SDGsGoal13(気候変動に具体的な対策を)パリ協定からの米国離脱、世界の気候脆弱性を一段と深める

パリ協定からの米国離脱、世界の気候脆弱性を一段と深める

【国連IPS=オリトロ・カリム】

1月27日、米国は2015年に採択された国際条約「パリ協定」から正式に離脱した。パリ協定は、地球温暖化の抑制と、各国が気候変動の影響に備える強靭性(レジリエンス)の向上を目的とする。トランプ政権が1年にわたり規制を後退させ、連邦レベルの気候政策の解体を進めてきた流れの中での離脱であり、国際的な気候対策を弱めるとみられる。環境劣化や生物多様性の損失を加速させ、健康と安全、さらには長期的な開発にもリスクを広げるなど、影響は広範に及ぶ可能性がある。

パリ協定は採択以来、世界の気候行動を推進する中核的枠組みとして機能してきた。各国に対し、温室効果ガス排出の削減、再生可能エネルギーの拡大、適応策の強化、脆弱なコミュニティの保護を促してきたほか、排出削減目標の定期的な更新と、その実施計画の提出を義務づけている。こうした仕組みにより、国際的な取り組みの継続と透明性の確保、各国間の情報共有が支えられてきた。

アムネスティ・インターナショナルは、ドナルド・トランプ政権の一連の措置が、「主要な多国間・二国間の気候関連機関やプログラム」への資金を打ち切る方向に向かうおそれがあると警告した。その影響は米国にとどまらず、国際社会全体に及ぶ可能性があるという。さらに同団体は、米国による国際連合(UN)機関への資金拠出がまもなく停止する見通しで、気候の影響を受けやすいコミュニティへの生命に関わる支援が途絶えるほか、気候の監視・観測や、排出削減(緩和)に向けた重要な取り組みが中断しかねないと指摘している。

具体的には、米国の離脱により、気候変動に起因する避難・移住、災害復旧、インフラ再建への国際的な取り組みが弱体化する可能性がある。支援の縮小は、気候被害が拡大するなかで途上国のコミュニティの脆弱性を高め、気候による損失の負担がより重くのしかかると見込まれている。

離脱前から、国際連合は深刻な資金危機に直面していた。米国が通常予算の義務的分担金の未払いを続け、対外援助も大幅に削減してきたため、危機は一段と深まっている。さらに米国は、気候災害に直面する脆弱なコミュニティを支える重要な枠組みである国連の「損失・損害基金(FRLD)」の理事会からも離脱した。従来約束していた1750万ドルの拠出も不透明で、基金の運用に支障が出るとの懸念が強まっている。

Photo Credit: climate.nasa.gov
Photo Credit: climate.nasa.gov

今回の離脱により、米国はパリ協定の歴史上、唯一の離脱国となる。協定の締約国ではない国は、イラン、リビア、イエメンなど少数に限られる。気候交渉の主要アクターである米国が離脱したことで、他の富裕国に拠出拡大を促す外交的圧力が弱まる可能性もある。

アムネスティ・インターナショナルで気候正義と企業責任を担当するプログラム・ディレクターのマルタ・シャーフ氏は、「米国のパリ協定離脱は、いわゆる『底辺への競争(レース・トゥ・ザ・ボトム)』をあおりかねない不穏な前例だ。ほかの主要な国際気候枠組みからの離脱と相まって、気候行動をめぐる国際協力の仕組みを解体しようとする動きだ」と述べた。その上で同氏は、「米国は気候対策に後ろ向きな有力勢力の一つにすぎない。しかし影響力ある超大国として、化石燃料への回帰を促す圧力を各国や有力アクターにかけることは、とりわけ大きな害をもたらす。協定の下で10年以上積み上げてきた世界の気候対策の前進を後退させかねない」と付け加えた。

U.N. spokesperson Stephane Dujarric/ UN Photo
U.N. spokesperson Stephane Dujarric/ UN Photo

これに対し、国連事務総長報道官のステファン・デュジャリック氏は、「気候変動対策は続ける。公正な移行に向けた取り組みも継続する。とりわけ最も脆弱な国々に対し、排出削減(緩和)と適応のための資源を拡充する努力を続ける。この点で、私たちの取り組みが揺らぐことはない」と述べた。

1月22日には、国連環境計画(UNEP)が年次報告書「自然のための資金の現状(State of Finance for Nature)」を公表した。自然に基づく解決策(NBS)への世界の資金の流れを分析したもので、気候や自然を損なう活動への投資が、生態系の保全・再生への投資のおよそ30倍に上ると指摘した。

UNEPの推計によれば、環境を損なう資金の約7割は民間部門による一方、環境保護に向かう資金は1割程度にとどまる。2023年には、環境に有害な世界の活動に約7・3兆ドルが投じられ、そのうち約4・9兆ドルが民間、約2・4兆ドルが公的部門によるものだった。化石燃料利用の促進をはじめ、農業、水、輸送、建設分野への支援を最大化する性格を持つという。

これに、ドナルド・トランプ大統領が掲げる「掘れ、掘れ、掘れ(drill, baby, drill)」政策の復活が重なることで、世界の気候対策はさらに揺らぐ見通しだ。化石燃料依存を加速させ、排出削減目標の達成を損ない、緊急の適応と生態系回復に必要な資金ギャップを一段と拡大させる可能性がある。

ジェレミー・ウォレス氏(ジョンズ・ホプキンズ大学・中国研究)は、米国が化石燃料依存を深めることは国際社会に「気候目標の水準を引き下げてもよい」というシグナルを送ると記者団に語った。その結果、他の主要排出国が、より控えめなエネルギー転換や、より低い排出削減目標を選択することを後押ししかねないという。

たとえば中国は近年、今後10年で温室効果ガス排出を7~10%削減するにとどまる目標を掲げたが、気候専門家からは野心が不足し、世界の削減目標に照らして不十分だとして広く批判されている。

バサブ・セン氏(政策研究所(Institute for Policy Studies)・気候正義プロジェクト)は「米国内市場が(彼の言う)権威主義的な政府の命令によって化石燃料に支配され続けるなら、その影響は世界に及び続ける」と述べた。さらに、化石燃料の生産・輸出に依存する低所得国が移行を進めるのは、米国が資金拠出をしない姿勢を示すなかで、いっそう難しくなると指摘した。(原文へ

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

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