【シドニーIDN=カリンガ・セレヴィラトネ】
COVID-19危機は、観光業に依存する太平洋島しょ国に深刻な打撃を与えている。なかでも最大の島しょ国フィジーでは、ホテルや旅行会社など観光関連産業で職を失った人々が、生計維持のため農業や漁業へと活路を求めている。比較的広い国土と豊かな漁場を持つ同国では、自然資源への依存によって危機の衝撃を和らげようとする動きが広がっている。
リゾート施設での仕事を失った36歳のシングルマザー、サイニミリ・ダウヴェレさんは、フィジー国営放送に対し、こうした自然の恵みを「神から授かった資源」と表現し、友人たちに希望を失わないよう呼びかけた。旅行代理店で働いていたリティアナ・ナコウラさんも同様に、「いまは仕事がなく家にいますが、政府の支援が届くのをただ待っているわけではありません。私たちには畑があり、そこで何かをすることができます」と語っている。
南太平洋大学(USP)のジャーナリズム・コーディネーター、シャイレンドラ・シン博士は、首都スバからIDNの取材に応じ、「こうした人々の多くは家族を支えてきた。唯一の稼ぎ手だった人も少なくない。雇用喪失が家計に与えた影響については、いまだ包括的な調査が行われていない」と指摘した。
フィジーでは、観光部門が直接・間接に15万人超の雇用を支えている。2018年の国勢調査によると、人口は88万3483人。観光業は国内総生産(GDP)の3割強を占め、同年の観光客到着数は87万309人と、総人口にほぼ匹敵する規模に達していた。
シン博士は、「フィジーには福祉制度がないため、影響を受けた家族への打撃は極めて深刻だとみてよい」と述べる。そのうえで、「農業や漁業は、食卓に食べ物を並べ、多少の現金収入を得るための一時的手段にはなり得る。しかし多くの場合、定期雇用に支えられていた観光業の継続的な収入を補うには到底及ばない」と語った。
一方で、USPで災害リスク管理の監督・調整を担うビラム・レセ氏は、やや異なる見方を示している。大学が実施した失業調査の結果をめぐるオンライン討論会で、同氏は、パンデミックが結果として失業を減らした側面もあると主張した。
レセ氏は、「失業」とは、働く能力がありながら就労せず、家計を支えるうえで貢献していない状態を指すと説明する。そして、「ロックダウンにより、働くことのできる人々が村や地域共同体へ戻り、家庭菜園やその他の活動に従事することで、地域社会に貢献する一員になっている」と述べた。つまり、彼らは必ずしも「失業者」ではないというのである。同氏はまた、庭の作物や家族農園、海から得られる食料への依存が高まっている現状を強調した。
フィジー事故補償委員会が9月初めに公表した報告書によると、2020年6月期の観光収入は同年3月期に比べて98.6%減少した。6月期の観光収入は420万フィジードル(190万米ドル)にとどまり、前年同期の5億2880万フィジードル(2億4881万米ドル)から99.2%も落ち込んだ。
世界銀行グループの国際金融公社(IFC)が2020年7月に公表した「フィジーCOVID-19企業調査:観光業特集」によれば、調査対象となった観光業関連企業の50%が休眠状態または完全閉鎖に追い込まれ、35%は人員削減を伴いながら営業を継続している。「この状況が今後6カ月以内に改善しなければ、調査対象の観光業企業の29%、非観光業企業の11%、計約500社が倒産する見通しだ」と、IFCのオーストラリア・南太平洋地域担当カントリーマネージャー、トーマス・ジェイコブ氏は警告した。
これに対し、ファイヤズ・シディク・コヤ商業・貿易・観光相は、「フィジー経済は2020年に推計21.7%のGDP縮小という過去最大級の落ち込みを記録し、失業率は27%まで上昇すると予測されている」と述べた。
IFC報告書はまた、観光業企業の20%がすでに債務返済不能の状態にあり、さらに観光業企業の16%、非観光業企業の11%が、今後1~4カ月以内に債務不履行に陥る可能性があると指摘している。
国営航空会社フィジー航空は便数の95%を運休しており、経営破綻寸前との見方も出ている。さらに、パンデミック発生以降、279のホテルやリゾートが閉鎖され、その数はいまなお増え続けている。地元旅行会社Rosie Holidaysのマネージャー、トニー・ウィットン氏は、観光業の回復は少なくとも2021年末までは見込めないとの見通しを示している。
3月に国境を閉鎖し、フィジー最大の観光市場を断ったオーストラリアは、最近になってフィジー経済への支援策を示唆している。フィジー駐在オーストラリア高等弁務官ジョン・フィークス氏は、国境再開と渡航手続きの整備後、フィジー人や他の太平洋島しょ国出身者に雇用機会を提供する可能性をキャンベラが検討していると述べたと報じられている。オーストラリアでは、農業、園芸、食品生産分野で労働力不足が生じている。実際、9月初めには、バヌアツから果物収穫労働者を乗せたチャーター便がオーストラリアの農場へ向かった。
もっとも、COVID-19の打撃以前から、気候変動はすでに太平洋島しょ国とその観光産業に影響を及ぼし始めていた。このため、太平洋グローバリゼーション・ネットワーク(PANG)のコーディネーター、モーリーン・ペンジュエル氏は、フィジーや太平洋島しょ国がポストCOVID-19期の観光回復を図るうえでは、気候変動の影響に対応する環境的視点を組み込む必要があると指摘する。
同氏は、「フィジーや他の開発途上国が適応し、生き残るためには、変化の激しい将来に柔軟に対応できる余地を確保しなければならない。そのためには、自由貿易協定によって産業育成に必要な政策空間を手放してはならない」と警告している。
フィジーのボレケ・バイニマラマ首相は、9月のVirtual Island Summit 2020で、「この新たな危機は、すでに気候変動の最前線に立たされていた国々にとって、不運な運命の転換である」と述べた。そのうえで、「いま私たちは、気候変動と感染症という二重の危機に直面している。島しょ国はこれまで以上に結束した声を上げなければならない」と訴え、危機克服のためには「適応と革新」が必要だと強調した。
だが、フィジーの行動余地は巨額の債務によって大きく制約されかねない。政府は7月、COVID-19の影響に対処するため、20億フィジードル(9億2700万米ドル)の景気刺激策を予算の一環として打ち出したが、その結果、債務残高の対GDP比は83.4%に達した。
シン博士は、「私たちは借りた時間と借りた金の上で生きている」と語る。そして、「問題は『あとどれだけ持ちこたえられるのか』ということだ。もう一つの問いは、この前例のない災厄に直面して、政府に他の選択肢があったのかという点である」と述べた。(原文へ)
INPS Japan
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