【国連IPS=サミュエル・オークフォード】
人権擁護団体「アムネスティ・インターナショナル」が3月27日に発表した報告書によると、2013年の世界における(公式に記録された)死刑執行件数は、前年より14%増加し、その内、厳格な反テロ法を施行しているイラクと、厳しい麻薬取締を実施しているイランが全体の半数以上を占めていることが判明した。
アムネスティによると、2013年に22か国で少なくとも778人に対する死刑が執行されたという。しかしこの報告書には、死刑に関する公式発表を行っていない中国は含まれていない。中国は、死刑執行数では他国を圧倒する数千人規模を毎年銃殺で処刑しているとみられているが、依然として死刑についての情報は国家機密とされている。
「中国は独自のケースと考えるべきです。実際の死刑執行数ではこの国に匹敵する国はありません。しかし中国に関して一縷の望みがないわけではありません。近年、中国共産党エリートの間で死刑に関する疑念の声が上がっており、私たちはこうした内部議論の行方を見守りたいと考えています。」と、アムネスティ・インターナショナルの死刑問題アドバイザーであるヤン・ヴェッツェル氏は語った。
中国を除けば、世界の死刑執行数全体の8割が、中東の3カ国、つまり、イラン、イラク、サウジアラビアに集中している。
宗派間闘争が激化し、政府による取締も強化されたイラクでは死刑執行数が前年比で30%増加した。昨年少なくとも169人が処刑され、その大部分が米軍によるイラク侵攻後の2005年に制定された厳格な「反テロ法」によるものである。アムネスティは今回の報告書の中で、この法律全体を覆っている曖昧な法律表現(例:テロ行為を挑発、計画、資金支援、実施する行為、或いは他者がテロ行為を行うのを支援する行為を処罰対象とする)について懸念を表明している。
ヴェッツェル氏は、「イラクにおける死刑執行数が急増している背景には、イラクの治安状況が急速に悪化している現実を理解する必要があります。つまり(スンニ派)反政府勢力による武装蜂起が頻発する中、(シーア派主導の)イラク政府は手っ取り早い対抗手段として『反テロ法』による死刑を適用することで、テロと戦う強い政府を演出しているのです。しかし、死刑執行数が増えても宗派闘争の勢いが収まらないことから、死刑の効果そのものを疑問視せざるを得ない状況にあります。」と指摘したうえで、「私たちは、死刑は長期禁固刑ほど犯罪抑止効果がないことを知っています。」と語った。
またアムネスティは、エジプトとシリアに関しては司法の判断に基づく死刑が執行されたか否かについて特定できなかったとしている。悲惨な内戦が繰り広げられているシリアの場合、仮に処刑執行数が明らかにされたとしても、その法的根拠に対する疑問が生じる。一方エジプトでは、3月24日、昨年失脚したムハンマド・モルシ大統領(当時)の支持者528人に対して、警官殺害等に関する容疑で死刑判決が下されている。
イランでは2013年に少なくとも369人が処刑された。しかし、アムネスティによると、公式には発表されていない処刑が他に数百件あるという。
イランは、北朝鮮、サウジアラビア、ソマリアと並んで、公開で処刑を行う数少ない国のひとつである。権利擁護団体「イランの人権」の共同創設者であるマフムード・アミリー=モガダム氏は、「イラン当局は恐怖を市民の頭の中に植え付ける政治的手段として公開処刑を用いています。過去10年における公開処刑のタイミングをみると、政府当局が民主化要求のデモが発生することを恐れている時期か、デモが行われた直後に死刑執行数が増加するなど、慎重に時期を見計らっているのが分かります。一方、イランの人権問題に対する国際社会の厳しい目が向けられた時期には、死刑執行数も低く抑えられています。」とIPSの取材に対して語った。
イランで処刑された死刑囚の大半は麻薬関係事犯として収監されていた人々で、大麻やヘロインの密輸に関与しているとして警察当局の標的になることが少なくないアフガン難民出身者などイラン社会の底辺に生きる人々が占めている。アミリー=モガダム氏によると、昨年59件が執行された公開の絞首刑は「死刑の執行であると同時にある種の拷問でもある」という。
「死刑囚は、クレーンで吊し上げられますが、死に至るまでに10分以上かかることも少なくないことから、ある種の拷問でもあるのです。」とアミリー=モガダム氏は語った。
今年になって、そのような事例を示す凄惨な公開絞首刑の様子を写した映像が流出した。その映像には、「おかあさん」を叫びながらクレーンに吊るされ、中刷りになった足をバタバタとさせている死刑囚に、「私の子ども、私の子ども」と悲痛な声を上げている母親の姿が映っていた。
3月初め、国連薬物犯罪事務所(UNODC)のユーリ・フェドートフ事務局長がイラン政府による国境地帯における麻薬取締を賞賛する発言をしたが、死刑に批判的な欧州諸国からの反発を招き、イランにおける国連麻薬対策プログラムへの拠出金を一部欧州諸国が拒否する事態に発展した。
「イランは違法薬物の取締に活発に取組んでおり、素晴らしい業績をあげている。」とフェドートフ事務局長は語っていた。
国際法では、死刑そのものは禁じられていないが、拷問は禁止している。この問題が改めて浮き彫りになった事例が最近米国で相次いで起こった。
今年1月、オハイオ州において試験的に開発された新型混合薬物(毒薬に鎮静剤と鎮痛剤を混入したもの)の投与による死刑が執行されたが、囚人が息絶えるまでに15分以上を要する異常事態が発生した。これらの新型薬物は、殺人への使用に反対する立場を打ち出した欧州の製薬会社が提供を拒否した従来の薬物の代わりとして使用されたものだった。また、オクラホマ州で執行された死刑の現場では、死刑囚が別種の混合薬物を注入された際、「身体中が焼けるようだ」と叫んだとされ、人道的観点から物議を醸しだした。
南北アメリカでは、アメリカ合衆国が唯一の死刑執行国である。2013年の米国全体における死刑執行数(43件)は、前年より10%減少したが、その内、南部9州で39件を占めた。また、テキサス州では、前年比3割増の16人の処刑が執行されている。
他方で、世界全体を見れば5大陸の全ての地域において、死刑廃止への流れができつつあり、アムネスティによると、この20年で死刑執行国の数は半分になったという。
2013年には、インドネシア、クウェート、ナイジェリア、ヴェトナムが死刑を再開したが、過去5年間で死刑を執行した国は、バングラデシュ、中国、イラン、イラク、北朝鮮、サウジアラビア、スーダン、米国、イエメンにとどまっている。また、欧州と中央アジアでは死刑が執行されていない。
しかしサウジアラビアでは、犯行がなされたとされた時点で18歳未満だった少なくとも3人の囚人が、国際法の規定に反して、死刑に処せられている。(原文へ)
翻訳=IPS Japan
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