ニュース五大国が核軍縮について協議

五大国が核軍縮について協議

【ロンドンIDN=トニー・ロビンソン】

国連安全保障理事会で拒否権を持つ五大国(米国、英国、中国、フランス、ロシア:いわゆるP5)が6月30日と7月1日の両日パリで会合を持ち、地球の生存と関係する大問題について協議した。その問題とは、核軍縮のことである。

この会合は、2010年5月にニューヨークで開かれた核不拡散条約(NPT)運用検討会議と、2009年9月にロンドンで開かれた、軍縮と不拡散に向けた信頼醸成措置に関する会議のフォローアップとして開催された。

 核兵器保有五大国は、予想どおり、NPT体制と2010年NPT運用検討会議での行動計画への無条件の支持を再確認した。パリ会合での明確な成果としては、ロンドンで2011年内に技術専門家会合を開いて検証問題の議論を継続するとしたこと、2012年5月に次のNPT再検討サイクルが始まるときにウィーンで再度会合を持つと決めたことであろう。

今回の会合では主に透明性と相互信頼の問題が協議された。確かに望む条約なら何でも署名することが可能である。しかし、西側が人権や資源の支配をめぐって好戦的な態度を取っていることを考えれば、軍縮が検証措置によって証明されなければ、中国やロシアがみずからの核抑止力を放棄することはないだろう。なぜなら、その核抑止力こそが、米国に対する唯一の交渉材料として機能するように見えるからである。この点については、北朝鮮の例を見ればわかりやすい。

たとえ地球上の写真を1平方メートルごとに衛星で撮っていたとしても、検証措置がいかにして可能なのかを想像することは難しい。五大国のすべてが、合法で十分なレベルの通常兵器技術を保有している。中国、ロシア、米国には、地球上のあらゆる場所に対して爆弾投下が可能なロケットを制作する宇宙計画があり、欧州にも南米からロケットを打ち上げる独自の宇宙計画がある。

アフガニスタンで実際に使用できるまでに開発が進んでいる米国の無人機技術は、運搬技術がますます先端化していることを示している。そしてもちろん、P5のすべてが、それぞれがまさに軍事用途で開発してきた原子力発電所で生産される、爆弾用の核物質を保有している。

これらすべての要素が手元にあるとすれば、世界のすべての国がNPTに100%従っていたとしても、新たに核兵器を製造するのに数ヶ月以上はかからないだろう。40ヶ国以上がすでに原子炉を保有しているか、今後保有する計画を持っている。

P5による議論のもうひとつの領域は、条約からの脱退という問題である。NPT第10条は、国連へ3ヵ月前に通告すれば、条約から脱退することができると定めている。ただし、「自国の至高の利益を危うくしていると認める異常な事態についても記載」することが条件である。

この条項をこれまでに発動したのは北朝鮮だけだが、P5にとっては他国がこれに追随することがないようにすることが至上命題である。この点についてイランに対するメッセージは明確である。イランが原子炉を開発しており、ウラン濃縮技術が核爆弾製造可能なレベルに達しているとすれば、イランがみずからのエネルギー政策は安全なものであるとの意図を明確にするかどうかに関わらず、同国が北朝鮮と同じ方法で自国の安全保障を担保しようと試みている意図を疑う国はないだろう。

イランの動きはNPTにとって大きな制約となっている。というのも、サウジアラビアのトゥルキ・ファイサル王子がつい最近、英国でのある会合において、もしイランが核兵器を開発するならサウジアラビアもそれに続くとNATOに通告したのである。

NPT

NPTの重要性は、それが、核科学の平和目的と軍事目的の微妙なバランスの上に成り立っている点にある。石油や石炭、ガスの供給に限界があることを見越して、制御された原子炉の中で膨大な量のエネルギーを放出させるポテンシャルは、アルベルト・アインシュタイン博士がE=mc2という等式を発見して以来、世界全体が何とかして利用しようと試みたものである。

