地域アジア・太平洋ビルマで少数派ムスリムの民族浄化か?

ビルマで少数派ムスリムの民族浄化か?

【バンコクIPS=マルワーン・マカン-マルカール】

ミャンマー(ビルマ)西部で進行している宗派闘争を伝える様々な報道から、同国で従来から迫害を受けてきたイスラム教徒で少数民族のロヒンギャ族が直面している苦境が明らかになってきている。地域のある人権保護団体は、2006年当時、ミャンマーにおけるロヒンギャ族への迫害の様子を「じりじりと焼き殺すように進行している大量虐殺(slow-burning genocide)」と例えている。

当局の発表によると、6月14日までに、ビルマで近年最悪といわれる仏教徒のラカイン族とロヒンギャ族との間の衝突で、29人が死亡し(うち、16人がロヒンギャ族で13人がラカイン族)、3万人が家を追われている。また、2500軒以上の家屋に火が放たれ、9つの仏教寺院と7つのモスクが破壊された。

 6月3日、仏教徒の暴徒300人がイスラム教徒の巡礼者が乗ったバスを停車させ、10人を殴り殺した。人権擁護団体は、この事件を、何十年にもわたって民族対立が燻ってきたラカイン州で渦巻いているロヒンギャ族に対する敵意を象徴するものと指摘している。

このロヒンギャ族に対する最新の襲撃事件の背景には、ラカイン州ランブリー居住区で27歳の仏教徒の女性(ラカイン族)が、3人のイスラム教徒の男性の暴行を受け殺害されたという話が州全域に広がり、人口の大半を占める仏教徒の間で、イスラム教徒に対する敵愾心が高まっていたという事情がある。

警察当局は、3名の容疑者(ロヒンギャ族)を逮捕・収監したと発表したが、ラカイン族の怒りは収まるどころか、「カラール(南アジア系のより肌の色が濃い人々に対する蔑称)に対する復讐」を呼びかけるチラシに焚き付けられて、ロヒンギャ族に対する住民感情は益々険悪なものとなった。ロンドンで亡命生活を送るロヒンギャ族のナルル・イスラム氏は、「次に何が起こるかわからない事態に恐れおののいているロヒンギャ族の住民から、毎日のように電話がかかってきます。現地では、ロヒンギャ族の家々で死体が折り重なっているのが目撃されていますし、ロヒンギャ族の住民が次々と行方不明になっているのです。」と語った。
 
テイン・セイン政権は、夜間外出禁止令を出して事態の収拾を試みたが、暴徒を抑え込むことはできなかった。この点について、バンコクから故郷の情勢をモニタリングしているイスラム教徒の匿名ヒティケさん(29歳)は、「イスラム教徒だけが一方的に外出禁止の対象になり、(主に仏教徒からなる)ラカイン族の暴徒は、夜間もロヒンギャの家々に火を点けて回っているのです。」と語った。

しかし、ロヒンギャ族は街頭でだけ恐怖を味わっているのではない。ビルマの内外を拠点とする様々なウェブサイトやブログ、フェイスブックには、ロヒンギャ族の民族浄化を呼びかける差別的な言葉であふれかえっているのである。

あるポスターには、「いつか我々の政治課題を解消した暁には、やつら(=ロヒンギャ族)を(ビルマから)追い出し、二度と我々の祖国に足を踏み入らせない。」と書かれていた。

こうした内外のビルマ人仏教徒が、オンラインを通じて「(ロヒンギャ族に対しては)大量虐殺に等しい行為さえも許される」とする主張を公然と展開している状況には、長年ビルマで活動してきた人権擁護活動家さえ驚きを隠せないでいる。

