【コペンハーゲンIDN=ジョン・スケールズ・アベリー】
グラスゴー気候変動会議(2021年10月~11月)が緊急に求められている気候アクションを生み出せず悲惨な結果に終わった一つの理由は、人間が自らの目前にあることにしか反応できないということにある。支払うべき家賃は緊急の問題だが、気候の破滅は遠い脅威のように映っているようだ。
第二の理由は、文化的な慣性だ。私たちは自分のライフスタイルを急速に変化させることに困難を感ずる。教育・政治のシステムもゆっくりとしか変わらない。自動車工場を建設するには長い時間がかかり、工場ではガソリン車を延々と作り続けている。多くの人々が化石燃料を使う産業によって生計を成り立たせている。
最後に、気候の破滅の回避は国際的な問題であるということがある。歴史的に見れば、工業化を済ませた国々が温暖効果ガスの排出の大部分に責任があり、インドのような発展の度合いの低い国々の人々は、生活の水準を上げ貧困と闘うために豊かな石炭を使う権利が自分たちにはあると考えている。
南極・北極からの警告
気候変動の破滅的な最悪の影響が現れるのはずっと先のことではあるが、気候の破滅が思っていたよりも近いことを物語る警告は顕在化している。北極や南極は、世界のその他の地域よりも2倍以上の速さで温暖化しているという事実がそれである。
南極では、時に「終末の氷河」とも呼ばれる広大なスウェイツ氷河に最近多くのひび割れが現れ、科学者らはそれが車のフロントガラスのように粉々に割れてしまうのではないかと恐れている。もしそうしたことが起きると、「海洋性氷床の不安定」と呼ばれるメカニズムを通じて、近くの氷河の崩壊を引き起こしかねない。これによって海水面は数メートル上昇し、世界中のすべての沿岸都市に脅威を与えることになる。
北極からの別の警告もある。たとえば、北極圏から70キロ北に位置するシベリアの街ベルクホヤンスクでは2020年6月に気温が摂氏38度に達した。この計測は世界気象機関(WMO)が確認している。こういう温度はふつう、スペインかイタリアで見られるものだ。
グリーンランドの表層の氷を観測している研究者によれば、夏の湖から水があふれ出てクレバスに流れ込み、氷の層の下部に達しているという。こうした水の動きは潤滑剤的な働きをして、氷の層全体の海洋への移動を促進してしまうことになる。
北極海ではまもなく、年に1、2カ月は完全に氷のない時期が訪れることになろう。これによって、アルベド効果の絡んだサイクルが生まれることになる。つまり、氷が日光を反射し、一方では太陽からの熱を海洋が吸収して、北極海のさらなる温暖化につながるというメカニズムである。
「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)も重大な警告を発している。最近のIPCCの報告書は、緊急の行動が伴わなければ、気候変動は我々の対応能力を早晩超えてしまうと警告した。
キーリング曲線
「キーリング曲線」は、ハワイ・マウントロア観測所で大気中のCO2濃度を測定している。2013年には400ppmを超え、それ以降は濃度が上昇しているだけではなく、上昇率も高くなってきている。科学者によれば、現在のCO2濃度レベルは少なくともこれまでの200万年で最高だという。
壊滅的な気候変動を避ける取り組みに失敗したらどうなるのだろうか? 長期的には地球上の表面のほとんどは居住不可能になるだろう。植物や動物の多くの種が移動できなくなって死に絶える。人類は生き残るかも知れないが、熱波や飢餓、戦争による死亡によって人口は大幅に減ることだろう。
緊急かつ大胆な行動が必要
これらの理由のために、まだ時間のあるうちに大胆な気候アクションに取り組む必要がある。
「私たちには希望があります。もちろんそうですが、希望以上に必要なのは行動することです。行動し始めれば、希望はあちこちに現れるのです」というグレタ・トゥーンベリの言葉を思い出そうではないか。
将来世代のために、そして美しい地球のために、今こそ行動しよう。
どんな行動が必要か
1.化石燃料の採掘を止めねばならない。現在、中国とインドが石炭を大量消費している。ロシアやサウジアラビアのような国々は石油や天然ガスを採掘・輸出している。カナダのタールサンド事業は大量の温暖効果ガス排出につながっている。米国ではバイデン政権が気候アクションを取ると公約しているにもかかわらず、海洋や北極にある石油採掘権を売却している。
2.化石燃料関連企業への補助金を止めるべきだ。最近の報告書では、これらの企業は2020年に計5兆9000億ドルの補助金を受け取ったという。
3.再生可能エネルギー事業を促進・支援すべきだ。グリーンニューディールはルーズベルト大統領のニューディール政策と同じく政府の行動を目に見えやすくし、緊急に必要とされる再生可能エネルギー構造を生み出す。再生可能エネルギーは現在、化石燃料由来のエネルギーよりも安価であるが、政府の支援が依然として求められている。(原文へ)
※ジョン・スケールズ・アベリー(1933年、レバノンで米国の両親から生まれる)は、量子化学、熱力学、進化、科学史における研究で有名な理論化学者。1990年初め以来、積極的に平和活動も行う。「科学と世界問題に関するパグウォッシュ会議」のメンバーでもあった。
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