唯一の問題は、ウランによって生み出された核エネルギーの副産物が、核兵器にとっては不可欠の要素となるプルトニウムであるという点である。

NPT創設時に取り組まれた問題は、核兵器を作るだけの量のプルトニウムを集積することを否定しながら、いかにして加盟国に核エネルギーへの「権利」追求を認めるのか、ということだった。

こうしたパラドックスのなかから、三本柱として定式化されるNPTが生み出されることになる。三本柱とは、1)P5以外の国への核兵器の不拡散(第1条・第2条)、2)既存の核兵器国による軍縮(第6条)、3)核エネルギー追求の「権利」である(第4条)。

NPTが交渉されたのは1960年代のことである。つまり、スリーマイル島やチェルノブイリ、福島第一の原発事故が、放射性物質が原子炉の格納容器を突き抜け人類の制御から逃れるときに引き起こされる恐怖を見せつけ、世界の意識をかき乱すはるか前のことである。そしてまた、原子力産業が米国をはじめ各国で巨大なロビー勢力に成長するはるか前のことである。

現在190ヶ国がNPTに加盟している。しかし、P5よりも後に核クラブに加入したインド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮の4ヶ国のすべてが、NPTに加盟していない。世界の核軍縮交渉が困難に陥っている所以である。

三本柱

NPTの三本柱に関して、世界は今どういう位置に立っているのだろうか?

◆不拡散:1970年には5ヶ国のみが核兵器製造能力を持つ地点にいたが、その後、核兵器国は全部で9カ国になった。インド(1974年)、パキスタン(1998年)、北朝鮮(2006年)があり、核保有を否定も肯定もしないが実際には保有していると広く考えられているイスラエルがある。

さらに、5つのNATO諸国(ベルギー・オランダ・ドイツ・イタリア・トルコ)が、NPT第1条・第2条に違反して、米国の核兵器の自国領土への導入を認めている(核兵器共有政策)。イランの意図に関する疑いは残っているが、本稿執筆時点では、イランが実際に核保有に至る段階に近づいていると考える者はいない。

◆核エネルギー:国際原子力機関(IAEA)によると、29ヶ国が原子力発電所によってエネルギーを生み出しており、さらに18ヶ国が原子力発電所の計画、建設、調査段階にある。

◆軍縮:約6万5000発の核弾頭―そのそれぞれが日本に落とされた2発の核爆弾より格段に大きい破壊力を持つ―と相互確証破壊(MAD)というドクトリンの存在した冷戦の高揚期からソ連崩壊以降にかけて、核弾頭の数は減ってきた。現在世界の弾頭数は約2万2000発で、その9割を米国とロシアが保有している。

核軍縮の進展を妨げているものは、核兵器製造がひとつの巨大産業になっているという事実である。「グローバル・ゼロ」によれば、今後10年間で、核兵器だけのために1兆ドルもの資金が費やされるだろうという。これは莫大な額であり、核兵器産業の関係者なら、この状況をなんとか長続きさせようと必死になるであろう。

CTBT

P5パリ会合は、核爆発実験を禁止する包括的核実験禁止条約(CTBT)を議題とした。P5のうち、米国と中国はまだ同条約を批准していない。イランとイスラエルは署名だけは済ませているが、インドやパキスタン、北朝鮮は、署名すらしていない。

バラク・オバマ大統領は、CTBT批准を2008年の大統領選の公約の一つにした。配備されている核弾頭の数を減らす新STARTの批准を共和党優位の上院で勝ち取るための条件として、核兵器近代化計画に1850億ドルもの出費をオバマ政権が強いられたことを考えると、彼の2期目中に予想されるCTBT批准に向けた努力がいったいどれだけのものと引き換えにされるのか、考え込まざるをえない。

FMCT

P5パリ会合で関心を集めたもうひとつの条約は、核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)である。これは現在、軍備管理・軍縮問題を話し合う国際機関であるジュネーブ軍縮会議(CD)の議題になっている。

CDは過去に、生物兵器や化学兵器を禁止する条約の確立に向けた議論の場になったこともある。現在はFMCTを交渉する任務が与えられているが、パキスタンが作業プログラムへとつながるすべての動きを拒絶している。

