【ローマIPS=ヴィオレル・グトゥ】
土壌の劣化、大気汚染、生物多様性の喪失、植物や動物の健康問題の増加など、多くの危機が同時に進行しています。水の安全保障は、個人、各国、そして世界全体が直面する数多くの課題の1つに過ぎません。しかし、私たちは、水が人間の体の大部分を占めているのと同様に、動植物、さらには地球の表面にも欠かせない要素であることを忘れてはなりません。水の不安定性は決して小さな問題ではなく、今世紀最大の課題の一つです。

水の安全保障は、人々が食卓に食料を確保するために不可欠です。それだけでなく、水の安全保障は、食料と農業セクターの効率性、包摂性、回復力、持続可能性を高める変革の原動力でもあります。1945年の設立以来、国際連合食糧農業機関(FAO)は自然資源管理の向上を提唱してきました。そして最近では、持続可能な水管理の実践を促進することが、農民のレジリエンス(回復力)を確保し、食料安全保障を守るための必須条件であると、ますます強く訴えています。
ヨーロッパと中央アジアの50カ国以上も、この状況の例外ではありません。水の不安定性が農業・食料システムを脅かし、不平等を悪化させ、持続可能な未来への進展を妨げています。こうした理由から、2024年4月2日に発表予定の「ヨーロッパ・中央アジア食料安全保障と栄養に関する地域概観報告書」では、水の安全保障を主要テーマに掲げ、農業、食料安全保障、栄養との関係に光を当てています。
拡大する水の不安定性と不平等な影響
この地域の水の安全保障は、厳しい格差によって特徴づけられています。欧州連合(EU)加盟国の一部では比較的水の安全が保たれていますが、中央アジア、コーカサス、西バルカン地域に住む人々は大きな課題に直面しています。特にタジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタンは、この地域で最も水の安全保障が低い国々であり、時には水の消費量が利用可能な資源を上回ることもあります。さらに、老朽化した灌漑インフラによる非効率性や水の損失が状況を悪化させています。

人々への影響も深刻です。洪水や干ばつは100万人以上に影響を及ぼし、地域全体で140億ドルの損害をもたらしています。そして、ここで重要なのは気候変動です。
気候変動と水需要の増加は、この地域全体で水不足をさらに悪化させています。降水パターンの変動、氷河の融解、干ばつの頻発と激化は、農業、特に農民に大きな打撃を与えています。また、この地域の一部では、上流国(キルギス、タジキスタン)での水力発電のエネルギー需要と、下流国の灌漑需要が競合し、協調的かつ国境を越えた水管理の必要性が浮き彫りになっています。
水の安全保障は「量」だけでなく「質」にも関係しています。この側面を見過ごしてはなりません。多くの地域では、農業が肥料や農薬の流出を通じて水質汚染の大きな要因となっており、食料安全性や土壌の健康を損なっています。特に農村地域では、適切な水、衛生、衛生設備の確保が食料安全保障にとって極めて重要です。
解決への道筋:イノベーションとガバナンスの強化

食料と水の安全保障に関する課題の複雑さと相互関連性は、革新的な解決策と強固なガバナンスを必要としています。FAOは、「水・エネルギー・食料・生態系の相互関係(ネクサス)」 アプローチを提唱しており、統合的な資源管理と関係するすべてのセクターのニーズを考慮することを重視しています。
この包括的アプローチには、次のような革新的な手法がすでに貢献しています。
- 精密農業とデジタル農業
- エネルギー効率の高い灌漑システム
- 処理済み排水の再利用
- 自然に基づいた解決策(例:キルギスの人工氷河プロジェクト)
FAOは、80年の経験を活かして、ヨーロッパと中央アジア諸国が気候レジリエンス(回復力)と水のガバナンスを強化する支援を続けています。その取り組みの一環として、「地域水不足イニシアティブ」 を通じて、灌漑の近代化、干ばつへの対応力強化、水質改善を推進しています。また、タジキスタンやトルクメニスタンでは、「ワン・ヘルス(One Health)」 アプローチのもと、水・衛生・衛生基準の向上が図られています。さらに、「水不足に関する地域間技術プラットフォーム」 によって、グローバルな協力と知識の共有が促進され、各国の食料と水の安全保障に貢献しています。
水の管理に持続可能な形で投資することは、食料安全保障、平和、そして繁栄という形で、ヨーロッパ、中央アジア、そして世界中の将来世代に大きな恩恵をもたらします。(原文へ)
INPS Japan/IPS UN BUREAU
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