、その負の側面を肌で感じている。観光客の過剰な集中、地域社会の恒常的な変化、迷惑行為、逼迫する公共サービス、ごみや汚染といった環境負荷、そして高騰する住宅費用である。オーバーツーリズムは、観光産業が住民の生活の質を体系的に損なう状況を指す。各国で住民の抗議が相次ぎ、市民社会の草の根団体が持続可能な観光のあり方を求める動きが広がっている。

住民の抗議

6月、ヨーロッパ各地で連携した抗議行動が行われた。人口160万人のバルセロナには年間3200万人の観光客が訪れる。観光縮小を求める「ネイバーフッド・アセンブリー」は、ホテルの入り口を封鎖し、発煙筒を焚き、水鉄砲を放つ抗議を実施した。ジェノバでは、活動家が大型クルーズ船の模型を旧市街の路地に引き込み、観光船の影響を訴えた。これらの行動は、フランス、イタリア、ポルトガル、スペインの団体が4月に結成した「南欧反観光化ネットワーク」の協議で調整されたものである。

Crowds at the Trevi Fountain in Rome/ Public Domain.
Crowds at the Trevi Fountain in Rome/ Public Domain.

これが初めての抗議ではない。5月にはカナリア諸島で数千人がデモを行い、昨年も複数の都市で抗議が行われた。直近では、パリのモンマルトル地区の住民が、自宅に横断幕を掲げ、地域が観光で変容していることを訴えた。

抗議は街頭にとどまらない。オランダでは「アムステルダム・ハズ・ア・チョイス」という住民団体が市を相手取り法的措置を検討している。2021年、市は住民の請願を受け、宿泊数を年間2000万泊に制限することを決定したが、調査ではこの上限を恒常的に超えていることが示されている。団体は規制の履行を求めて訴訟に踏み切る構えだ。

複数の国で住民が声を上げるのは、同じ問題に直面しているからだ。オーバーツーリズムは地域社会を変貌させ、住民を追いやりつつある。

オーバーツーリズムの影響

観光業は雇用を生むが、多くは低賃金かつ季節労働で、労働権や昇進の機会は限られる。観光の集中する地域では、住民が日常的に利用する店が観光客向けのビジネスに置き換わり、家賃高騰で老舗も淘汰される。

Map of Spain
Map of Spain

環境への負荷も住民を直撃する。イビサ島の活動家は、水不足で住民に制限が課される一方、ホテルは対象外だと訴える。ビーチや公園といった公共空間は過密化・劣化し、地域社会は舞台セットのように扱われ、帰属意識や地域のアイデンティティが脅かされる。「観光よりも生活を」というスペインの運動がその象徴である。

住宅費高騰は最大の懸念のひとつだ。賃金を上回る勢いで住宅価格や家賃が上昇し、若者は収入の大半を家賃に費やさざるを得ない。観光需要は短期滞在用賃貸を増加させ、恒常的な住宅供給を圧迫している。観光地に住む人々は、自分たちの住居が投資用物件や短期レンタルに変わり、住宅不足と価格高騰を招いているのを目の当たりにしている。

マンションの住人は、短期賃貸化により近隣住民が消え、代わりに観光客の迷惑行為に悩まされる。規制は甘く、大家が法を無視しても摘発は少なく、税の回避も容易だ。スペインには推計6万6000件の違法観光アパートが存在する。

対策の必要性

昨年、バルセロナで観光客に水を浴びせた抗議行動が注目を集めたが、住民の多くは観光客を直接狙っているわけではない。彼らは外国人嫌悪ではなく、観光客と住民の間に公平なバランスを求めているのだ。観光で利益を得る者に、問題解決のための負担を求めているのである。

抗議の成果も出始めている。昨年、スペインの裁判所は規制違反を理由にAIRBNBの物件約5000件の削除を命じた。バルセロナ市長は、短期レンタル物件のライセンス更新を打ち切り、5年以内に全面廃止する計画を発表。ポルトガル政府は新規ライセンス発行を停止し、ギリシャ政府は新規登録を1年間禁止した。それでも多くの国で規制の隙間が残り、政府は市民団体と協力して改善する必要がある。

By Steve Swayne - File:O Partenon de Atenas.jpg, originally posted to Flickr as The Parthenon Athens, CC BY 2.0
By Steve Swayne – File:O Partenon de Atenas.jpg, originally posted to Flickr as The Parthenon Athens, CC BY 2.0

観光税を導入する自治体も増えている。ベネチアは非住民にピークシーズンの入場料を課し、アテネではパルテノン神殿の入場者に時間指定を導入した。こうした税や料金は単なる収入源ではなく、被害を受ける地域社会を支援するために使われなければならない。

また、当局は観光誘致のマーケティング戦略にも注意を払い、過度な宣伝を避けるべきだ。観光客に与える影響を認識させ、被害を最小限に抑える行動を促すキャンペーンが必要である。

オーバーツーリズムへの抵抗運動は今後さらに拡大し、環境、住宅、労働などの問題を結びつけながら広がっていくだろう。気候変動が資源を一層圧迫するなか、この問題は深刻さを増している。オーバーツーリズムの懸念は、結局のところ経済が大多数の人々の利益のために機能していないという不満の表れでもある。各国政府と国際社会は、経済をより公正で持続可能かつ搾取的でないものにする方法を真剣に模索し、警鐘を鳴らす市民社会の声に耳を傾けなければならない。(原文へ

アンドリュー・ファーミン氏は、CIVICUS編集長であり、「CIVICUSレンズ」共同ディレクター兼ライター、『世界市民社会報告書』共著者。

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

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