非核中東

最後に、P5パリ会合は、非核地帯を中東に設立するための2012年の会議開催に向けて取られているステップを歓迎した。地球のほとんどの地域はすでに非核地帯で覆われており、1995年のNPT運用検討会議以来、中東の非核地帯化は常に議題であり続けてきた。イランはしばしばこうした方向性を主唱し、2010年5月のNPT運用検討会議で、この行動計画[訳注:2012年に中東非核地帯化に向けた国際会議を開くこと]が合意され、イスラエルに非核兵器国としてNPTに加わるよう呼びかけられたことは、驚きであった。

これは、きわめて興味深い見通しを与えてくれる。イスラエルは広く核兵器国だと考えられているが、「あいまい政策」を長らく採ってきた。2010年のNPT運用検討会議は、イスラエルを名指しして条約署名を求めた。これはイスラエルにとって驚きであり、[再検討会議の]最終合意は「著しく欠陥があり偽善的なものであり」、「中東の現実と、中東と世界全体が直面している真の脅威を無視するもの」だという政府声明が出されることになった。

同声明は、「イスラエルは、NPT非加盟国として、イスラエルに対して何の権限もないこの会議の決定に拘束されることはない。この最終決定はゆがめられたものであり、イスラエルはその履行に加わることはできない」と結論付けている。

これは2010年に起こったことである。それ以降、イスラエルを取り巻く環境は相当に変わっている。「アラブの春」がチュニジアとエジプトの政府を崩壊させ、リビアとシリアでは内戦が起こり、バーレーンやイエメンなどでは民衆からの絶え間ない抗議活動が続いている。

P5は2012年に中東非大量破壊兵器地帯化に関する会議を開くために米国・ロシア・英国がとった措置を歓迎したが、会議が実際開かれるかどうかはまだわからない。

市民社会

しかし、各国政府がいっこうに軍縮交渉を始めようとしないことに業を煮やした市民社会は、圧力をかけ続けるための活動を続けている。約200の反核団体からなる核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)は、P5パリ会合に合わせて、6月25日を「2011年核廃絶の日」と宣言し、市民の意識を高め世界の関心をフランスでの会合に向けさせるよう25ヶ国でイベントを行った。

1984年のノーベル平和賞受賞者であるデズモンド・ツツ師は、圧力をかけ続けるよう市民社会に呼びかけた。「プロジェクト・シンジケート」に掲載されたコラムでツツ師はこう書いている。「我々は、一部の国だけが核兵器を持つことが正当であり他国がそれを持とうとすることは許容されないという核のアパルトヘイトのシステムを許してはならない。そうしたダブル・スタンダードは、世界の平和と安全の基礎にはなりえない。NPTは、五大国が核兵器に永久に固執することを認める免状ではない。国際司法裁判所は、核兵器の完全廃棄に向かって核兵器国が誠実に交渉に臨む義務があると判示しているのである。」

ツツ師はさらに、「都市を丸ごと破壊するとの脅しがいかに非人道的であるかということを各国政府が認めるようになるときが来るであろう。こうした兵器は不必要であり、暴力の支配ではなく法の支配が至高のものと認められ、協力こそが国際平和をもっともよく保証するものであるような世界を目指して、彼らはともに努力するようになるであろう。」と付け加えた。

これは「反核の春」への呼びかけである。人々は耳を傾けるであろうか?残念ながら、メディアが核の惨禍に注目するようになるまでは、答えはおそらく「ノー」だろう。

60年代の核の愚行に向かう時代の中で、ジョン・F・ケネディ大統領は、核兵器廃絶への動きを生み出すべく、国連でこう演説した。「今日、地球上のあらゆる生物が、この地球がもはや住める場所ではなくなってしまう日のことを考えざるを得ない。老若男女が核の『ダモクレスの剣』の下で生きている。その剣はきわめて細い糸だけで吊るされており、偶然にか勘違いによってか、あるいは狂気によってか、いつでも断ち切られてしまうようなものである。戦争の兵器は、それが私たちを滅ぼしてしまう前に、廃絶されねばならない。」

この演説から50年後、核はまだこの世界にある。核のホロコーストの脅威も消えていない。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service(IPS) and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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