【ルンドIDN=マイケル・マクイクラン】
数世紀にわたったヨーロッパ諸国による植民地主義政策は、各国内および各国間の不平等の形成に多大な影響を及ぼしたが、その多くは未だに十分に対処されていない。これは平凡な発言に思われるかもしれないが、このことが欧州連合(EU)加盟国の間で認識されるようになったのは、ごく最近になってからである。
2019年、欧州議会はアフリカ系の人々の基本的権利に関する決議を可決した。この決議は、植民地主義政策と奴隷制の歴史を総合的に捉えるよう呼びかけるとともに、これらの歴史が今でもアフリカ系の人々に悪影響を及ぼしている点を認めている。
同じく、欧州委員会が昨年発表した人種差別反対行動計画(2020年~2025年)は、植民地主義は欧州の歴史の一部であり今日の社会に大きな影響を及ぼしている、と宣言している。
にもかかわらずEUが、植民地主義政策に由来する構造的な遺産を十分に認識し、ましてや問題に取組むところまでたどり着くには、まだしばらく時間がかかるようだ。そうした構造的遺産の中に、EU域内で白人と有色人種の間に引かれている人種の分断線の問題がある。EU諸国の社会の全主要分野において、有色人種の人々が最も差別される傾向にある。しかし一方で、人種についてや、白人と有色人種の違いについて話すことは、EUにおける政治や法律分野における議論の一部にはなっていない。
スウェーデンの事例
ヨーロッパで植民地主義政策の歴史についてやっと認識しようとする動きがでている点を観察するには、スウェーデンが一つの好例になるだろう。スウェーデンは、第二次世界大戦後、自国に植民地主義や人種主義の問題がない「倫理的な超大国」として振る舞ってきた歴史がある。スウェーデンは、男女平等、グローバル正義と団結の擁護者であった。
スウェーデンは、1960年代初頭から国連において植民地主義に異を唱え、反植民地主義闘争を積極的に支援した。南アフリカ共和国のアパルトヘイト政府から非合法とされ、米国がテロ組織とみなしていたアフリカ民族会議(ANC)に対しても積極的に資金援助を行っている。
今日、スウェーデンは比較的小国にもかかわらず、(対GNI比で)世界最大級の開発援助国である。また、つい最近まで、スウェーデンは欧州で人口当たりで最も移民の受入れに寛容な国だった。もし、『良い国指数(Good Country Index)』のランキングを信じるとすれば、スウェーデンは、世界で最も人類の公益のために貢献している国ということになる。
しかしスウェーデンは、世界の人種を分断してきた植民地政策に参加し、そこから利益を得たのみならず、貢献さえしてきた歴史を持つ国である。第一次世界大戦と第二次大戦の戦間期、スウェーデン議会は国立の人種生物学研究所の設立を決議した。当時の一般観念は、スウェーデン人の民族的な分類は、人種的に優れたノルディックタイプのヨーロッパ白人種に属するというものだった。
またスウェーデンは、15世紀末以来欧州諸国が植民地を拡大していくなかで行った人種に基づく国際秩序の再編成を、ただ傍観しているだけではなかった。それどころか、海外植民地獲得競争に参画し、カリブ海のサン・バルテルミー島を100年近く支配している。当時スウェーデン支配下のこの島は自由港として重要な位置を占め、ここに連れてこられたアフリカ人奴隷の扱いは、近隣の(他の欧州植民地である)島々となんら変わるものではなかった。
現在、スウェーデンの全人口に占める非ヨーロッパ系の子孫の割合は15%~20%となるが、彼らの失業率は白人と比較して突出している。スウェーデン生まれの白人市民の就労率はほぼ100%だが、アジアやアフリカ出身の市民の就業率は55%~60%にとどまっている。
アフリカ系スウェーデン人が高等教育を得れば得るほど、同程度の教育を受けた白人のスウェーデン人との所得格差が大きくなり、また、教養レベルに見合った就労機会を得るのが難しくなる傾向にある。例えば、大学を卒業したスウェーデン生まれのアフリカ系市民の就労率は、大学卒の他のスウェーデン国民の就労率より約49%低いものである。
こうしたスウェーデン社会における階層は、歴史的に植民地主義政策に関わった世界各地の国々に共通してみられるパターンの一つである。
植民地主義の遺産に取組む
スウェーデンと他の欧州諸国は、いくつかの点で努力が認められるものの、世界各地で今も見られる多くの不平等が植民地主義政策の遺産である事実を認めていない。アントニオ・グテーレス国連事務総長が述べているように、植民地主義は社会的不正、グローバル経済、さらには国際的な力関係の中に依然として影響している。
かつて植民地を支配した国々は、例えば国連や世界銀行、国際通貨基金といった組織における自国の優位を放棄することを拒み続けている。多くの欧州諸国が、国連総会や人権理事会で圧倒的多数の国々が賛成して採択した、民主的で公正な国際秩序の構築を呼びかける国連決議に、一貫して反対し無視してきた。
今年は、2001年に南アフリカ共和国で反人種主義・差別撤廃世界会議が開催され、人種差別に反対した世界で最も包括的な文書が採択されてから20周年にあたる。とりわけ、ダーバン宣言及び行動計画は、植民地主義政策により作られた人種構造に終止符を打ち、関連諸国に対して大西洋奴隷貿易の結果として今日まで根強く残る悪影響を食い止め、反転させるよう訴えている。
英国、フランスとその他の欧州諸国は、ダーバン宣言を履行することに反対してきており、スウェーデンも欧州諸国の立場を支持してきた。例えば、2020年末に国連総会が同宣言の包括的履行を求める決議を採択し、アフリカ系の人々に関する恒常的な協議機関を国連に設立する決定を支持したが、採決にかけられた際、106カ国が決議を支持したのに対して、英国、フランス、オランダを含む14カ国のみが反対票を投じた。この際、棄権票を投じた44カ国の中にスウェーデンが含まれている。
それでも欧州連合諸国は、ゆっくりではあるが植民地主義政策が世界にもたらした影響について認める方向に変化しつつあるようだ。2020年の12月、欧州議会は初の奴隷貿易とその廃止を記念する欧州デーを開催した。またスウェーデンでは、政府機関が、欧州による植民地主義政策が構築した人種秩序にスウェーデンがいかに参画したかについて、一般国民の理解を高める取組みを行っている。こうした取組みには、欧州で唯一先住民と認定されているサーミ人を植民地支配してきたスウェーデンの歴史も含まれている。
これまでのところ、過去の清算に向けた具体的な手続きがとられているわけではない。しかし、植民地時代の過去と現在への影響について誠実に向き合おうとする動きが始まっているのを目の当たりにしているのかもしれない。(原文へ)
INPS Japan
関連記事: