【国連IPS=タリフ・ディーン】
マーシャル諸島のトニー・デブルム外相が、先月国連で開催された核不拡散条約(NPT)運用検討会議第3回準備委員会での演説で、「この会場におられる方々の中で、直接核爆発を見たことがある方はどれほどおられますか?」と問いかけた。
はたして、会場は水を打ったように静かになった。
60年前にビキニ環礁で「ブラボー」核実験が行われた当時まだ9才の少年だったデブルム外相は、核爆発の瞬間に生じた白い閃光を鮮明に覚えている。デブルム外相は、核軍縮を支持する国が大半を占める準備委員会の代表団を前に、「(その際の)核爆弾は、広島を壊滅させた原爆の1000倍の破壊力を持っていました。」と語った。
2015年NPT運用検討会議に向けて2週間に亘って開催された準備委員会は、予想どおり、残念な結果に終わった。
「核政策法律家委員会」の事務局長で「国際反核法律家協会」(IALANA)国連事務所の代表であるジョン・バローズ氏は、IPSの取材に対して、「準備委員会は2015年会議に向けた議題の採択に成功した。」と指摘したうえで、「しかし、驚くことではないが、その他には何の成果もなかった。」と語った。
マーシャル諸島政府を支援する国際法律顧問団の一員であるバローズ氏は、準備委員会での最も劇的な出来事は、マーシャル諸島が4月24日に9つの核保有国を訴えたと発表したことです、と語った。9か国とは、国連安保理の常任理事国である米国、英国、フランス、中国、ロシアに加え、イスラエル、インド、パキスタン、北朝鮮である。
ハーグの国際司法裁判所(ICJ)に提起された訴えでは、これらの国々が、NPTおよび一般国際法の下における核軍縮および核軍拡競争停止の義務に違反している、と主張している。
1946年から58年にかけて米国は67回の核実験を行い、人口わずか6万8000人超のマーシャル諸島の人々に対して今日に続く健康・環境被害を引き起こしている。
1970年に発効したNPTは5年ごとに運用検討会議を開催するよう定めている。前回の会議は2010年に開催された。
現在核保有国でNPTへの参加を拒否しているは、インド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮(いったん加盟したが後に脱退)のみである。
大量破壊兵器(WMD)に関する国連安保理会合の議長を務めた韓国の尹炳世(ユン・ビョンセ)外交部長官は5月7日、「北朝鮮は21世紀に入ってから核実験を行った世界で唯一の国です。国際社会の努力にも関わらず、北朝鮮は20年にわたって核兵器開発を続け、いまや4回目の核実験を強行しようとしている。」と指摘したうえで、「もし北朝鮮が核兵器取得に成功すれば、NPT体制にとっては深厚な打撃となり、北東アジアにおける緊張と不安定状態は悪化するだろう。」と語った。
今回準備委員会の議長を務めたペルーのエンリケ・ロマン・モレイ大使は、準備委員会は来年開催予定のNPT運用検討会議に向けた行動計画に合意できなかったことを認めた。ただしその原因は「時間切れのためであって、政治的意思の欠如のためではない。」と述べ、準備委員会は交渉のための場ではないと指摘した。
交渉担当者を悩ませる問題は何かという質問に対してロマン・モレイ大使は、核問題が討論される際には、交渉の対象となる文書の「最初の文字から最後の文字に至るまで」問題が持ちあがる、と語った。
準備委員会が出した「作業文書」(翌年の運用検討会議に示す「勧告案」に各国が同意できなかったため議長の勧告草案を修正する形で各国の意見を列挙したもの:IPSJ)が、運用検討会議における先々の交渉の基礎となる。
NPTでは、全ての加盟国が、非核兵器国に核兵器を移転したり、あるいは、核兵器の製造または取得を支援または奨励してはならないことになっている。
同様に、各非核兵器国は、核兵器を受領したり製造・取得したりしない義務を負っている。
バローズ氏は、「今回の準備委員会は、これまでの運用検討会議に先立つ準備委員会と同じく、運用検討会議に向けた勧告に関して合意に至ることができませんでした。」と語った。
多くの国が、妥協的文書(勧告草案)を採択しようとするロマン・モレイ議長の努力に協力しなかった。この点についてバローズ氏は、「公式核保有国が、核軍備管理・核軍縮に関して2010年運用検討会議で行った公約を、実質的に次の5年間に持ち越すべきと主張したのに対して、非同盟運動(NAM)やその他の非核兵器国からなる諸グループは、予見可能な将来において、核兵器を検証可能な形で時限を切って廃絶できるような、より包括的な行動計画を採択すべきだと主張して意見が対立したのです。」と語った。
さらに多くの非核兵器国が、ロマン・モレイ議長が提示した勧告草案は、ノルウェーおよびメキシコで開催された「核兵器の非人道性に関する国際会議」、および、国連総会が昨年9月に招集した史上初の「核軍縮に関するハイレベル会合」における勧告内容をもっと十分に取り入れるべきだと主張した。
バローズ氏は、来年の運用検討会議に向けて重要な問いを検討するべく、準備委員会の討論で方向性が打ち出された、と語った。その問いとは、「非核兵器国は、合意された成果に仮に結びつかないとしても、2015年運用検討会議において、核兵器なき世界の実現に関する多国間協議へのうねりを生み出すよう主張すべきか?」というものである。
2010年の運用検討会議ではこうした方向で真剣な努力がなされたが、核保有国からの反対にあった。
「それとも、(非核兵器国は、)1995年、2000年、2010年の運用検討会議でそうであったように、ほとんど実行にも移されないような小幅な合意をまたなすべきだろうか?」とバローズ氏は語った。
しかし、こうした公約のほとんどは、2015年運用検討会議がどうなろうと、依然として有効かつ意義のあるものである。
またカントリーマン氏は、「米国は、5核保有国が合意した共通の枠組みを用いて、2010年行動計画の主要要素の履行に関してこれまでに実施した措置をまとめた我が国の国別報告書を提出する予定です。」「また、疾病対策、食料安全保障の向上、水資源の管理といった原子力の平和利用を進めるための国際原子力機関(IAEA)のプログラムへの我が国の貢献についても強調する予定です。」と語った。(原文へ)
米国務省国際安全保障・不拡散局のトーマス・M・カントリーマン次官補は準備委員会で、「米国政府は2015年会議において、NPTの44年の歴史においてその種のものとしては初めて64項目の包括的な行動計画に合意した2010年運用検討会議の成功を基礎としてゆく所存です。」と語った。
翻訳=IPS Japan
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