【ブラティスラバIPS=パボル・ストラカンスキー】
スロバキア共和国の裁判所は、ロマの子どもたちを他の子どもから隔離して教育することは違法であるとの判決を下したが、隔離政策を採用している学校は、なおも自らの判断の擁護に躍起となっている。
サリスケ・ミカラニ(Sarisske Michalany)小学校のマリア・クヴァンチゲロヴァ校長は、「ロマの子供達は独自の教室を編成することで教師の目が行き届どいているのであり、彼らは隔離政策から恩恵を受けているのです。」と語った。
しかし隔離政策を批判する人々は、「ロマの子供達を含む様々な背景を持った子供達を同じ教室で教えている学校では成果がでており、隔離政策がロマの教育や社会包括の問題解決には全く役に立っていない。」と主張している。
サリスケ・ミカラニ小学校に対して訴訟を提起した「市民・人権NGO助言グループ」のステファン・イワンコ氏は、「学校における隔離教育という、広範に見られる違法行為を止めるという意味で、今回の判決は重要な先例になるでしょう。包括的な教育こそ各学校が採用すべき唯一のアプローチです。混成学級において、様々な背景を持つ子供達が、知識の習得にとどまらず、多様性に富んだ社会の中で生きていく上で重要な素養である他者との付き合い方、寛容の精神、責任感などを学んでいけるのです。」と語った。
この学校に通っている児童430人のうち、半分以上がロマであり、22クラスのうち12クラスがロマ専用となっている。
しかし、学校側は、隔離教育は効果を挙げていると反論している。教員の一人で20年間ロマの子供達を教えてきたマルギータ・ドルコワ氏は、「(隔離教育で)ひとりひとりの子どもに注意を払うことができるし、彼らの能力に応じて授業のスピードを調節することもできます。結果的に出席率は上がり、学校からいなくなる子も少なくなりました。ロマの子供達は隔離教育のもとでより多く学べているのです。」「ロマの子どもたちの多くはスロバキア語が話せませんし、基本的な衛生観念もありません。また親たちもほとんど子どもに注意を払わないのです。混成学級にすると、ロマの子どもたちは失敗を怒られてばかりになってしまいます。」と地元メディアに語っている。
ロマの子供の大半は、教育レベルが低く、貧困と失業が蔓延する社会的に阻害されたコミュニティー出身である。スロバキア共和国では、多数のロマが、犯罪率が高い貧民街やスラム同然の居住地で生活している。
クヴァンチゲロヴァ校長は、「ロマとロマ以外の両親の双方が混合学級に反対しており、むりやり一緒にすれば、ロマ以外の子供達への教育に悪影響が及ぶ恐れがあります。」と語った。
また同学校の職員たちも一部のロマの子供達の学校での素行問題を挙げ、「(混成学級になった場合)彼らに対処するには、教師たちは子供たちに教えるというよりも、その他の子供達を守る『ボディガード』のような存在になってしまいかねない。」と主張した。
サリスケ・ミカラニ小学校は、今回の判決を不服として、控訴する予定である。
しかし、他の学校では、こうした考え方には否定的である。むしろ、ロマの子供達を包摂した教育の方が、彼らの可能性を引き出し社会への統合を促進する上で成果があがっていると主張している。
スロオバキア東部のメジェフで混成学級を運営している小学校のヘルトルーダ・シュルゲノヴァ副校長は、ロマの子供達の中にも学校でトップクラスに入っているものがおり、彼らの優秀さは証明されていると語る。
「貧困と不衛生、空腹しか知らない子ども達がシラミが巣食う頭に汚い身なりで学校に来たときは当初少しショックを受けるようですが、まもなく学校の環境に適応し喜んで通学してくるようになります。彼らも人生には違った生き方があるのだということを理解するのです。」とシュルゲノヴァ副校長は付加えた。
スロバキア政府も野党政治家も、サリスケ・ミカラニ小学校の隔離教育方針を批判しているが、同時に、迫害されてきた背景をもつロマの子供達の教育問題に関して、解決策は容易には見つからないという点は認めている。
ある政治家グループは、「各学校は非ロマの子供達の教育を犠牲にしない範囲で、混成学級の規模を縮小することで、教師がロマの子供達に十分な注意を払えるよう」提案している。
またあるグループは、「各学校に隔離教育をやめさせ包括的な教育を実施させていくために必要な支援を国が積極的に行うべきだ。」と述べている。
また今回の判決は、国際人権団体が中欧全域において、ロマの子供達に対する差別に反対するキャンペーンを何年も実施した後に下されたものである。
「アムネスティ・インターナショナル」をはじめとする人権団体がスロバキア共和国とチェコ共和国で調べたところによると、両国では、ロマの隔離教育がかなり広範にわたって行われているという。
また、彼らがあやまって精神障害・身体障害学級に割り当てられるケースも多発しているという。「開放社会財団」の調査では、ロマの子どもが特別学校に送られる確率は非ロマの子どもよりも27~28倍も高いという。
2007年、欧州人権裁判所が、ロマの子どもを特別学校に送るチェコ共和国政府の行為は人種差別にあたるという判決を下し、事態改善が期待された。しかし、英国の慈善団体「イクォリティ(平等)」の調査によると、その後もあまり状況に変化はないという。
「イクォリティ」は、2011年3月から9月の間、チェコ共和国やスロバキア共和国から家族とともに英国に移住してきたロマに対する調査を行った。それによると、インタビューに応じたロマの子供の85%が、本国では隔離教育を採用する学校や特殊学校、或いは大半がロマの子供達が占める幼稚園に通っていた。
そして彼らの大半が、教師たちによる差別的な扱いをうけていたのをはじめ、非ロマの子供達による人種差別に基づく虐めや暴言を経験していた。
一方、インタビューに応じたロマの両親たち全員が、英国式の学校制度に差別や人種偏見がない点を高く評価しており、子ども達もこうした一般の学校で学ばせた方が、将来成功するチャンスがより開けてくると回答している。
また同調査によると、ロマの子どもの学校での成績は、算数、国語が平均、科学が平均或いは平均を多少下回る程度であり、むしろ彼らを包摂する教育を進めた方が、学校内外での衝突が少なくなるという。
「イクォリティ」のアラン・アンステッド代表は、「隔離教育は正当化できるものでは決してなく、ロマの生徒たちのためだとする主張にはなんら根拠がありません。(隔離教育は)社会的排除を進めるだけです。」と批判している。
「この(サリスケ・ミカラニ小)学校は、混成学級を設けるべきです。もし混成学級におけるロマの子供達への教育に懸念があるのならば、教師たちは両親と協力して問題解決を模索すべきです。国、両親、地域コミュニティーが知恵を出し合い、経験を共有し、この問題に協力して取り組むことができるはずです。」とアンスデット代表は語った。(原文へ)
翻訳=IPS Japan浅霧勝浩
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