ビルマ・ルタナティブ・アセアンネットワーク (ALTSEAN)代表のデビー・ストッハード氏は、「ロヒンギャ族に対する中傷・攻撃がオンライン上でここまで悪化したのは初めてだと思います。中にはロヒンギャ族の女性活動家への性的暴行を公然と呼びかける内容すらあるのです。」と指摘した上で、「ロヒンギャ族は、世界で最も迫害を受けているコミュニティーの一つです。数十年に亘って彼らに加えられてきた抑圧は、ジェノサイド条約(集団殺害罪の防止および処罰に関する条約)が国際法上の犯罪と規定している条件に該当します。」と語った。ALTSEANは6年前、ロヒンギャ族に対して「大量虐殺に準じると思われる行為が進行している」と警鐘を鳴らした権利擁護団体である。

ビルマの政治状況に関する報告書を多数執筆している独立政治アナリアストのリチャード・ホーシー氏は、「反ロヒンギャ族感情の高まりはビルマ政府の少数民族政策の厄介な側面を浮き彫りにするものであり、今後状況はさらに悪化する可能性がある」と指摘したうえで、「異民族間の緊張関係はビルマ各地でみられるが、ラカイン州における状況は最も深刻です。しかも、状況はこれからさらに悪化し、ラカイン州の境を越えて広がっていくリスクが高いと言わざるを得ない。」と語った。

政府公認の差別

政府はビルマ社会に平静を取り戻す努力を傾注し、3月に開始した改革課題に引き続き取り組んでいると主張しているが、次々に明らかになってきたロヒンギャ族に対する人権侵害の証拠の数々は、こうした主張と矛盾するものである。

「現ビルマ政府も、歴代軍事政権がロヒンギャ族に対して行ってきた差別政策が現在も継続されている事実を認めています。」と、世界各国でロヒンギャ族の人権擁護を訴えているNGO「アラカンプロジェクト」のクリス・レワ代表はIPSの取材に対して語った。

またレワ代表は、「こうしたロヒンギャ族に対する国家的な差別は、今年3月の議会でも明らかになりました。ロヒンギャ族出身の国会議員達がこの点について政府に糾したところ、政府は依然としてロヒンギャ族に対する諸制限を解除するつもりはないと回答したのです。」と語った。

政府は長らく、ロヒンギャ族をビルマを構成する135の民族集団のひとつとみなしてこなかった。1962年の軍事クーデター以来、軍当局は組織的に且つ広範囲にわたって、ロヒンギャ族を標的とした迫害(民間人の殺害、女性に対する性的暴行、拷問)を繰り返してきた。

さらに1980年代になると、政府はロヒンギャ族から身分証を取り上げ、市民権を剥奪。事実上祖国を持たないコミュニティーを創りだしたのである。

今年1月、レワ代表は、国連子どもの権利委員会に対して、「ビルマ政府は、ロヒンギャ族を引き続き無国籍の少数民族として抑圧する方針から、ロヒンギャ族の幼児を新たにブラックリストに登録した。」と報告した。

レワ代表は、推定4万人のロヒンギャ族の子どもたちが、大人たちと同様に強制労働に従事させられているほか、医療や正規雇用へのアクセスを拒まれ、当局の許可なく居住する村からの外出することを禁じられている事実を明らかにした。

1978年、政府は「キング・ドラゴン作戦」を敢行し、ロヒンギャ族20万人をラカイン州から隣国のバングラデシュに追い出した。その結果、ロヒンギャ難民はその後数十年に亘ってバングラデシュの難民キャンプで悲惨な生活を強いられた。

1991~92年にも同様の国家的迫害があり25万人のロヒンギャ族が難民化した。現在、サウジアラビア、パキスタン、インド、マレーシア、バングラデシュで150万人のロヒンギャ族が難民になっている。

ロヒンギャ族が前回国際的な見出しに登場したのは2009年で、タイ当局が同国の南西海岸付近の沖合で、船いっぱいの疲労困憊したロヒンギャ難民を拿捕したと報じられた際である。当時、人権擁護団体は、タイ軍当局により再び沖合に引き戻された1000人以上のロヒンギャ族難民の身に何が起こったかについては、不明のままだと主張した。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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