ネパールの電気・電子廃棄物管理には政府のリサイクル政策が不可欠
【カトマンズ NepaliTimes=ソニア・アワレ】
今週、The New York Times紙が報じたネパールの電気自動車(EV)ブームに関する記事が広く共有された。世界がようやく、ネパールのエネルギー転換に注目し始めている。
だが、この成功は新たな課題も生んでいる。バッテリー駆動の自動車、スクーター、三輪車の普及により、ネパールはまもなくリチウムイオン電池の廃棄物処理という危機に直面することになる。さらに、携帯電話用バッテリー、重金属、レアアースといった問題も控えている。
「以前はノートパソコンや携帯電話が中心だったため、それほど関心を持たれていませんでした。しかし、電気自動車1台で最大500キロの廃棄物が発生します。それが積み上がっていけば、私たちの手には負えなくなります」と、カトマンズの電子廃棄物管理会社「Doko Recyclers(ドコ・リサイクラーズ)」のパンカジ・パンジヤール氏は警鐘を鳴らす。
同氏によれば、「当初は2027年以降、年間3500トンのリチウムバッテリー廃棄が発生すると見込んでいましたが、EV市場の拡大により、実際の数値はそれを大きく上回る見込みです」。

EVだけでなく、携帯電話、玩具、太陽光パネル、全国9000基の通信塔から発生するリチウムイオンバッテリー廃棄物もすでに相当な割合を占めている。
リチウムに加え、コバルト、ニッケル、マンガンなどの重金属は、空気、土壌、水を汚染する可能性があり、レアアースも含まれる。ネパールは昨年、約190万台の携帯電話を輸入しており、これは前年度比で40%の増加である(これは公式統計上の数字に過ぎない)。
リチウムイオン電池のリサイクルは技術的に可能だが、コストが高い。一方、金を含む重金属の回収率は95%以上に達する。中国はこの分野で先行しており、世界全体の重金属リサイクル能力のうち半分以上、年間約50万トンを占めており、米国や欧州を大きく上回っている。
ネパールにはリチウムイオン電池のリサイクル施設が存在せず、鉛蓄電池用の施設すらない。鉛やその他の金属、プラスチックは非公式セクターによって回収されるか、インドへ輸送されている一方、硫酸はそのまま廃棄されている。
「バッテリーのリサイクルは教科書通りの工学技術で、難しいことではありません。しかし、市場が存在しない場合、政治経済の原則として国家がそれを創出する必要があります。米国、英国、中国はそうやってリサイクル産業を育てました」と、エネルギー経済学者のディパク・ギャワリ氏は最近の気候会合で語った。

Doko Recyclersはリチウムイオン電池のリサイクル施設設置に向けて取り組み、シンガポール拠点のTotal Environment Solutions(TES)から4000万ルピーの投資を受ける直前までこぎつけた。しかし、ネパールには電子廃棄物(e-waste)政策や投資ガイドラインが整備されておらず、TESは投資回収の見通しが立たないとして撤退した。
ネパールには、製品の廃棄責任をメーカーや流通業者に課す「拡大生産者責任(EPR)」制度も存在しない。
「リチウムイオン電池のリサイクルには、技術移転さえあれば対応可能です。ただ、それには政府のEPR政策に基づいた投資が必要です。また、抽出されたリチウムのような原材料の扱いに関する規定も必要です。ネパールにはバッテリー製造の仕組みがないため、回収した原材料は輸出するしかありません。しかし、その輸送費は誰が負担するのでしょうか」と、パンジヤール氏は問いかける。
リチウムや重金属、レアアースの採掘は、その倫理性や環境負荷の高さが世界的に問題視されている。リチウム1トンの採掘で約15トンのCO2が排出され、塩水や鉱石からの抽出には水源の汚染や枯渇のリスクがある。ニッケルやコバルトの採掘も、生態系の破壊や労働搾取と密接に関係している。

より安全で安価、持続可能なナトリウムイオン電池の開発も進んでおり、EVは将来的にグリーン水素燃料への橋渡し的な技術となる可能性がある。
「これらの金属を使用するのであれば、少なくとも公共の利益のために活用すべきです。例えば電動バスの導入などです。最終的には、私たちの消費パターンが問われます。そもそも不要な携帯電話や車を買わないことの方が、リサイクルよりはるかに容易です」と、プラスチックなどの廃棄物リサイクルを手がけるAvni Center for Sustainabilityのシルシラ・アチャリャ氏は指摘する。
使い終わったあなたのスマートフォンはどこへ行くのか
Global E-waste Monitorの世界調査によると、ネパールが2024年に排出した電子廃棄物は4万2千トンに達し、10年前の1万3千トンから大幅に増加した。2026年には6万9千トンに達すると予測されている。
この数字は他国と比較すれば控えめだが、増加傾向とリサイクル施設の欠如は深刻な懸念材料である。
家庭用電化製品(洗濯機、冷蔵庫、ガスレンジ、オーブンなど)は、ネパールの電子・電気廃棄物の約半分を占めている。次いで携帯電話、ノートパソコン、タブレット、ハードディスク、ルーター、モデムが9%、コンシューマーエレクトロニクスが17%、照明機器が14%、スクリーン・モニターが8%、おもちゃが9%を占めている。

