【ニューデリーSciDev.Net=ランジット・デブラジ】
インドで人工知能(AI)を活用したモンスーン予測が成功したことにより、他地域での気象予測モデル開発が加速している。米国の科学者によれば、この成果を基盤に今後30か国が恩恵を受ける見通しである。
シカゴ大学「人間中心型気象予測イニシアチブ(Human-Centred Weather Forecasts)」共同ディレクターのペドラム・ハッサンザデ氏は次のように語る。「インドでのモンスーン予測の成功に触発され、シカゴ大学はゲイツ財団の支援を受け、東西アフリカで既存モデルの比較検証(ベンチマーク)を開始しました。焦点は雨季と熱波の予測にあります。」
ベンチマークとは、従来型モデルとAIモデルの双方が、季節的なモンスーンの開始や進行といった重要な大気現象をどの程度正確に予測できるかを検証する手法である。
ハッサンザデ氏は「インドや他地域でも、予測精度を検証できれば、さらに多くの応用が可能になる。」と語った。「ただし、比較検証には時間と資金が必要です。既存手法の力を最大限に引き出し、リアルタイムの予測生成と大規模な情報発信を実現するには、十分なリソースが欠かせません。」

今夏、AIを活用したニューラル大循環モデル(NeuralGCM)による予測が、モンスーン雨期の到来4週間前から運用され、3,800万人のインド農民がその恩恵を受けた。
NeuralGCMは、従来の物理法則に基づく予測と機械学習を組み合わせて地球大気をシミュレーションするハイブリッド型モデルである。
グーグルが開発した同モデルは、他のAI気象モデルや物理モデルとの比較試験でも優れた計算効率と精度を示し、複数の気象・気候指標で高い性能を証明した。このモデルは今後2年以内に世界30か国で導入される予定である。
インドでは、同モデルがモンスーンの進行が約3週間停滞することを正確に予測した。モンスーンは例年6月初旬にインド南端で始まり、徐々に北上する。AIによる予測により、農民たちは作付け時期など重要な判断をより的確に下すことができた。研究はインド政府と協力するシカゴ大学「気候・持続可能成長研究所」の研究者によって実施された。
このAIモデルは、ラップトップ上でも動作するソフトウェアで構築されており、高精度の予測を科学者や農民が直接活用できる。一方、従来型の気象モデルは膨大なコストを要し、スーパーコンピューターによる解析が不可欠である。
インド農業省のプラモド・クマール・メヘルダ上級官は、「このプログラムは、AIによる気象予測の革新を活用し、安定した降雨の開始を予測することで、農民が自信をもって営農計画を立て、リスクを管理できるようにするものです。」と語った。
シカゴ大学の経済学者で同イニシアチブ共同ディレクターのマイケル・クレーマー氏は、AI気象予測の普及は極めて高い投資効果をもたらすとし、「政府の1ドルの投資で、農民に100ドル以上の利益を生む可能性がある」と語った。クレーマー氏は、気候変動の影響を最も受けやすい小規模農家にとって、この取り組みが特に有用だと強調する。
一方、インドの農業科学者らは、このAIモデルがすべての関係者に有用なデータを提供できるよう、さらなる改良が必要だと指摘する。
ハイデラバードの乾燥地農業中央研究所の主任科学者で植物生理学者のアルン・シャンカー氏は次のように語った。
「3,800万人の農民に情報を届けるのは見事ですが、内容には降雨シグナルだけでなく、土壌水分、蒸気圧不足、熱ストレス予報、作物生育段階への感受性データを組み合わせるべきです。」さらに「播種時期を誤れば、早期降雨の誤報によって苗が枯死し、再播種の費用やシーズンの損失につながる恐れがあります」と警鐘を鳴らした。

「人間中心型気象予測イニシアチブ」の研究者たちは、他の中低所得国でも同様のプログラムを展開し、AIモデルの効果的な活用法を気象学者に指導している。
同プログラムは今年始動し、現在はバングラデシュ、チリ、エチオピア、ケニア、ナイジェリアの5か国と提携している。シカゴ大学によれば、2026年にはさらに10か国、2027年には15か国を追加し、数百万人の農民に恩恵を広げる計画である。
ハッサンザデ氏は次のように結んだ。
「現在のAI気象モデルは、科学分野におけるAIの最大の成果の一つですが、私たちは今、AI主導による“第2の気象予測革命”の幕開けに立ち会っていると感じています。」(原文へ)
INPS Japan
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