「過去10年ほどでe-wasteの性質も変化しました。以前はCRTモニターやCFL電球が中心でしたが、今では多くの電子機器、太陽光パネル、光ファイバーなど、リサイクル価値がマイナスのものも増え、さらに今後はEVバッテリーが中心になります」と、Doko Recyclersのパンジヤール氏は述べる。
e-wasteの構成は、人々の消費パターンの変化によっても変わっている。現在では、製品が寿命を迎える前に買い替える傾向が強まっている。
ネパールにおける携帯電話の平均使用期間はわずか2年、ノートパソコンは4年、テレビやパソコンは8年、冷蔵庫と洗濯機は10年である。直近の会計年度だけでも、ネパールは1千9百万台近いスマートフォンを輸入しており、その総額は240億ルピーにのぼる。
「最近では、電子機器メーカーが“交換キャンペーン”を展開しており、問題なく使える製品でも新機種に交換させる仕組みができています。製品を寿命まで使い切らないことで、存在しなかったはずの問題を自ら作り出しているのです」と、Avni Center for Sustainabilityのシルシラ・アチャリャ氏は述べる。「電子機器の使用量は飛躍的に増えていますが、それに見合う廃棄物管理能力は整っていません」
生ごみすら管理できていない自治体にとって、電子廃棄物は想定の範囲外だ。したがって、電子・電気廃棄物の大部分は非公式セクターに依存している。
カトマンズには約1200のスクラップ業者が存在し、電子廃棄物のうち約20%が正式な流通経路を経ずにリサイクルされていると推定されている。そしてその大部分はインドへ流れていく。
この非公式なリサイクルでは、プラスチックやアルミニウム、銅などの素材は一部回収されるが、貴金属や重金属の回収は行われていない。鉛バッテリーからの液体廃棄物(硫酸など)は埋立地に投棄され、地下水や河川を汚染している。

一方で、使用済み電子機器の再生市場も小規模ながら拡大しつつある。たとえば、Sabko Phoneのような企業は、中古スマートフォンを買い取り、ほぼ新品同様に再整備して、安価な端末として再販売している。
「当初はこの活動に賛同を得るのが非常に難しかったですが、ここ数年で意識が変わりつつあります。人々が再生スマホを買うようになれば、将来的には再生洗濯機なども選択肢になるかもしれません」と、Sabkoのウッタム・カフレ氏は語る。
2023年に販売された携帯電話12億2千万台のうち、14%が再生品であり、これにより1億9千万台分の新機種が不要になったという。
カフレ氏は次のように述べる。「再生や“アップサイクル”(使い終わったものをより価値ある形に作り替えること)が環境保護につながるという意識を社会全体に広げることができれば、大きな前進になります」

そのうえで、修理、再利用、アップサイクルと段階を踏み、最後の手段としてリサイクルに頼るべきだと指摘している。なぜなら、ネパールにはまだ、十分なリサイクル施設も法的枠組みも整っていないからだ。
ネパールの「廃棄物管理法(2011年)」には、e-wasteに関する記述がない。法改正案はすでに準備され、複数の省庁を回っているが、まだ確定していない。しかも、改正案にも電子・電気廃棄物の具体的な管理ガイドラインはなく、定義づけの域を出ていない。
一方、インドでは「拡大生産者責任(EPR)」と「バッテリー廃棄物管理規則2022」が整備されており、製造業者、リサイクラー(廃棄物の再資源化を担う業者)、再生業者の責任が明確に規定されている。
「ネパールでも、全国レベルのe-waste法制化とEPR導入が不可欠です。地方自治体単位でも、回収ルートの構築とリサイクルインフラへの支援が必要です。そして、こうした施策は同時並行的に実施されるべきであり、一般市民への意識啓発も重要な鍵となります」と、パンジヤール氏は語る。
EPR制度の導入は、信頼できない事業者を市場から排除し、不良品の流通を抑制する効果も期待できる。また、それは無制限で無秩序な消費の抑制、そして倫理的で持続可能な開発を優先する社会への転換にもつながる。
これは、現在ネパールで進むEVブームにも深く関係している。2024年度、ネパールは2万2907台の四輪車(総額508億8千万ルピー)を輸入し、そのうち1万6701台(412億3千万ルピー相当)が電気自動車だった。輸入された電動車の中で、公共バスの割合は非常に低く、同サイズのディーゼル車より高額であることが理由だ。
本来であれば、トロリーバスや路面電車のような「送電網直結型モビリティ」が導入されるべきだが、それが難しい現状では、政府が電動バスへの補助を拡充する必要がある。これにより、水力発電による余剰電力を活用し、大気汚染を抑え、石油輸入コストの削減にもつながる。

「ネパールのEV普及は、一面では成功物語ですが、同時にバッテリー廃棄問題という“次の災害”の引き金にもなっています。問題を一つ解決したと思ったら、別の問題を作り出していたということです」と、アチャリャ氏は警告する。
Sabko Phoneのカフレ氏は、再利用・修理・再生・リサイクルを軸とする「循環型経済」こそが、今後の進むべき道であると語る。
「電子機器は、人々の生活をより良くするために最大限活用されるべきです。まだ多くの地域や人々がそれらにアクセスできていない現状があります。しかし、使用後の管理や廃棄を含めた倫理的な使用こそが、将来の深刻な問題を防ぐ鍵となるのです」(原文へ)
This article is brought to you by Nepali Times, in collaboration with INPS Japan and Soka Gakkai International, in consultative status with UN ECOSOC.

INPS Japan
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